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2009年2月10日 (火)

映画「アンドレイ・ルブリョフ」

「アンドレイ・ルブリョフ」
Андрей Рублёв
Andrey Rublyov
 
 
監督: アンドレイ・タルコフスキー
脚本: アンドレイ・タルコフスキー,アンドレイ・ミハルコフ・コンチャロフスキー
撮影: ワジーム・ユーソフ
音楽: ビャチェスラフ・オフチンニコフ
美術: エウゲニー・チェルニャーエフ
出演: アナトーリー・ソロニーツィン,イワン・ラピコフ,ニコライ・グリンコ,
ニコライ・ブルリャーエフ,ロラン・ブイコフ


時間: 182分 (3時間2分)
製作年: 1969年/ソビエト

(満足度:☆☆☆☆☆+)(5個で満点)
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15世紀初頭のロシア。天才画家アンドレイ・ルブリョフの1400年から20年間に渡る
流浪の軌跡を様々な人間模様と中世ロシアにおける戦乱の救い無き世を
ダイナミックに描き出す壮大な映像叙事詩。

 
 自らの腕一つと自信だけを頼りに請われるままに各地の教会や土地の権力者の
依頼で宗教画を描くことで生計を立てる画家というのは映画の主要な登場人物
としてはとても適している。本作はその点を最大限に活かして彼ら画家の一群を
ナビゲーターとして様々な人間模様を観客の眼前に見せていく。転々と依頼のある
場所へあるいは仕事が貰えると期待できる地へ移動していく様はまさに人生
そのものが旅であり土着という大きな束縛から解放されることで心の振幅も当然
大きくなる。自ずと彼らの固定観念は薄れ、様々な行動様式に縛られて生きる人々を
見、時に迫害されやがてジャーナリスティックな視点と視野の広さを持つのも自然だ。


 肉欲に身を任せ祭りだといって全裸で狂気乱舞する人々。

 教会の神の名を借りた建前と金銭にまみれた本音。

 権力欲と権勢だけに生きる者。辺境の武人達。

 タタール人の侵略に協力するロシア人。

 何もかも奪われ生きることもままならない弱者達。


 仕事を求め転々としていく信仰心も高い画家達の移動の模様を描く前半と
タタール人とロシア人の権力者達の争いとそれに巻き込まれていく一般人の
悲惨を描く中盤、巨大な"鐘"を造る職人達の奮闘を描く後半の大きく分けて
三つの場面が展開されていく。

 3時間という長丁場もまったく飽きることがないどころか静のシーンも動のシーン
も寸分の隙もなくまた弛まず描かれ続けていくレベルの高さにただただ脱帽。

 オープニングの空気を熱して気球のようなもので空を飛ぶシーンの絶妙に
不安定さを表現したカメラワークは思わず自分の足元を確認したくなる。
フェリーニの名作「8 1/2」(1963)のオープニングのシーンを思わせた。どちらの
作品の空中シーンも印象深く甲乙つけ難い。

 怒濤の如く馬を駆って攻めてくるタタール人達のシーンの圧倒的なスピード感と
カメラワークも実に洗練されていて金を出して観る価値十分だ。黒澤明の映画を
思わせる豊かな画面空間の取り方がとても心地いい。馬上の人間と地上を這う
人間の対比の構図も美しい。

 また冒頭のシーンと後半に出てくる芸人の男の演技がとても自然体で素晴らしい。
"芸"というのは物事の常識を鮮やかに且つ瞬間的にひっくり返して見せてそのことを
本人は全く気付いていないように演じることで人々は笑い転げそして惜しみない
賞賛と金品や供物を捧げるわけだけど芸人と観客の間合いの関係性の整合性が
きちんと撮れているシーンというのはもしかしたら初めて見たかもしれない。

 アンドレイ・ルブリョフは恐るべき戦火を目の当たりにし自らも被害にも合い、
人間社会に絶望し筆を折る。やがてルブリョフが辿り着いた地で若き天才職人の
少年が大公の権威欲のために死力を尽くす後半の鐘作りのエピソードは
職人達の鐘作りの奮闘の描写からクライマックスの権力者達が見守る中での
鐘のお披露目まで何もかもが壮大で傍観していたルブリョフと少年の邂逅は
人間の運命の因果的な大きな環のようなものを感じた。

 大作でありながら本作くらいしっかり内容がぎゅうぎゅう詰まった作品が家で
見れるならちゃんとそれなりの金を出してハイスペックな機器を揃えたくなる。
しかしやっぱりこういう傑作は映画館で何回も観たい。

 これまでの生涯で観た映画の中では文句無くベストテンに入る傑作。
多分いつまでも上位に位置し続けることだろう。

 

[アンドレイ・ルブリョフ]
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アンドレイ・ルブリョフ(ロシア語:Андре́й Рублёвアンドリェーイ・
ルブリョーフ;ラテン文字表記の例:Andrei Rublev、1360年頃 - 1430年)は
ロシアの修道士、15世紀ロシア、モスクワ派(ルブリョフ派)における最も重要な
聖像画家(イコン画家)のひとりである。正教会では聖人とされ、記憶日は二つ
ある(ユリウス暦:7月4日・1月29日、グレゴリオ暦換算:7月17日・2月11日)。
師にフェオファン・グレクが居る。
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(ウィキペディアより)

 

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