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2009年5月29日 (金)

映画「野獣死すべし」(1959)

「野獣死すべし」


監督: 須川栄三
脚色: 白坂依志夫
撮影: 小泉福造
美術: 浜上兵衛
音楽: 黛敏郎
出演: 仲代達矢,小泉博,団令子,中村伸朗,東野英治郎

時間: 96分 (1時間36分) [モノクロ]
製作年: 1959年/日本 東宝

(満足度:☆☆☆☆ )(5個で満点)
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表の顔は大学院生。裏の顔は理由無き警官殺しを繰り返す男、伊達。
完全犯罪を愉しんでいた伊達はやがて留学資金を得る為に学費を工面
出来ずに退学目前にいた男を誘いこみ共に自らの大学を襲撃する。。
原作は大藪春彦の同名小説。

 

 自分にとっては『野獣死すべし』と言えば、1980年に公開された松田優作と
村川透の最強タッグの"それ"でたまにDVDで観る。所有DVDの中では
回転率はかなり上位の方だ。

 80年版で特に好きなシーンはオープニングすぐのドシャ降りの中での
長回しによる刑事殺しのシーンで邦画史に残るカッチョイーシーンだと思う。
あとは優作演じる伊達がサイレンサー銃で群集の中で無慈悲に射殺を行い
つつも何食わぬ顔で素通りするスローモーションのシーンも超イカス。

 さて、そんなわけで本作の方は普通にまあまあの出来の作品だが、全体的な
作品のポテンシャル(緊張感)とか主人公の狂気の度合いは全然80年版の方が
勝っていると思う。以下、1980年の方は"優作版",本作の方は本作または
"仲代版"として感想を書く。

 優作版も仲代版もどちらも及第点の作品だけあって両方ともそれぞれの
当時の時代背景から殺人の動機をきちんと描いてあって、且つその動機が
全く異なる
のが面白かった。

 優作版での主人公"伊達"は、カメラマンとしてアジア諸国の戦争を追う果てに
やがて自ら狂気に墜ち犯行に及ぶという設定だが仲代版の方は、皆が己のエゴ
剥き出しで生きる戦後日本の社会(大人達)への開き直りまたは完全な挑戦
として冷徹な犯行を続ける。

 仲代達矢が余りに卒なく上手く演じるので仲代版の伊達は行動全般にかなりの
余裕が感じられる
。東野英治郎演じるベテラン刑事が全くもって気迫が足りない
ので尚更だ。まあ"東野デカ"も最後は老練振りをちょっとだけ発揮してみせてくれて
良かったが。

 中盤からクローズアップされていく伊達と同じようにエゴイズムが蔓延する社会に
憤りを感じながらも真っ当に生きようとする小泉博演じる若き熱血刑事をもっと
最初から伊達を周到に追い詰める役としてボクシングのタイトルマッチのように
両者を対等に描けば、ドラマはより緊迫して面白かったのではないかと思う。小泉博は
その気で伊達に対峙する人物として仲代という俳優に対しても気合を入れて接している
ように思われるのでちょっと残念だ。

 伊達に巻き込まれ共犯となる大学生の男が犯罪者にトランスレートする
瞬間の描写はまあまあ良かった。
「その日」まではごくごく普通の金策に困り
果てる苦学生だった男が覆面を被り銃を構え、もう永久にもとの人生には戻れ
なくなるシーンは作中でも最も緊張感のある画面構成になっていた
ので
もっとこの男の心理に焦点を当てて欲しかったが淡々と物語は進行し男のウブな
動揺を嘲笑うように仲代演じる伊達は自分の研究室に派手にダイナマイトを
投げ込む!中には恩師がいるのに!!

 「共犯者の苦悩の描写」という点においては優作版も鹿賀丈史が熱演してこちら
では伊達と一緒に銀行強盗をやらかすが完成度と緊迫感は負けていない。全体的に
予算と企画がまずありきで且つ作品をそこそこのレベルには保とうとする
"プロの余裕"が見られてて安心して観れた。学生さんで映画を撮っていられる
方なんかすぐに盗める技が散見出来るので観たらよろしいかと。

 邦画黄金時代と呼んでいい50年代の作品としては本作は中堅レベルといえる。
そんなに何でもかんでも有難がる必要もないんだという意味でも見ておいて特に損は
ないだろう。

 仲代版の演じる伊達の人格は市川崑監督による情念の世界「鍵」で同じく
仲代が演じる主人公の男とほぼ被ると思っていたら同じ1959年の作品だったりする。
両方とも仲代達矢は丁寧に演じている。

 また1959年から仲代は小林正樹監督の超大作にして大傑作「人間の條件」(全6部)
なんてスゲー作品にも主演しているのでこの時一つのピークを迎えているといえる。

 「野獣死すべし」、「鍵」、「人間の條件」どれもグッジョブしている。とりわけ
「人間の條件」ではすでに俳優"仲代達也"は完全に完成している。仲代達也は
本作の時点でまだ僅か27才だ。

 「野獣死すべし」優作版も是非どうぞ。個人的には本作よりも優作版の方を
強くお勧め。

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コメント

細かいことですみません、、、

勇作ではなく、優作でお願いできませんでしょうか?
ファンとしては少々気になります。

投稿: 通りすがり | 2013年10月25日 (金) 18時05分

>細かいことですみません、、、
 
全っっっっっっっっっっっっっっ然
細かくないっす(;;一_一;;)
 
ご指摘頂きありがとうございます!!
m(_ _)m

投稿: kuroneko | 2013年10月25日 (金) 23時41分

早々に訂正頂きありがとうございます。

差し出がましいとは思ったのですが、つい、、、

これからも楽しく拝見させて頂きます。
ありがとうございました。

投稿: 通りすがり | 2013年10月26日 (土) 12時43分

>差し出がましいとは思ったのですが、つい、、、
 
全っっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ
っっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ然
差し出がましくないっす(^o^;)/
  
自分もファンとまではとても言えませんが
松田優作好きを自認している一人ですので
危ないところでした。本当に。助かりましたです。
 
 
>これからも楽しく拝見させて頂きます。
ありがとうございました。
 
こちらこそありがとうございます。
また、しょーもないミスを見つけたら
ご面倒ですが指摘してやってください。
っつか幾らでも見つかるかもしれませんが(ーー;)
一つでも楽しんで頂ける記事がありましたら幸いです。

投稿: kuroneko | 2013年10月26日 (土) 19時45分

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