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2009年4月14日 (火)

映画「山の音」

「山の音」

原題名: 山の音
原作: 川端康成
監督: 成瀬巳喜男
脚本: 水木洋子
音楽: 斎藤一郎
撮影: 玉井正夫
美術: 中古智
録音: 下永尚
照明: 石井長四郎
編集: 大井英史
特殊技術: 東宝技術部
出演: 原節子,上原謙,山村聰,長岡輝子,杉葉子

時間: 95分 (1時間35分)
製作年: 1954年/日本 (東宝) [モノクロ]

(満足度:☆☆☆☆☆)(5個で満点)
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鎌倉に子供のいない息子夫婦と同居して静かに暮らす初老の男信吾(山村聰)。
美しい妻の菊子(原節子)を持ちながら不倫をしている息子(上原謙)。
信吾は薄々感ずいていながら息子夫婦に遠慮して傍観していた。
そこへ信吾の娘が子供を連れて戻ってくる。信吾は実の娘よりも息子の
嫁である菊子をいつも気遣う。そんな信吾に実の子供達は微妙だ。息子夫婦に
子供が出来ない理由が判らない信吾は息子夫婦を思い別居を申し出る。
しかし菊子はそのことを聞くと絶望のあまり寝込んでしまう。。

公開された年である1954年(昭和29年)というのは日本映画界にとってもの凄い年だ。
「二十四の瞳 (監督 木下恵介 1954年度キネマ旬報1位)
「七人の侍」 (監督 黒澤明      同 3位)
「近松物語」 (監督 溝口健二    同 5位)
「大阪の宿」 (監督 五所平之助  同10位)
「太陽のない街」(監督 山本薩夫 同14位)
「ゴジラ」   (監督 本多猪四郎  圏外)
そして本作
「山の音」   (監督 成瀬巳喜男  同 6位)

世界的な影響を後世に与え続けるこれら傑作群全てが1954年に公開されているのだ!!
巨匠達がこぞってこの年にいずれも代表作と呼べる作品を公開している。
これはこの年の2年前にサンフランシスコ講和条約が締結され
連合国(≒アメリカ)の占領政策が事実上終了したことと直結していると思われる。
(佐分利信による二・二六事件を描いた大作「叛乱」もこの年に公開)

上記の作品郡は検閲が無くなり自由に映画がやっと撮れるようになった
前後から勇んで各監督及びスタッフの準備が始まり完成した最初の年がこの年に
集中したわけだが日本戦後映画史において今に至るまで(今後も)の頂点と呼ぶに
相応しいのは禁欲生活から開放された人間の生理そのものを思わせ大変興味深い。
より圧倒的なまでの自由と資本主義経済を復活させたはずのこの後の時代の映画と
制作環境及び人材が年を追へば追うほどにまったくもってヘナチョコになっていくことも。

さて本作。
実の娘よりも息子の妻を大切にする男。
教養もあるが見栄もあり父親に頭が上がらない息子。
義父を夫と同様かそれ以上に信頼し夫の行動に心を痛めながらも
貞節を守る美しい妻。
旦那と喧嘩して飛び出してきたのに実父に今ひとつ心配されない
ことの不満を隠さない娘。
夫が息子の妻を大切にし過ぎることの息子夫婦への影響を
心配しつつも事勿れ的に過ごす男の妻。。

美しい自然が残る閑静な住宅で物語は美しいまでの幾何学的に
構成された人間模様を描きながらその住居同様に静かに進展していく。

溝口健二や木下恵介とはあたりまえだけど明確に異なる成瀬の
視点は登場人物が与えられたフィールドでその各自持たされた
人物造型のままに旋廻していく様を一定の距離から定点観測の
ように捉えてい様は理系的な生物観察的な冷静さとこの時代の
巨匠達が皆持ちえた人間への眼差しの暖かさを感じる。

そして無駄なく過剰もなく描かれる人物の的確さは登場シーンが
それほどない会社の事務員の女性や息子の不倫相手にも当てはまる。
女性達は皆この時代特有の「女性の自立」を叫んで不倫相手の
女性は元夫が戦死しても別の男の子供を承諾が無くても生むと
きっぱりと宣言し事務員の女性は上司が息子の不倫相手に謝罪しに
行く愚を軽蔑することを本人の前で少しも隠そうとしない。

裕福層は戦後はや10年で傷はすでに充分回復に向かい特権を行使し
人生を破壊された人々もまた与えられた権利を存分に行使する。

皆生きている。
己のために。
そのエゴの軋轢の中で懸命に耐えたがやがて倒れた菊子もまた
"自立した女性"の一人として生きることをやがて決意する。

クライマックスはどんな大作映画にも負けないある種の
爽快感が観る者を包む。

登場人物達のそれぞれの立ち位置が明確に定義された映画とは
どれほど心地いいものなのか本作を観ると判る。至福の90分強。

ちなみにこの時代の大人達もいつの時代とも変わらなく皆
充分にだらしないということもよく判る。それを真っ向から
描くことはまたとても教養とセンスがいる。

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