« 映画「仇討崇禅寺馬場」 | トップページ | 映画「復讐するは我にあり」 »

2008年12月30日 (火)

映画「張り込み」

「張り込み」

原題名: 張り込み
監督: 野村芳太郎
脚色: 橋本忍
原作: 松本清張
撮影: 井上晴二
美術: 逆井清一郎
音楽: 黛敏郎
編集: 浜村義康
出演: 宮口精二,大木実,高峰秀子,田村高廣

時間: 116分 [モノクロ]
製作年: 1958年/日本 松竹

2008年12月鑑賞
(満足度:☆☆☆☆☆)(5個で満点)
---------------------------------------------------------------
二人の男(宮口精二,大木実)は九州に向かっていた。宿に着いた二人は
通りの向こうにある一軒の家を注視した。男達は刑事だった。殺人を犯して
拳銃を所持したまま逃げた犯人(田村高廣)が九州の裕福な銀行家の後妻に
なっている女(高峰秀子)に接近すると踏んで東京からやってきたのだ。二人は
猛暑の中張り込みを開始した。。

1955年に発表された松本清張の有名かつ秀作である同名小説の完全映画化。

つい最近(2002年)も同原作がテレビドラマ化され北野武と緒方直人が
刑事役に扮して熱演した。小説の展開内容としては映像化しやすいと
思われ、今ままで何度も映画化されているのかと思えば
ウィキィペディアによれば9回の映像化のうち映画作品は意外にも
本作のみそ且つ初の映像化でもある。

本作の後、8回も映像化されているのに劇場版は本作一本のみ
なのは観れば明白だが本作の映画としての完璧な「完成度」
のせいであることは容易に想像がつく。

まずはオープニングから10数分続くの蒸気機関車で二人の刑事
が九州に向かうシーンだけでも絶対にお奨めの素晴らしい
シーンが続く。蒸し暑く密集する車内でうな垂れる二人と他の
乗客達のリアリティと機関車の疾走していくシーンの交錯が映画を
観ている満足感を早くも満たしていってくれる。

本編も映像に焦点を当てれば完璧といっていい出来だが
オープニングから序盤の映像の素晴らしさと迫力にはぶったまげた。

そして何と言っても本作の大きな魅力の一つは宮口精二の熟練された
演技がたっぷり見れるということだろう。

言わずとしれた不朽の名作「七人の侍」での無口で腕の立つ侍(久蔵)
の役はビデオで何度も繰り返し観たが本作に出ているのは迂闊だが
知らないで観ていたので刑事役と判ってからはもうエンディングまで
まさに至福の時間だった。

大木実と二人で若手・ベテランの刑事二人という黄金の組み合わせを
演じるがアクションの大きいシーンと感情的な動きは全て大木実に
任せ、しかし存在感では一歩も二歩もリードする余裕と貫禄のある
しかし決して弛緩していない演技は見事の一言に尽きる。

本作の最大の魅力は描かれる舞台のほとんど全ての映像的な
美しさにあると思う。

前述したオープニングの機関車の疾走シーンから狭く暑苦しい車内のシーン、
二人の刑事が張り込む宿と向かいの女の住む家のセットの佇まいの
完璧な日本的風景の"静"の美しさ。
いまでは勿論絶対に再現不可能な東京のロケシーンと登場する車等の
デザインの涙が出てしまう先進的ノスタルジックな大道具・小道具の数々、
中盤での九州佐賀の田園シーンの構図の美しさ、大木実演じる若手刑事が
女を尾行する市場や他のシーンので画面設計の完璧さ、クライマックスの
追跡シーンでの空撮の信じられないダイナミズム。。

全ては失われてしまった桃源郷といってもいい風景。
完成されすぎて失禁しそうだ。

本編の物語そのものについて言えば大木実の演技は何だかもう一歩だと思う。
"犯人の女"の高峰秀子も"阿波の踊子"の可愛い小娘役を見た直後だったので
相対的にそれほど良くも悪くもなく。スタッフとベテラン俳優陣が一流揃い
なので見ていて何の不安もない。

それにしても大木実が相当にマヌケな若手刑事役になってしまって
いるが本人がどこまでそのことを役作りとして自覚して演じている
のか不明なのが観ていてハラハラさせられて面白い(^^)

最後の犯人に二人が"間"をジリジリと詰めていくシーンは今
思い出してもワクワクドキドキしてしまう。当然だけれど結末は知って
いるのに思い出しながら「次の瞬間何が起こるのだろう」
と思ってしまう。あたかも実際にその場にいる一人のような擬似体験
をしたかと思えるほど完成度が高いからだろう。

ネットで調べると犯人役の田村高廣が主役的な扱いをしてあるもの
もある。なかなか印象深く犯人役を演じているが主役級といって
いいかどうかは自分としては疑問だ。色々と「大人の事情」でも
あるのかもしれない。

田村高廣は俳優の田村正和の兄。兄弟にしては歳が違い過ぎるが、、
まあそういったことには興味なし。

今後いかにリメイクされようが良くも悪くも本作を越えるのは残念だが
不可能だろう。

晩年の宮口精二を訪ねてインタビューしていた記事をいつか
読んだことがあったけども歯切れのよい口調で当今の日本映画の
斜陽を嘆いていたが本作を観てつくづく日本は大切な何かを完全に
捨ててしまったと思う。

取り戻すのも到底無理だ。今ある本当に僅かな一握りの価値ある
風景と先人達が積んできたあるいは受け継いできた細かな美意識を
残せるかどうか。

本編の映画としての物語の展開そのものなら☆四つだけど
あまりの映像と背景の素晴らしさを総合すると最大級の満足度。

初めて観たのが映画館のスクリーンでなんて自分はなんて
ラッキーなんだろう。また何としても映画館で観たい作品だ。

---------------------------------------------------------------
映画感想一覧>>
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
  
 

|

« 映画「仇討崇禅寺馬場」 | トップページ | 映画「復讐するは我にあり」 »

映画」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 映画「張り込み」:

« 映画「仇討崇禅寺馬場」 | トップページ | 映画「復讐するは我にあり」 »