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2009年2月15日 (日)

映画「殺人に関する短いフィルム」

「殺人に関する短いフィルム」
KROTKI FILM O ZABIJANIU
A Short Film About Killing

監督: クシシュトフ・キェシロフスキ
脚本: クシシュトフ・キエシロフスキー,クシシュトフ・ピエシェヴィッチ
撮影: スワヴォミール・イジャック
音楽: ズビグニエフ・プレイスネル
出演: ミロスワフ・バカ,クシシュトフ・グロビシュ,ヤン・テサシュ

時間: 85分 (1時間25分)
製作年: 1987年/ポーランド

(満足度:☆☆☆☆☆+)(5個で満点)
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"ウダツ"は上がらないが几帳面で愛妻家の中年タクシー運転手。やっとの思いで
弁護士になったがなぜか未来に漠然とした不安を感じる男。出口の無い鬱屈を抱えて
ひたすら街を彷徨う青年。知り合いでも何でもない面識も無い三人の運命は細い糸で
繋がりやがて「ある悲劇」へと向かっていく。。
 
  
 冒頭、コントラストの強い画面の中でタクシーの運転席にぶら下がった首だけの
キーホルダーがかすかに揺れる。いきなりこれから起こることを強く暗示させる
強烈に不穏なシーンだ。そして、適切で美しいシーン

 画面の一部がいつも暗い。画面の三割くらいが暗く半分程度にも感じる。
街と人に漂うどうしようもない閉塞感をより強調して残った画面に目を凝らして
「誰が誰を殺すんだ?」と探偵のようになって観た。

 登場する誰も彼もが殺人を犯すようにも見える。皆、人生に目標も希望もない
多くが街を出ても何もいいことがないことがわかり切っている。

 タクシー運転手、若き弁護士志望の男、無職の若者、三者三様の同じ街での
生き様が幾つかの共通する場所で時間を変えて折り重なる。

 同監督の作品「愛に関する短いフィルム」の方が面白かったかな。。

 そんなことを思いながら観ていると黒い一筋の工場の煙突からの煙が不穏な画面を
より不穏に画面を占有し

物語は一気に疾走を始めた。

 煙は横へ流れ画面から消えない。連なった雲と迫る夕暮れ。

 殺られる。間違いなく。

 台詞は一言もない。が画面は絶叫している。コイツを殺してやると。

 こんな残酷に寂れた美しい風景に出会ってカメラ持っていなかったら悶絶するだろう。
カメラ持っていたらきっとアホになって撮りまくる。

 犯行は完了し"男"は車のラジオを付ける。

 男にとっては場違いな陽気な放送に思わず蹴りつけてラジオを破壊する。

 夕暮れの中に男と車のシルエットだけが浮かぶ。

 完璧な映像だ。もっと早く本作に出会っていたら人生が変わったかもしれないと
思えるほどのインパクトを受けた。撮影に関する技術を全部知りたい。

 時は過ぎ、一人の男がとある施設に入ってきた。

 「俺はどんな理由であれ、犯罪を犯した奴は決して許さねぇ。どんな奴でも
全員あの世に送ってやる」

 なぜか素性の判らない顔すらもろくに判らないこの黙って歩く男が登場した瞬間に
そんな台詞が脳内にはっきり聴こえた。刑事か?

 男は死刑執行人で施設は刑務所だったのだ。

 何て見事な的確な演技と演出だろう。この男は所詮は「カット、OK」の一言で止まる
一介の役者に過ぎないというのに。

 何も説明がないのに一瞬でテレパシーのように脳に情報が送られてきた。

 コイツは絶対に殺る法という名の下に。

 何て凄い映画であることか。刑の執行の準備も長年の年季は半端でなく、その動き
にも表情にも澱みもあるわけもない。後数時間後に刑は執行されるはずだ。

 執行を待つ男は人生の終焉が迫り自分が
「なぜこんなことになったのか」その理由を語り始める。

 男の言ったことがこの結末を生んだ「理由」だったのかもしれないがそうじゃなかった
かもしれない。ただ一つ確かなことは死刑を待つこの男は
決して孤独ではなかったということだ。

 彼の無意味ではないはずだった人生の無意味な終焉に理由はどうあれ涙を流して
くれる人が確実にいたことに何だか言いしれない腹立たしさを感じた。

 刑は執行され、結局二人の人間が死んだ。

 一人は理由もなく殺され一人は「合法的に」やはり殺された。

 二人の死はごく少数の人間以外には何の意味も無い

 傑作としか言いようが無い真に『殺人に関する短いフィルム』だ。
 

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