映画「人情紙風船」
「人情紙風船」
原作: 河竹黙阿弥
監督: 山中貞雄
脚本: 三村伸太郎
撮影: 三村明
音楽: 太田忠
編集: 岩下広一
出演: 河原崎長十朗,中村翫右衛門,助高屋助蔵,霧立のぼる
時間: 86分 (1時間26分)
製作年: 1937年/日本
(満足度:☆☆☆☆☆)(5個で満点)
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ある日、長屋で一人の浪人が命を絶つ。
長屋の住人の一人新三(中村翫右衛門)の提案で大家に資金を出させ
弔いと称して長屋の住人一同で酒盛りをする。
住人にはもう一人の貧に窮する浪人の男(河原崎長十朗)がいた。
男は妻と紙風船を作る内職をしてどうにか暮らしていた。
元々の上司であった男に会って事態を打開しようと努めていたが
全く相手にされない。やがて新三はひょんなことから質屋の娘を
長屋の自宅に隠すことになり。。
中国に出征中に29才の若さで病没した山中貞雄の遺作。
「紙屋悦子の青春」、「龍馬暗殺」など寡作でありながらも秀作が多い
故黒木和雄監督が賞賛されていた作品をようやくにして鑑賞。
画面設計と登場人物の自然な演技がとても素晴らしい。
物語はとても他愛なく庶民の暮らしのと共に構築され存在している
権力構造の中で生きる人間達を温かくしかし冷静な視点で描写
している。
浪人の身とはいえ武士でありながら町人達のいざこざに介入する男が
筋がどうも一本筋が"通っていない"のがマキノ映画等で明確に描かれる
理想的な武士像とは遠く型通りでないのが実に面白く興味深かった。
遊び人の新三が金を工面する為に質屋に商売道具を持ち込む。
番頭は態度こそ穏やかだが新三を下に見て相手にしない。
新三は金を工面できないことよりも下に見られたことを静かな怒りの表現で
言外に含める。番頭の男と新三の「生きる立場の違い」からの明確な対応の
違いが演技として表現されていて楽しい。
浪人の男が生きる望みを無くし雨の中でたたずむシーンも実に美しい。
20代後半の若さでこの作品の人間表現の重厚さは尋常ではない。
生きていたらどれほど素晴らしい作品を生み出していただろか。
映画界に多大な貢献をしていただろうか。。
戦争が悪だとすれば才能ある人間の命を奪ってしまうことだろう。
才能ある人間を勝手に召集しておいて勝手に病没させてしまう
無能なシステムしか構築できないなら戦争なんてするな。
本作は最近書店でよくみかけるパブリックドメインDVDとして
安価で購入できるようだが機会があればなるべく大スクリーンでの
鑑賞を推奨。
いずれ、国内外でのオールタイム・ベストの常連作品となるのは
必定な超傑作作品。
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