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2009年4月 1日 (水)

映画「女鹿」

2009年に見た映画(二十七) 「女鹿」

原題名: LES BICHES
監督: クロード・シャブロル
出演: スティファーヌ・オードラン,ジャン=ルイ・トランテニャン,ジャクリーヌ・ササール
時間: 99分 (1時間39分)
製作年: 1968年/フランス・イタリア
(渋谷 シネマヴェーラにて鑑賞)

2009年 3月鑑賞
(満足度:☆☆☆☆)(5個で満点)

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親の事業を継いで何不自由なく暮らす成熟した女性フレデリック
(スティファーヌ・オードラン)。彼女は街の路上で絵を描いて生計を立てる孤独な
若く美しい女性ホワイ(ジャクリーヌ・ササール)と出会い自宅に招く。
フレデリックの家には奇妙な住民達が奇妙な共同生活をして暮らして
いた。ホワイもまたフレデリックの魅力に惹かれ"奇妙な住人"の一員
となって暮らし始めるが。。

How to 洗脳映画。一切の抵抗をされずに人を思うがままにコントロール
するにはどうすればいいのか。その人の固有の思考を一つずつ止め、
あるいは取り上げて代わりの"命令"に置き換えていけばいい。

ホワイはフレデリックに見出され且つ自ら選択して奴隷となっていく。
(「家宝」の主人公の女性と逆を行ってるのがとても面白い)
しかし、その関係は主従の関係が完全に成り立っている時は極めて
良好でクロード・シャブロルが軽やかに描く二人の主従関係は
エロティカルでさえあるが(事実二人は口付けを何度か交わす)
その関係が一度壊れればどうなるか。。そう二人が同時に一人の
男性(ジャン=ルイ・トランテニャン)を愛してしまった時、命令文は実行されずに
従たるホワイの頭の中で無限に駆け巡り遂には破綻へと行き着く。。

ジャクリーヌ・ササールが大人になりたての女性をとても愛らしく演じていて
見ていて楽しい。ちょっと前の上原多香子に表情も仕草もソックリ。

上原多香子は好きなのでずっと脳内変換して観ていた。
恋人に待ちぼうけを食らわされ泣きながら男のいそうな場所を
走って探すシーンはとってもキュート。

クロード・シャブロルの作品はどれも大袈裟なセットやロケが
一切ないのに本当に全く飽きるシーンが無い。

街で、室内で、庭先で。人間達は戯れて愛し合って疑いあって
ちょっとだけ殺意を覚えて。。本当の人生に当然あるはずの
人間同士の"磁力"のような自分達ではコントロールできない
引き合う力や反発する力がフィルムに焼き付けられているから
きっと見ていて飽きないだろう。

美女二人に同時に愛されるウラヤマシー男を演じるはジャン=ルイ・トランテニャン。
カッコイーな。寡黙でウザクない程度の父性が滲み出てて。
そりゃ惚れるよこげな男が独身で金もありゃ。

三人の距離がだんだん詰まってきてどうしようもなくなって
しかしそれでも牽制しまくりあって遂に心地いい夜風の吹くバルコニーで
三人そろってお互いに抱きしめあうシーンはただの美女美男の抱擁というだけ
でなくて破滅の予兆も感じさせてそれでいて当然のように絵になっていて美しい(羨ましい(^^))。

金持ち美女の我がままでガラクタのような精神になって見事に
道化となって同居する男達がとてもリアルで不気味だ。
世の中には安住と引換えに自我を捨てて太鼓もちになっている人々
なんてどんな時代にも幾らもいるのだろう。

月末までヘコヘコヘラヘラして僅かな賃金を貰って生きている
自分もある意味で立派な奴隷であり道化なんだ。

上原多香子主演で本作と同じレベルの作品が日本で出来くては
おかしい。しかし絶対に出来ない壁がなぜか存在するのだ。

それは海に囲まれていることに安寧として人間についての考察が
疎かになっているからなのだろうか。しかし考察して考察してまた考察して
偉大な作品を遺した立派な先人達は沢山いるのだから一切言い訳せずに
知恵絞って勉強して面白い映画を作って観ようじゃありませんか皆様。

さてクロード・シャブロルの映画はこれで三本観た。

「肉屋」(1970年)
「不貞の女」(1968年)
「女鹿」(1968年)

率直に言ってどれも面白い。それぞれ方向性は違うので
全部観たらよろしいおま。

個人的には「不貞の女」が一番スリリングで面白かった。
「女鹿」も人間同士の支配の有り様の巧妙さと複雑さが視覚的に
描かれていてとても面白い。実験論文のような趣もある。

そうだ。
「肉屋」は短編小説で
「不貞の女」は丹念な事件の調書(レポート)で
「女鹿」は二女一男をある環境下に置いて観察してみた実験の論文なんだ。

全部、どうぞ。

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