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2009年4月16日 (木)

映画「下郎の首」

「下郎の首」

監督: 伊藤大輔
脚本: 伊藤大輔
撮影: 平野好美
美術: 松山崇
音楽: 深井史郎
編集: 宮田味津三
録音: 根岸寿夫
照明: 佐藤快哉
出演: 田崎潤,高田稔,嵯峨三智子,片山明彦,小沢栄,山本豊三

時間: 98分 (1時間38分)
製作年: 1955年/日本  新東宝 [モノクロ]

(満足度:☆☆☆☆☆+)(5個で満点)
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列車がすぐ側を走る現代の河川敷にひっそりと立つ小さな地蔵。
「私は見た」
という地蔵の呟きで物語は幕を開ける。
時は遡り徳川幕府統治の時代。
些細な勝負ごとから武家当主の男が斬り付けられその場で絶命し相手は
斬り落とされた指だけ残し逃走した。遺された息子は下郎と共に仇討ちに出立
するが二人の生活はやがて困窮を極める。あるドシャ降りの日に下郎の男は
雨宿りに長屋に立ち寄る。その長屋は捜し続けた仇の愛人宅であった。。

 
スーパーリアル時代劇。
黒澤明的なチャンバラシーンの画面設計的的なリアルさではなく
(そちらの面も本作は決して負けてはいないが)身分・立場の異なる人間同士の
互いの酷薄さ、残酷さに合わせて封建時代というシステムの恐ろしさを細部まで
綿密に作りこまれた驚愕の美術と共に存分に見せていく。

「七人の侍」の翌年に作られた作品だが
本作には"サムライの世"への郷愁などは微塵もない。
気分を害した侍が下郎に見せる"殺意"の本気度はただひたすら
恐ろしく仇の男などはその躊躇の無さはほとんど狂人とすら思える。

田崎潤演じる下郎は男気と忠義は充分だが如何せん学が無い
(文字が読めない)のでもう少ししっかりせぇよと観ていて思うが
学が無いのは下郎に学ばせようとする気などはない主人
(主従関係は極めて良好だが)と、その学ばせようとしない
見識の低さ、そして無学で且つ無条件に絶対服従のこの下郎の男のような
盲目的な忠義の犠牲の上に成り立つ封建制というシステムが物語を
あまりにも恐ろしい悲劇的結末へと引きずりこんでいく。

登場人物達の個々のポテンシャルなどはストーリー展開の
枝葉に過ぎずシステムに安寧とする者共等ゆえに性格など
良くても信頼なんぞあったとしても悲劇は決して避けられる
ことなく起こるべくして起こる。

こうした人間個人の脆さと運命の儚さを冷静な視点で描く映画こそ
見たいわけだが本作はその意味では満点の出来だ。

システムの下位にいる者は卑屈になり上位にいる者はその
「搾取する特権」という凶器を振りかざし下位の者をシステムの
位置エネルギー以上に常に追い詰める。登場する全ての人間が
自分の立ち位置から出る能力や想像力の無い人間達(=普通の人々)なのだ。

"侍"ですら、いや侍だからこそ他の階級の者の気持ちや命など
何ら思いやりはしない。ふと思えば当たり前のことだ。
だから侍の時代も例外なく140年前に終わった。

侍は侍ゆえに威張りくさり下郎は下郎ゆえに絶対絶命の窮地に陥る。
下郎の命と自分の命のどちらかだけを選択しなくてはいけない時に
主人は、、

時代劇の箱をきっちり作りながら完璧な現代劇を無理なく内包する。
封建制の暗部を斬りながらも同時に何ら人々が進化したとは言い
難い現代社会をも斬っている。

地蔵は、見た。
数百年前の惨劇を。
現代と何ら変わらない人々の心の偏狭さを。

クライマックスの川原のシーンの構図の的確さ。
現代のシーンとの映像と物語の流れとしてのシンクロの高さ。
この作品を一生忘れることはないだろう。

伊藤大輔に師事したという加藤泰(かとうたい)はよほどしっかり伊藤に付いて学んだ
のだろう。加藤が手掛けた「緋牡丹博徒 花札勝負」ではヤクザ映画に
確かな人物造型を取り入れて「幕末残酷物語」では新選組を美化する
ことなく暴力装置として描き切り傑作の呼び声も未だ高い。

伊藤大輔に加藤泰。
まるで金の鉱脈に出会ったような興奮を覚える。

本作「下郎の首」は伊藤大輔によるセルフリメイクということだが
オリジナルも是非観たいものだ。
それにしてもデジタル上映とはいえ本作を劇場で観れた自分は
何たる幸運!

黒澤映画が何としても好きな方にとってはかなりウェットな作品
かもしれないが本作のよう作品が技術的な点よりも思考と思索の
幅として到底描きようもない21世紀の今の日本社会と映画界に
救い難い闇を感じる。
金が儲かりゃ「邦画好調」って餓鬼じゃないんだから。

黒澤明という天才によって良くも悪くも駆逐されて途絶えて
しまったもう一つの優れた進化の可能性が確かにあったことを
証明するとても貴重な作品だ。

観るチャンスがあったらしかと見届けるべし。
傑作。

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