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2009年5月22日 (金)

映画「むかしの歌」

「むかしの歌」

原作: 森本薫
監督: 石田民三
脚色: 森本薫
撮影: 山崎一雄
編集: 江原義夫
出演: 花井蘭子,藤尾純,山根寿子,進藤英太郎,高堂黒典,伊藤智子

時間: 77分 (1時間17分)
製作年: 1939年/東宝京都

(満足度:☆☆☆☆☆)(5個で満点)
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明治の初期、西郷隆盛の挙兵により始まる西南戦争(明治十年)前夜の大阪を
舞台に時代に置いていかれた元侍の男、才能ある商人の若者、侍の娘や町人達、、
それぞれの300年続いた徳川時代の縦割り身分社会をまだまだ濃厚に残す時代の
中で"四族平等"の全く新しい社会を戸惑いながらも生きる人々を細やかなタッチと
映像美で描く。

冒頭の童謡音楽に合わせゆっくりゆっくり流れる汽船のシーンに涙腺が緩む。

ただ時計によって計測される時が過ぎた過去を描いているのではなく
良きにつけ悪しきにつけ日本人が永遠に失ってしまったそれぞれの立場での
価値感を持って生きた人々がまだいた時代である『むかし』を見事にフィルムに
焼き付けた宝石のように輝く素晴らしい作品。

西郷一派(私学校党)の決起は今や時間の問題となっていた。

商人にとってはいざ内戦が始まれば物価は高騰し商船の運航状況も
滅茶苦茶になってしまうが、同時に上手く立ち回れば大儲け出来る
千載一隅のチャンスでもある。そのために一日たりともうかうか出来ずに
最新情報を入手しようと日々奔走する。

一方、侍だった男は稼ぐ手立ても知らず妻からも娘からも完全に愛想を
つかされ金銭的にも精神的にも生きる術を失って武士の魂である刀を
力なく手入れする日々。残された唯一の望みは西郷の乱に全身全霊、
己の全てを投じて死んでしまうことだ。しかしそんな哀しい男の意地も
女達には単なる"狂"としか映らない。。

『その時代が持つ特有のリアリティ』の描写の積み重ねにただひたすら
没入することのなんたる幸せ。

戦争=悪 だとか 女=か弱い だとか 昔=良かった みたいな幼稚園染みた
思考停止の記号的な描写や演技がいかに犯罪的で先人達への許されない
冒涜であることか。

いつの時代も計算高く立ち回る人間もいれば情に厚い人々もいれば
己の節を守って死のうとする人間もいる。
生きようとする者もいれば死のうとする者もいる。諸行無常だ。

やがて西南の役はまさに突然勃発する。

すわ死に場所を逃すまいと男は家族に一言
「さらば」
と告げ刀と有り金を抱えて脱兎の如く駆ける。

商人は在庫の商品一覧を脳裏に描いて輸送経路の乱れと
コストの算出にかかる。

侍の娘は没落しきった家を支えるために己の信を曲げ
芸者の道に進むことを決意する。。

ラストの小雪がちらつく中を初仕事に向かう娘を乗せた人力車の
ショットはまさに完璧だ。

この作品を観れたことにただただ感謝。

戦争に負けてベルトコンベア式に半ば強制的に"観させられ"ているハリウッド映画
1000本よりもこの一本の方が値打ちがある。
今すぐ重要文化財に指定すべき。

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