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2009年4月25日 (土)

映画「武蔵野夫人」

2009年に見た映画(三十八) 「武蔵野夫人」

原題名: 武蔵野夫人
監督: 溝口健二
撮影: 玉井正夫
出演: 田中絹代,森雅之,山村聰,轟夕起子,片山明彦
時間: 92分 (1時間32分)
製作年: 1951年/日本 (東宝) [モノクロ]
(渋谷 シネマヴェーラにて鑑賞)

2009年 3月鑑賞
(満足度:☆☆☆☆☆)(5個で満点)

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家の財産と従来の価値感・道徳を守り通そうとする道子(田中絹代)
に対して日本の戦争遂行への在り方を批判し戦後はその社会を半ば
盲目的に肯定する婿養子で嫉妬深い夫。終戦を向かえほどなく従兄弟
の忠雄(森雅之)が復員してくる。忠雄は道子にやがて恋心を抱くが。。

最近立て続けに見ている1950年代の日本映画には従来の価値感に
囚われない(ように見える)主に若者を指して
"アプレ"、"アプレゲール"という台詞が盛んに使われる。

本作では復員して大学に通う忠雄の目を通してアプレゲールな若者の
誕生したばかりの時期の若者と中高年の姿が描写されている。
終戦直前から終戦まもない数年間という時期を立場と思考の背景が
大きく異なる人々を武蔵野の自然描写を交えて冷静な大人の視点で
描いている。

忠雄は復員後、大学に通うが戦前の日本の何もかもを罵倒してやまない
大学教授やそれに付和雷同して浮かれ騒ぐ自分と同じ世代の若者に
どうしても同調できない。

服装を復員してきた時のまま変えようとしない忠雄に教授は理由を
聞くと忠雄は言い放つ

「戦争を忘れないためだ」と。

それは反戦ということより自分達の国が戦争をしたという事実認識を
一瞬で忘れ去ってしまって平気でいる人々と社会への監督溝口健二と
原作者である大岡昇平の大きな疑問符ように見える。

美しい武蔵野に根を張って生きてきた一族の家を守るためだけに
生きていこうとする道子と、その一途な道子の思いと佇まいが
無秩序な開放感に狂騒する社会に嫌悪感を持つ忠雄には眩しい。

忠雄の道子への思いが高まってくるのと同調するように道子の
女としての輝きが自然と画面から増してくるようにに見え、
また冒頭から最後まで描かれる武蔵野の自然も全て的確な構成で
美しく描かれながらも忠雄と道子の心の距離の変化と忠雄の心境
の変化を鏡のように映すかの如く観る者にはシーンごとに違った
印象を持たせる溝口健二率いる製作陣の手腕は流石の一語に尽きる。

戦前も戦後の社会も好きなように批難しては結局その体制の流れ
の中で利益を得ることに何の疑問も持たず家の権利書さえも狙う
夫に道子は最後は命を懸けて抵抗する。

1950年代のまともな映画の多くがそうだが戦争遂行に声を出して
異を唱えなかった人々は戦後、沈黙を余儀なくされまた戦後の社会を
謳歌する者のほとんどは戦前の社会を全否定しながらその利益だけは
実に狡猾に巧みに奪って平気でいるという構図が物語りの骨格
としてまずある。

1960年代に入ると最早人々は自分達もまた盗人であるという
ことすら完全に忘れて受け継いだ財産の浪費にひた走り続ける。

結局は戦前も戦後も関係なく生み出された利益の仕組みも意味も
知らずにそれを受け継いだことに感謝の心も責任感も感じない
人間が下手な博打を打ち続けているだけのようにも見えてくる。

道子は自分にとっての武蔵野をただ一人守り通して映画は幕を閉じる。
若い忠雄には忠雄の"武蔵野"があるのだということを明確に告げて。

戦後社会自体には疑念を抱きつつもそこで生きる若者達そのものへ
は肯定的に捉えた開放感のあるラストは軽やかでその視線は暖かい。

原作である大岡昇平の小説は未読だが読んで本作と比較をしてみたい
気がする。原作は登場人物や戦後社会への視線はよりシニカル
なのではないかと推測するがどうだろうか。

[アプレゲール]
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アプレゲール(après-guerre、仏:戦後)は、戦後派を意味する言葉。
元は、第一次世界大戦後のフランスで、既成の道徳・規範に囚われない
文学・芸術運動が勃興したことをさした。
(略)
日本で(アプレゲールを略して)「アプレ」という言葉が流行したのは、
第二次世界大戦の後である。戦前の価値観・権威が完全に崩壊した時期
であり、既存の道徳観が欠落した無軌道な若者が大量に出現し犯罪事件
も頻発した。
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(ウィキペディアより)

[武蔵野台地]
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武蔵野台地(むさしのだいち)は、関東平野西部の荒川と多摩川に
挟まれた地域に広がる台地である。その範囲は東京都区部の西半分と
北多摩地域および西多摩地域の一部、そして埼玉県南部の所沢市や
狭山市などの地域を含み、川越市は武蔵野台地の北端に位置する。
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(ウィキペディアより)

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コメント

>アプレゲール
こういうヤツラが今しかるべき地位にいるから性質が悪い
しかも自分たちではわかっていない

投稿: 万物創造房店主 | 2009年4月28日 (火) 16時59分

>アプレゲール
50年代の映画沢山見ましたが
若者達の無法振り放言振りは今の若者の比
じゃないすね。ただアプレの世代と戦争に
行って戦った世代は重なるので仕方が無い面も
あることは事実だと思います。
このアプレ世代も今や80歳代でお迎え間近だし。
問題はこのアプレ世代が生んだ子供達ですね。
今と同様かそれ以上のフリーセックスの果てに
産まれて親はそれでも遊び呆けてこの子供達が
今60代後半のマナーのクソ悪い中高年に
なっているすね。映画館で映画を観るのは
本当に楽しいのですが、もうこの世代の一部は
人間というよりも動物に等しい。
真剣に全ての映画館で入場禁止にして欲しいっす。

投稿: kuroneko | 2009年4月29日 (水) 00時24分

映画館と言えば
タイ映画「チョコレート・ファイター」ついに公開ですよ!
僕、前売買っちゃいました

投稿: 万物創造房店主 | 2009年5月21日 (木) 20時12分

>「チョコレート・ファイター」
レビュー期待してます(^0^)/

投稿: kuroneko | 2009年5月21日 (木) 23時23分

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