映画「雪夫人絵図」
2009年に見た映画(四十五) 「雪夫人絵図」
原題名: 雪夫人絵図
監督: 溝口健二
撮影: 小原譲治
出演: 上原謙,木暮実千子,浜田百合子
時間: 86分 (1時間26分)
製作年: 1950年/日本
(池袋 新文芸座にて鑑賞)
2009年 4月鑑賞
(満足度:☆☆☆+)(5個で満点)
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その美しさと気丈さで周囲の羨望を集める資産家の雪夫人(木暮実千子)。
しかし夫との仲はかなり前から冷え切っていた。夫は婿養子のため雪の
財産を自由に出来ずに雪に辛くあたる。好意を寄せる頼りになる知人
の琴を教える男(上原謙)は雪に自立するように助言を続けるが。。
「大阪の宿」(1954),「叛乱」(1954),「大日向村」(1940)などで
素晴らしい仕事を残している小原譲治(撮影監督)手掛ける映像美が
冴え渡る一本。
しかし巨匠溝口健二にしては珍しく(?)も本作は後半は腰砕けのような
宙ブラりんな形で終結している。
夫を嫌悪しながらも体を求められると拒否しながらも最後は
応じてしまう木暮実千子の演技と溝口の演出はエロスが漂っていて
良い。夫(柳永二郎)のそんな妻の女としての弱みを徹底的に付け込む
嫌らしさもグー。
しかし三角関係(上原謙が演じる男はあくまで雪に独立した女性
を目ざすように公正な助言をし続ける)の緊張感が極限まで達しようと
する所で雪の夫よりもさらに上手を行く悪党が台頭して足元を完全に
すくわれ力関係が全体的に急展開したまま映画は幕を閉じる。
何だかすっきりしない終り方と収束の見えにくい展開に
正直言って86分でも長く感じてしまった。
急展開するタイミングがこの尺では遅すぎるか。
しかし
単純に妻に理解のない男尊女卑ともとれる夫を"悪"と見立てて
身包み剥がされる女性を被害者=善人などと描いて助っ人が現れて
お終いなどとしないところに1950年代という敗戦という価値感の
大転換がまだまだ続いている時代を生き映画を撮ることを生業とする
名匠の視線の鋭さは感じる。
雪の女としての弱点を克服できない不甲斐なさも夫の変質的且つ歪な
物言いや行動、そしてその悪たる夫を欺くさらなる悪、、
皆、自己の確立をどこかで疎かにしてきたという点では共通していて
人間の持つ弱さを体現したキャラクターだ。
彼らを生んだその原因は一体どこにあるのだろうと本作は緩やかに
訴えかける。
上原謙演じる男には大きな弱点が無くそれゆえに実存感・リアリティ
の無さが後半際立つ。
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