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2008年10月20日 (月)

映画「宮廷画家ゴヤは見た」

2008年に見た映画(二十三) 「宮廷画家ゴヤは見た」

原題名: GOYA'S GHOSTS
監督: ミロス・フォアマン
出演: ナタリー・ポートマン,ハビエル・バルデス,ステラン・ステルスガルド
時間: 114分 (1時間54分)
製作年: 2006年/アメリカ
(渋谷東急にて鑑賞)

2008年10月鑑賞
(満足度:☆☆☆☆☆)(5個で満点)

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18世紀末のスペイン・マドリード。
美しい裕福な商人の娘イネス(ナタリー・ポートマン)は異教徒の疑いをかけられ
異端審問所に出頭を命じられる。審問所から何日も帰ってこない娘イネスを
心配する父のトマス(ホセ・ルイス・ゴメス)は友人である宮廷画家ゴヤ
(ステラン・ステルスガルド)を頼る。ゴヤは肖像画の依頼を受けていた神父
ロレンソ(ハビエル・バルデス)にトマスが教会に多額の寄付をすることを
条件にイネスを開放するよう教会に働きかけるように協力を求めた。しかし
ロレンソこそ教会の権威の弱体化を憂い異教徒の摘発の強化と拷問の厳正な
執行を強力に提唱する一人だった。埒が開かないとみたトマスは一計を案じ
ロレンソとゴヤを夕食に招く。ロレンソはトマスの命懸けの策略に嵌り
ある署名をさせられる。その署名はロレンソが教会の教えに背いたことを
意味した。トマスは署名の入った書面を公表しない代わりにイネスを釈放
するようにロレンソに迫る。ロレンソは教会にトマスの資金提供と娘の解放の
依頼を伝えるが異端審問所の所長は寄付金は受け取るがイネスは釈放しない
ことをロレンソに告げる。獄に繋がれたイネスと面会したロレンソは彼女を
強く抱きしめた。イネスはロレンソを慈愛に満ちた神父として強く信じ、
開放されることを期待するが。。

監督は「アマデウス」(1984)、「カッコーの巣の上で」(1975)を手掛けた
名匠ミロス・フォアマン。と言っても私は「アマデウス」は一応見ている
けどほとんど記憶に無い。また「カッコーの巣の上で」はレンタル落ちの中古
ビデオを買ったまま積んであるだけなので彼の作品は初めて観るのも同然だった。

それほど期待しないで観たのだがとても良かった。一言でいえば、
ナタリー・ポートマンに始まりナタリー・ポートマンに尽きる。
そして彼女が演じる少女イネスのあまりにも痛ましくあまりにも逞しい生涯と
ハビエル・バルデス演じるロレンソの数奇な生涯を気骨の画家ゴヤの眼を
通してきっちりと描きつつ真の主役とも言える中世の終りという時代の混乱を
描写しきったフォアマンとスタッフの手腕は見事だ。脚本も美術も良く出来ている。

最後のシーンは映画史に残る名シーンとなると思う。
そしてその最後のシーンだけを観るということは恐らくは冒涜であり
イネスの過酷な運命をゴヤと共に瞬きせずに目撃しなくてはならない。

舞台は18世紀末~19世紀初頭のスペインでの教会の異端者狩りや王制の
終焉を描いているがテーマ自体はとても普遍的だ。
時の権力者達の身勝手さと横暴さであり権力を維持する為の手段の正当化の恐ろしさ
であり強い者に撒かれつつ権力者の移行に我先とすがっていく民衆の強かさである。

原題にある通りイネスもロレンソもゴヤの作品のイメージと時代背景から
創造された架空の人物だが(ロレンソにはモデルがいるとのこと)人間の持つ儚さと
美しさと本質的な強さをイネスが、自己保全に邁進する傲慢さをロレンソがそれぞれ
コインの表裏のように描かれておリ人物造型にリアリティも終始感じられて素晴らしい。

この時代の作品はスペインでこれまでただの一本も作られていないと
ミロス・フォアマンは明かしているがその理由は本作を観れば容易に理解できる。

表面的に知る歴史に善悪は無く、ただ権力者とイデオロギーの交代があるばかりだ。
そして人間は愚かしく強かで、強かだからこそ皮肉にも人類の歩みもまた続き、歴史は
続き今もこうして生き残りの子孫達がさらに生き続け次の集団にバトンを渡していく。

クライマックスをもう一度目撃したいけど、ナタリー演じるイネスにもう一度
会いたいけど自分にはその過程の全てを目撃するゴヤのような冷厳な"眼差し"と
強靭な意思はない。彼女を直視する勇気もロレンソを非難する資格も無い。
しかし何だかもう一度観たくて仕方が無い。そんな作品だ。

取り合えずスタジオセットがワンシーンも無い(厳密には当然違うだろうが)
という実際の歴史的な建物や街を使った重厚な描写だけ取ってみても
劇場に観に行く価値は多いにあると言える。

文字通り体当たりで演じたナタリー・ポートマンに拍手
ハビエル・バルデス、ステラン・ステルスガルド、ホセ・ルイス・ゴメス等出演者に拍手
監督のミロス・フォアマン、
脚本のジャン=クロード・カリエール(ミロス・フォアマンとの共同脚本)、
美術のパトリツィア・フォン・ブランデンスタイン、
製作総指揮のソウル・ゼインツ、
その他大勢のスタッフに拍手

最後に本作とセットで強くお勧めする作品は以下。
「ブラック・ブック」(2006年 ポール・バーホーペン監督)
「バリー・リンドン」(2975年 スタンリー・キュブリック監督)

特に「ブラック・ブック」は本作の姉妹編と言ってもいい気がする。

「カッコーの巣の上で」を観るスイッチが完全に入った。
放ったらかしのビデオの埃を吹いてデッキに入れよう。

 
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コメント

おっとー
これは僕もなかなか気になってた映画ですねぇー
ミロシュフォアマンも
ナタリーポートマンも好きなんで
ところで
映画の内容ですが
クロネコさんが書いておられる感じだと
たぶん監督自らの人生とダブらせて作ってるんじゃないかなーという感じがしました
というのもこの人
もともとチェコで映画作ってたんですけど
政府から目を付けられて自由に映画が作れなくなって
アメリカに亡命したんですよね
僕、前からチェコ人の作る映画って変なのが多いんでこの人も気になってて
「火事だよかわいこちゃん!」とか
「ブロンドの恋」とか
なかなか変な映画を撮ってて面白いんです
チェコと言えば
映画「ホステル」(青春拷問スプラッター映画です)の舞台がチェコなのはビックリでしたね
あんな映画作ったら観光客激減しそうなのに、ステキ・・・
いつかチェコも行ってみたいなぁ・・・美女に騙されてみたい

投稿: 万物創造房店主 | 2008年10月23日 (木) 19時34分

この作品でのナタリーたんはそれはもう
凄いです。ハートがっつりやられました。
劇場で観た方がいいですよ。
映像のクオリティは「バリーリンドン」には
残念ながら劣りますがあらゆる点においてプロの
技は充分堪能できました。
 
>監督自らの人生とダブらせて作ってる
もろにそうですね。共産主義と資本主義に
自ら翻弄された人生で得た「何か」を
見事にこの作品に昇華してます。
ハビエル・バルデスも不敵な生き様を豪快に
演じています。

クライマックスのシーンに限って言えば今年観た
作品の中でもトップかもしれないです。
完璧に"絵画"になってました。
今思い出してもちょっと込み上げてきますね。
多分一生忘れないですね。
いい作品です。

投稿: kuroneko | 2008年10月24日 (金) 01時45分

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