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2009年3月 4日 (水)

映画「幕末」

「幕末」

原案: 司馬遼太郎
監督: 伊藤大輔
脚本: 伊藤大輔
音楽: 佐藤勝
撮影: 山田和夫
美術: 伊藤寿一
編集: 阿良木佳弘
出演: 中村錦之助,仲代達也,吉永小百合,三船敏郎,山本学

時間: 121分 (2時間1分) 製作年: 1970年/日本

(満足度:☆☆☆☆)(5個で満点)
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幕末の土佐藩から物語は始まる。
土佐勤皇党の一人が"上士"の横暴な殺戮を目の当たりにして
立ち向かうが逆に数人に囲まれ半殺しにされる。土佐では
山内一豊の統治以来、侍の中でも上士と下士(郷士)の上下関係は
絶対で上士は何をしてもいいに等しかった。男は仲間に匿われるが
切腹して果てる。土佐勤皇党に参加を表明したばかりだった
坂本龍馬(中村錦之助)はそんな視野の狭い事件が頻発する郷土や
武市半平太等の藩政改革にも釈然とせず脱藩を決意する。
薩長同盟締結から船中八策・大政奉還・そして最後の暗殺される
までの坂本龍馬のその後の行動を豪華キャストでダイナミックに
描く快作。

オープニングクレジットには一行
協力:高知県・鹿児島県

判りやすいなあ(^^)
書くまでもないが高知県は徳川時代は土佐藩で鹿児島県は薩摩藩。
両方とも『幕末』という名のパワーゲームのレギュラー。
薩摩藩が4番バッターなら土佐藩は1番か5番あたりか。

本作はツッコミ所も多々あるが中村錦之助の演じる坂本龍馬は
ちょっと見た目は骨太だけど情に厚く頼りがいのある(勿論腕も立つ)
ナイスタフガイを威勢良く演じていてで最後までとても楽しく観れた。
中岡慎太郎演じる仲代達也の演技のメリハリも当然のように心地
よくてその快活さが本作に果たしているプラス効果は計り知れない。

最近の言葉で言う事実婚だった龍馬の妻お龍を演じるは吉永小百合。
とても可愛い。龍馬との将来を夢みながらのどアップの
寝顔はサユリスト必見か(笑)。単純計算だと本作の公開当時25才
だけど全然見えないなー。18,9くらいに見てる。

冒頭で酒に酔った上士の男が下士とはいえ善良な人間をまさにいたぶり
まくりながらのらりくらり斬るシーンは残酷だ。一度に突き刺す
のではなく斬り倒すでもなく肩をちょこっと斬ってみたり脛を
斬ってみたり非道極まりない。

こんな殺され方は絶対に絶対に嫌だ。

遥か昔徳川家康に味方した山内一豊が関ヶ原の合戦終結後
その褒美として土佐を与えられたが徳川に敵対した元領主に
仕えていた地元の武士は一豊の支配を快く思わず山内一豊も
またそんな彼らを冷遇した。自分に従う者を外から募り"上士"
として優遇した。元々長宗我部氏に仕えていた武士達は"郷士"
として明確に区切りされ冷遇と上士の過酷な仕打ちに幕末まで
200年以上も耐え続けることになる。幕末の風雲児坂本龍馬や
明治の自由民権運動家板垣退助はこういった過酷な身分社会
の土壌から産まれていくこととなる。

高知出身の漫画家黒鉄ヒロシの文章で幕末に幼少期を過ごして
いた人が目の前で上士が人を斬り捨てるのを見たという逸話を
残しているという話しがどこかに載っていた気がした。

坂本龍馬を描く上ではまず外せない寺田屋での龍馬の脱出劇
(お龍さんがお風呂あがりで役人が来襲したことを告げる"アレ"ね)
での殺陣のシーンの激しさは幕末ものでは文句無くトップクラス
の出来ではなかろーか。「刀ってそんなに人斬れなねーだろう」
というツッコミは置いておいて斬るわ斬るわ!

鬼の形相と化した中村錦之助版龍馬の気迫のこもった演技と
蝋燭の明かりだけで照らされる狭い日本家屋の室内を表現した
演出がイカシテいて溜飲が下がる。真っ暗闇の中で健気に銃に弾を
込めようと奮戦する吉永小百合版お龍にも萌え。

寺田屋のシーンがこんなにスゲーのならクライマックスの近江屋での
暗殺シーンはさぞや。。と思っていたら意外にもあっさりしていた。
しかし暗殺直前の中岡慎太郎との会話では一君万民思想をさらに
越え天皇の人間宣言と廃帝にまで滔々と言及していく龍馬と
仲代達也演じる中岡の打打発矢は見ごたえ充分。

坂本龍馬の暗殺には諸説あるのはよく知られているところで
実行犯は見廻組の一派によるというものが定説としてほぼ
固まっているようだが、多分あまり知られていなくて且つ
自分が少し肯定したい説に

「中岡慎太郎は坂本龍馬が暗殺されると事前に知っていて
避けられないこを悟り親友として一緒に死んであげた」
(実際には龍馬はほぼ即しで中岡は一旦甦生したものの数日後に死亡)

というものがある。勿論史実としての可能性は限りなく低い
のは当然であろうが中岡慎太郎という人間の立場と彼の人間性
と龍馬との篤い友情を考えるとこれはありえると私は考える。

龍馬を殺したい人間が佐幕派、倒幕派、土佐の内部にですら
存在していたことは間違いないだろう。

坂本龍馬が主人公の映画としては私は黒木和雄監督原田芳雄
主演の「龍馬暗殺」(1974年)が一番好きだけど本作も肩のコラナイ
娯楽大作としてとてもお奨めな一品。

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