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2008年9月 5日 (金)

映画「スカイ・クロラ」

2008年に見た映画(十九) 「スカイ・クロラ」

原題名: スカイ・クロラ The Sky Crawlers
監督: 押井守
出演(声): 菊地凛子,加瀬亮,谷原章介,榊原良子,栗山千明
時間: 122分 (2時間2分)
製作年: 2008年/日本
(渋谷東急にて鑑賞)

2008年9月鑑賞
(満足度:☆☆☆☆)(5個で満点)

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途中まで物凄く退屈した。
冒頭、飛行シーンの意外な(!)ぎこちなさとリアリティの無さに逆に
ビックリし且つ失望した。淡々と描かれる『戦争』の緊張感の無さ
(勿論意図的な演出)にもガッカリした。

中盤までは。

私の知る限りでは監督の押井守はもうかれこれ20年以上も「戦争」について
語ってきた。作品にも幾度となくそのイメージは盛り込まれてきた。
安保や海外派兵についても何度も何度も言及してきた。

そして確実に自身のキャリアを積み、ヒット作を産み、熱狂的なファンも
世界中に生み出した。

そして彼も50才を超えた(2008年9月現在57才)。

そんな彼が満を持して『戦争』を描く。期待して当然だ。

主人公は戦死する(殺される)以外では死ぬことはないキルドレと
呼ばれる永遠に大人にならない(しかし子供とも言えない)青年達。
"本当の戦争"を無くすことに成功したこの世界では平和な世界を
人々が実感する為に戦争が存在しキルドレは戦い、死んでいく。

「押井さん、これが貴方の描きたかった戦争ですか?」

「これが『若者達に伝えたい』と言って作った作品ですか?」

「こんな温い戦争だったら俺でも参加したいわ!」

そう思って観ていた。上映時間の半分くらいまでは。より正確には終盤近くまで。

しかしその延々と続くキルドレを取り巻く『温さ』の描写、
戦争映画につき物の勇ましい、心躍らせてやまない
死地に主人公達が向かうある種の高揚感や悲壮感(両方とも同質のもの)
を決して描かないことが、監督の"狙い"であると判ってきてから

「若者達にこの作品で言いたいことがある」といった意味が
何となくわかった気がした。

国の為でも国民の為でも恋人や家族の為でもない戦争を永久に
続ける(そしてやがて死ぬ)キルドレの地獄。干渉する大人達や無理解で
猥雑な群集や世界から一切隔離された生活。理屈で完璧に埋められた
戦う"理由"とその完成され循環するシステム(実は完璧でも何でもないが)。

「さっさと血まみれになって死んでみせてくれよ」
観ながら何度もそう叫んでいる自分がいた。

しかしキルドレがいくら啼こうが喚こうがいつまで
たっても彼らに感情移入できない。

観客(=彼らの戦争を見て生活を送る一般市民)が感情移入しない
中で戦い死んでいくキルドレ。

後半、単発にしか描かれていなかった戦闘は"ようやく"
大規模に描かれる。しかし物語の後半にまできても
キルドレに親しみは一向に湧かない。反感も無い。何もない。

徹底的に何もないことが作品に奇妙な重みを与えていく。
そして終盤にきてようやく彼らの苦しみが、彼らが決して笑わない
理由が何となく理解できるような気がした。

冒頭はぎこちなくどこか面白みの無い飛行戦闘シーン
は描写する回を増すごとにグレードを上げていく。
しかし彼らキルドレ達の存在意義は決して深まることはない。

むしろ、彼らの戦闘が国家や薄汚い人間の陰謀の産物ですら
あって欲しい。彼らキルドレはその憐れなか弱い犠牲者で
あって欲しい。それだったらどんなに応援できることか!
いつのまにかそんなことを思って観ていた。

逆説的にキルドレの存在と戦う動機が無い無意味さは
最後の最後で安易に辻褄を合わされるのではないかと私は
ずっと恐れ、押井はその観客心理を弄ぶかのように危うい
シーンを随所に描く。

最後の最後で今回は彼は"向かい合った"ように私は思う。

そう思えただけでも観てよかった。

無意味に、無為に命を賭ける地獄をキルドレはひたすら生きる。
だから彼らは笑わない。だから主人公の一人クサナギ・スイト
(菊地凛子:声)は気が触れて当然だ。

観終わってみれば、何だかもう一度キルドレに会いたいと思う。
今度は彼らを正面から見つめてあげようと思う。彼らの無意味な死を看取ってあげよう。
まさにその為にのみ、戦争をして死ぬ為に彼らは"生きる"のだから。

ちなみに最後の最後の最後のシーンは個人的には要らないと思う。
その方が僅かでも"高揚"できたのだから。しかしその一番最後のシーン
があるからこそ、この奇妙な戦争とスイトやユーイチ達キルドレの無感地獄は
強調されるのだ。

 
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コメント

前々から押井守監督は過大評価され過ぎだと思っているのですが
なんだかんだ言って話題になりますね
僕は
アニメ界では出崎統監督・今敏監督がかなり好きなのですが
二人とも押井監督に比べていまいち評価されてない気がします
一般うけが悪いんですかねぇ・・・

投稿: 万物創造房店主 | 2008年9月11日 (木) 19時38分

>なんだかんだ言って話題になりますね
今回の作品ではどちらかというと「アンチ」
をかなり増やしたと思います。
自分は「スカイ・クロラ」の
「画のクオリティが高くてプロットが超いい加減」
というところに押井守の確信犯的な現代社会と
のシンクロを狙ってる気がして楽しめました。
レビューの通り後半まで退屈もしたわけですが。
 
>一般うけが悪いんですかねぇ・
アニメの監督は難しいですね。実写よりも。
相当なエゴイスト且つしたたか且つワンマン
じゃないと。日本では。
オリジナルを出すタイミングもよく見極めて
いかないと残っていかれない。。

投稿: kuroneko | 2008年9月12日 (金) 01時35分

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