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2009年2月24日 (火)

映画「陸軍」

2009年に見た映画(十二) 「陸軍」

原題名: 陸軍
監督: 木下恵介
出演: 田中絹代,笠智衆,上原謙,佐分利信,佐野周二
時間: 87分 (1時間27分)
製作年: 1944年/日本
(池袋 新文芸座にて鑑賞)

2009年 2月鑑賞
(満足度:☆☆☆☆☆)(5個で満点)

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西南戦争から日清戦争、日露戦争、太平洋戦争まで
三代に渡って陸軍に身を投じた親子の生活を通して
素朴に国を思い生きる戦前の一庶民の姿を描く。

商家を営んでいた高木友彦の父は西南戦争の戦火に
家が巻き込まれ燃えあがる中、水戸光圀公の号令の基
編纂された「大日本史」を持ち出したことが何よりの
誇りだった。日清戦争の勝利の対価として得た利権を
ロシア・ドイツ・フランスの抗議により手放さなくては
ならないことに憤慨して山縣有朋に猛抗議するため
上京したが病に倒れる。息子の友彦が心配して東京の
病院に駆けつけると先に皇居に参内してから来なかった
ことを知った父は激高した。友彦が慌てて参拝して
戻って来ると父はすでに逝った。友彦は父の遺した
大日本史を繰り返し読み、成年になると早速入営して
日露戦争に率先して参加するが体が弱く実戦には参加
できなかった。友彦は請われるままに妻と小さな雑貨屋
を営みつつ大日本史の講義をして暮らす。時は過ぎ
息子の伸太郎もまた成長し陸軍に籍を置いた。日本は
遂に太平洋戦争を戦うことになり伸太郎の出征の日は
目前に迫った。。

オープニングのまだ"侍の時代"覚めやらぬ明治初期の
時代の西南戦争を明確に"戦争"(WAR)であり庶民にとって
大変な"災禍"であるという視点で描いている歯切れの
良い描写にまず圧倒された。無知な感傷と郷愁で旧時代の
"戦"(いくさ)として描くのではないことの描写のセンスが
凄い。冒頭だけでも充分見る価値がある。

基本的に戦中のプロパガンダ映画に間違いないのだが
(しかもその政治的なメッセージの密度はなかなか濃い)
名匠の手にかかるとこうも見ごたえのある普遍性を持った
佳作になってしまうのか(受け取り手の教養しだいだけど)。

クライマックスの三代目の伸太郎の街を挙げての出征シーンは
これまで観てきたどんな映画の群集シーンよりも郡を抜いて
素晴らしい。大通りを勇ましく、どこか不安気に行軍する
兵隊達。旗を振って見送る人々の表情の素朴さ。高揚して
思わず駆け出してしまう人々をカメラが正面から捉える。
狭い裏路地から行軍を見るカメラワークの絶妙さ。陸軍に
反感を買ったという最後の母が戦場に向かう子を思い手を
合わせて祈るシーンの迫真さ。何という映画的な美しい画面
構成のシーンの連続なのだろう。

"戦場に向かう人間達"を真摯に撮ろうとすれば、
それは自ずと反戦も好戦も検閲も超え観る者の心を打つ。
そして撮るということはただ再現すればいいってものじゃ
ないのは当然のこと。本作のクライマックスほど"絵"として
完璧なまでに完成度が高くそれゆえ多くのことを
考えさせられる映画は観た事がないかもしれない。

国を思うことを生きることの規律の中心において
生きる一家だが、それは"国"に重心があるのではなく
広い世界の中でどのように正しく生きるべきかという
"個"の方に実は重心がしっかりとあるので2009年の
今という時代に見てもほとんどの描写は奇異に映らず
そのことがそのまま監督を始めとする当時の製作スタッフの
"眼差し"の鋭さと確かさに思える。

浅墓な人間が間違ったメッセージを勝手に取り出して
全体を塗りつぶす。
「当時はそんな時代だったんだ」なんてことでななくて
「今はもっとひどくなっている」と思わずにはいられない。

半世紀強の昔、世界の中で日本はどのような位置にあり
どのように振舞うべきかという配慮も見識も持たない者達の
傍若無人によって国家は破綻したが今は今で羅針盤は
また大きく狂っているとしか思えない。

時の権威者にアウトラインを強制されながらも
これほど見ごたえのある『映画』を作れる人々が当時はいた。
そして戦中も戦後も優れた作品が作られた。

今はどうだろうか?
全体の総合的効果も何も検証せずに
"セイケンコウタイ"や
"ニサンカタンソサクゲン"の一手二手しか打てない
現代社会が"鬼畜米英"を笑えるか。
事態はさらにさらに浅墓になっていないだろうか。

たまらなく、もう一回観たい。
でもプロパガンダ映画だから普通の人には毒ですので
とても残念だが観ない方がいいです。勘違いなさること必定
なので。

映画が毒なのではなくアホが観て毒にして撒き散らすだけだ。

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