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2008年5月 6日 (火)

映画「実録・連合赤軍 あさま山荘への道標」

「実録・連合赤軍 あさま山荘への道標」

監督: 若松孝二
脚本: 若松孝二,掛川正幸,大友麻子
撮影: 辻智彦,戸田義久
音楽: ジム・オルーク
美術: 伊藤ゲン
録音: 久保田幸雄
照明: 大久保礼司
編集: 若松孝二
出演: 地曳 豪,並木 愛枝,ARATA,坂井 真紀,莵田高城,タモト清嵐,奥貫 薫

時間: 3時間10分(190分)
製作年: 2007年/日本
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この映画では印象的な食事のシーンが三回ある。

1) 主人公達がリンチによって死者を出したにも関らずリーダー格の
   永田洋子(並木 愛枝)が大晦日だといってが同志達に振舞い、
  一同で食すシーン。人間として超えてはならない一線を越えた心を失くした者達の
  背筋が寒くなるほど不味そうな晩餐シーン。

2) あさま山荘に逃げ込んだ主人公達が空腹で一心腐乱にカレーを
  ほおばるシーン。

3) 人質となったあさま山荘の管理人(奥貫 薫)が作ったおにぎりを
  主人公達が食べるシーン。

3)だけが一番簡素でありながら"人"が作った一番まっとうな食事として
 の圧倒的な輝きを放っている。もしかしたら大罪を犯した彼らに"心"
 を回復させる力すらあるかもしれない食事。

そして劇中には登場しないが、事件当時山荘の包囲を続ける極寒の現場で
警官達に振舞われた食べ物が『カップラーメン』でありこれにより
世間に事実上初めて認知され浸透した食品である(あさま山荘事件
戦後初めてテレビで生中継された大事件且つ凶悪犯罪であった)。

私個人としてはあさま山荘事件と言えば、自分が生まれた前後で
起きた事件であるということと、『カップラーメンの登場』が二大イメージ
であり、この事件を契機に60年代から続いてきた"安保闘争的なもの"は
恐らく多くの人にとって急速に過去のものになり今に続く"消費社会"の
基盤が確立したことを思うとこの時に現場に投入された
"カップラーメン"はイコンとしては決して小さくないと思う。というか
この事件を境とした時代の断層のイコン足り得ると思う。

事件当時、机上の理論をひたすら研ぎ澄ませて行って暴走して
しまった主人公達に世間は同情的な感情をどこかで抱いていたが
「総括」と称して内部で凄惨なリンチによる殺人を繰り返して
いたことが明るみになると世間の彼ら反体制的な運動への評価も一変した。
彼らは"同志"であった身篭った女性までも胎児もろとも殺害していた。。

本作を観に行った動機は
「あさま山荘への道標(みち)」とタイトルで打ち、"実録"とまで
称していることに果たしてどこまで迫れているのか事件前後に
生まれた人間の一人として観てみたいと思ったからだ。

タイトルに相応しい素晴らしい出来だった。
というか率直に言って"凄い作品"だった。

そしてその内容と完成度の高さはこの映画の完成と公開がここ
最近の日本映画の中では事件と言っていいと思う。
激しく『肯定』していい画期的な事件

安保闘争の実際の映像を前半に多く盛り込み登場人物達をその他
大勢として描いていきしだいに外部との関係を自ら望んでシャット
アウトしていく様を丁寧に[暴き出していく]。3時間超という上映
時間は全く長く感じなかった。

音楽の使い方が面白い。彼らに同調するような情調的な曲は
敢えて使用せず奇妙にポップな雰囲気の音を随所に入れることで
60年代70年代の気分を出しつつ、高邁な言葉を使いながらも何かが
次々と狂っていきやがて凄惨な事件の主達になる登場人物達の
心情とは確実に距離を置くことで作品は観客を置いていっていない。

後半次々に心身共に破壊されて殺害されていく彼らの無残な姿が
画面一杯に展開された時は一転して斃れていく彼らの後悔の念を
滲ませるような哀しい曲がかかる。上手いと思った。

リンチシーンは個人的にこのテーマの映画としては最高の出来だと思う。
本作以上に血生臭く描いてしまえば最早鑑賞に堪えられず
テーマも何もあったものではなくなる。かといって暴力シーンを
避けてしまえば作った意味そのものが無くなり下手をすれば
無邪気なテロ賛美・反体制賛美の駄作に堕ちてしまう。

ブレーキが全く機能しなくなった男女の集団心理と完全に閉塞された空間で
とめどなく起こる最悪の結末を見事なギリギリのバランスで描いていると思う。
リンチシーンのクライマックスは坂井真紀演じる遠山美枝子が
自己批判を迫られ自分の顔を痛めつけたあげく、人として女性として
悲しすぎる無意味な最期を遂げるシーンだがこの事件全体を貫く"破綻"
を象徴しているようなシーンで見事に残酷に完成されたシーンだった。
目を覆いたいけど同時に描写することを作り手に避けてほしくなく、且つ
観客は直視しなくてはならない観客と映画の共犯関係がきちんと成立している。

人間の思考を完全に言葉で定義することなど恐らく何人であっても
不可能な話で定義出来たと思ってしまえばそこから思考は
逆に全て言葉に奪われ、その言葉の意味の決定者に生殺与奪の
権利は委ねられるという地獄が始まる。そしてその地獄は最早誰にも
止められない。殺す者が物理的にいなくなるまで地獄は続く。

内ゲバの果てに残った逃走を続けた者達があさま山荘に辿り着く
わけだが映画のテンションが最初からずっと高くそれゆえに
あさま山荘事件そのものは予算的にも描かずにどこかでフェード
アウトして終わるのだろうと思っていたがそれは心地よく裏切られた。

登場人物達の内面そのままに映画は彼ら"だけ"を終始描き悲惨
な暗いシーンが続くのに見終わってみればそれほどもたれずに
冷静でいられるのは最後の事件そのものの籠城銃撃シーンの一連の
描写の素晴らしくパワフルなエンターテイメント性にあり、加えて籠城する
主人公達があさま山荘の管理人という"外界の人間"に接触することで
生じる微妙な意識の変化もしっかり捉えられているからだと思う。
本作が海外で評価されるのも当然だろう。

本作を作った人々。演じた人々。劇場に足を運んだ人々。
この映画に携わった全ての人々が今後の日本と日本映画について
それぞれが考えてそれぞれが出来ることをしていけば
何かがきっとよりよい方向に変わっていくだろうと思った。

この作品は今後の日本映画に確かな一筋の光を差し込んだ。
製作に携わった全ての人々の今後の活躍を期待したい。
 
 
 
 
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コメント

この映画まだ見てないなぁ・・・
浅間山荘詳しくは知らないんで
いつかは見たいなと思いながら
見たいリストのかなりの後なので・・・
しかし
学生運動やってた人なんかに話聞くとあの時代はよかった、それに比べて今の若者はって感じで誇らしげに話すけど
結局
僕には今の若者と何が違うかわからない
安保闘争ってほとんどの人にとっては一過性の流行りでしかなくて
青春のエネルギーをぶつける対象がたまたまそれだっただけというか
それがかっこよくてモテたからだけというか・・・
まぁ
この人たちはかなり異端で
まぁある意味オウムとかと一緒で病んだ人たちなのかなぁって印象です

投稿: 万物創造房店主 | 2008年5月 8日 (木) 21時34分

>あの時代はよかった、それに比べて
私はこう言われた場合は詳細に相手に気が済むまで
喋らせますが、これまでの統計では大概こういう
こと言う人は「なんちゃって」ですね。
宮崎駿とか本当に理想に燃えて運動して
本当に挫折した人は逆に卑下して当時を
語っています。「自分達は敗北者」だと。
国に若さだけを楯に一時だけ反抗して結局はちゃっかり
朝鮮戦争特需とかの波に自分等も乗って高度経済社会の
恩恵に預かってサラリーマンして家建てて
海外旅行して喜んでいる。。
 
>かっこよくてモテた
映画ではその辺のもどかしい葛藤と屈折した心情も
なかなかよく描いていました(^^)

>まぁある意味オウムとかと一緒
観ている間、何回もオウム事件とオーバーラップ
しました。多分製作者サイドの意図でもあると思いますね。
狂気と純粋は紙一重であって時に同一でもありますね。
だから「不純」というのは実はとても健全で且つ民主的
であって大人な感性なんですよね(^^)
純粋真っ直ぐと無知がミックスされた大人が多くなって
しまった今の日本はもう大変危険でこの映画の登場人物を
嗤う資格など欠片もないっすね。
不純万歳!エロ万歳!(って違うか)

投稿: kuroneko | 2008年5月 9日 (金) 01時37分

まぁ何を純粋とするかは難しいですけど
真に純粋な人間なんてまずありえないし
そう思ってる人は妄想にとりつかれてるだけなんだと思います
そして自分を純粋に見せるには他人を自分より不純な人物に設定すれば楽なわけで
何か事件が起こるたびにある正義のフリをした電話攻撃やネット上での攻撃も
日本が特定アジアに謝罪せよとがんばっている人たちも
なんか共通項でくくれちゃいそうな気がします
自分を聖者と証明したいがために魔女狩りを行うような感じですよね

投稿: 万物創造房店主 | 2008年5月11日 (日) 18時36分

>そう思ってる人は妄想にとりつかれてるだけ
私の実測ではとりつかれているというより
1)明確に嘘を付いている
2)軽度~重度のロマンチスト
3)単に自己分析が全くできていない
かのどれかすね。
実際に出会った人間では1)が多いすね。
また1)にコロッと騙される女の子も多い。
1)の人間を追及するとその女の子から
自動的に糾弾され御本人は狡猾だから同情票を
巧みに集めつつ陰湿な報復を執拗に行い、さらに
同情票を入れる浅はかな方々からも白い目で
見られ孤立するという三重苦に苦しめられますね(ーー;)
映画はその辺の恐怖システムも明確に描かれていて
やっぱしなかなかの力作だと思います。

投稿: kuroneko | 2008年5月12日 (月) 00時10分

この場合
1)の人の目的ってなんですか?
モテることっすか?

投稿: 万物創造房店主 | 2008年5月13日 (火) 19時48分

うーん「独占する」っていう欲求が強い
気がしますね。そもそも自己の目的が
はっきりしないというのもあると思います。
ところでモテるって以外と個人差が大きい概念
かと(^^)


投稿: kuroneko | 2008年5月13日 (火) 22時52分

そういや
坂井真紀のドラム缶お風呂シーンって
いらない
無駄脱ぎシーンのような気がするんですが
どうなんでしょ・・・
 
なんかあそこだけ浮いてて???でした

投稿: 万物創造房店主 | 2012年8月20日 (月) 19時47分

>ドラム缶お風呂シーン
 
坂井真紀でしたっけ、
別の女優さんだった気が、、(^^;)
仰る通り無駄にソフトエロだったすね。
静香ちゃんの入浴シーンみたいな感じで。←違う
まあ若松孝二視点の「青春賛歌」でもありますからね。
  
>なんかあそこだけ浮いてて???でした
 
全裸で埋められちゃう女優さんいましたよね。
体張ってるけど上からのロングショットで仕方ないけど
可哀相な気もしました。
↑個人的に浮いていたと感じたシーン(^^)
 
それにしても、、満点(☆☆☆☆☆)かよ!当時の俺!
今となっては全体的にちょいと褒めすぎの感想文すね。。
(;・∀・)
でも、今でも私的には「観て欲しい」作品ではあるので
☆☆☆☆+かな(^^;)
 
真面目な話し、
この作品を観て犯人側に感情移入するのが全体の多数
となるほどほど今の若者はお馬鹿ではないと思いますね。
この作品を取っ掛かりにして
「戦後の平和ボケ」
について冷静に考察する若者は出てきてくれると
私は期待したいです(^o^)/

投稿: kuroneko | 2012年8月21日 (火) 01時48分

>全裸で埋められちゃう女優さんいましたよね。
いましたいました
 
アレも唐突に裸でしたね
 
とりあえず裸見たかったんですかね・・・
 
>犯人側に感情移入するのが全体の多数となるほど
気持ち悪い人たちの集まりな雰囲気は出てたんで
そのあたりはきちっと作られていたと思います
 
誰も感情移入できないでしょう・・・
オウムの人でも・・・
トウキョウアイヌの人でも・・・

投稿: 万物創造房店主 | 2012年8月24日 (金) 21時41分

>アレも唐突に裸でしたね
 
脱いだ女優さん出来を見て微妙な心境だったのでは(^^;)
「せっかく体張ったのに、、遠い」(ーー;)とか。
 
>とりあえず裸見たかったんですかね・・・ 
 
輪姦を暗示していると思うのですが。
どうでしょうね。
  
>そのあたりはきちっと作られていたと思います
 
感想文に書いてある通り
「空論に自ら囚われていく様」をよく描写出来ていると思います。
ロジックのシステムは異なるけど同じく「囚われていく」様を
「11・25自決の日 三島由紀夫と仲間たち」もまたなかなか
良く出来ていると思います。
 
>誰も感情移入できないでしょう・・・
 
オウムの方々は共感するんじゃないですかね。
暴走具合が。
 
この作品は都内では結構ロングヒットしていたし、
自分が鑑賞した時も「熱気」を感じましたね。
左崩れの方々や「運動」にコミットしていた、または
コミットしたかった方々らしき人々で盛況でした(^^;)
 
それにしても今の官邸周辺での騒ぎといい
「正義」を正しく国民に"広く還元できるように"行使
するのはこれほどまでに難しいのか、、
60年代・70年代で何を誤ったのか、
全然「総括」できていない感じすね(ーー;)

エコだ何だ騒いでいる間に
国が獲られてしまうぞえ、、(>_<。

投稿: kuroneko | 2012年8月25日 (土) 02時44分

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