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2009年3月15日 (日)

映画「たそがれ酒場」

「たそがれ酒場」


監督: 内田吐夢
脚本: 灘千造   
撮影: 西垣六郎   
音楽: 芥川也寸志
美術: 伊藤寿一   
編集: 笠間秀雄   
出演: 津島恵子,小杉勇,野添ひとみ,宮原卓也,加藤大介,東野英次郎

時間: 94分 (1時間34分) [モノクロ]
製作年: 1955年/日本  新東宝

(満足度:☆☆☆☆☆+)(5個で満点)
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その酒場はいつも盛況でその日も様々な客がやってきた。軍人上がりの
初老の男とその部下は酒場で偶然再会し大いに戦後日本の堕落を憂い
学生達は恩師を囲み肩を組んで歌い、旧体制の打破を叫ぶ若い男女、
ゴロツキ、ヒモ、飲んだくれ、、店の専属歌手の健はたまたま来店した一流の
楽団を率いる著名な音楽家にその才能を認められる。しかし店で伴奏を
勤める健の長年の師匠は頑なに健が世に出るのを拒んだ。。



酒場のセットの作りこみと見せ方の上手さが半端でない。
主人公は「酒場そのもの」だ。

とある開店から閉店までの一日を見せてくれるわけだけど登場人物達の
バリエーションの豊かさと演者達の演技の確かさもたまらん。

出だしは東野英次郎(テレビでの初代水戸黄門)と加藤大介
(黒澤明監督作品「七人の侍」が有名)が飛ばす飛ばす。
平和だけど堕落した戦後社会に不満タラタラの戦地帰りの
上司と部下の関係を二人とも余裕たっぷりに楽しそうに演じている。

東野英次郎の完璧にハマッテいる無茶ぶり暴走老人振りは。
昔、何かの本で「あの東野英次郎が天下の副将軍かよ」という
ような一文を読んだように思うが何だか妙に納得。
この人はきっと悪役がよく似合う(^^)。

加藤大介も流石の貫禄で主要な登場人物が出揃うまで場を
しっかり盛り上げている

様々な立場の人間達を的確すぎるほど的確に描きながら最後は
戦争に賛成しながら結果的に若者達を死地に追いやりその状況を
作りだした自分達は生き残ってしまったことに負い目を感じている
老人達と古いものを全て旧体制として葬りさろうとすることも
辞さない戦後世界を生きる若者達との溝を浮き彫りにしている。

ストリップ嬢を演じる津島恵子とその演出もとても素晴らしい
肌を露出することで賃金を得る女の哀しさがその踊りの一挙手一挙動に
見事に表現されていて皮肉にもそのアイロニーが男共が望む女性像を
強調していてさらに哀しみが増している。

最初から最後の最後まで作り手と演出と役者と舞台が本作ほど混然と
絡み合って世界観を構築している作品はこれまで観たことがないかも
しれない。本作に参加している人々が羨ましい。

三谷幸喜の「ザ有頂天ホテル」(2006)は本作とある意味で同じように
限定された空間で起こる群像喜劇を描いた作品だけど全体的に弛緩
しすぎているのが気になって面白くなかった。三谷氏は本作を観たこと
があるのだろうか。未見なのでななかろうか。

内田吐夢の作品は本作が初見であるがその作りこまれた情報量の多さと
豊かさには脱帽だ。

隅々までこだわって作られた作品がこれほど心地いいとは。。

もう一度映画館でじっくりと味わいたい作品だ。

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