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2009年5月 4日 (月)

映画「氾濫」

2009年に見た映画(四十一) 「氾濫」

原題名: 氾濫
監督: 増村保造
出演: 佐分利信,沢村貞子,若尾文子,川崎敬三,中村伸郎,多々良純
時間: 97分 (1時間37分)
製作年: 1959年/日本 (大映)
(渋谷 シネマヴェーラにて鑑賞)

2009年 3月鑑賞
(満足度:☆☆☆)(5個で満点)

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化学会社の重役を務める中年サラリーンの家庭を中心にして
老いも若きも自分の保身と快楽の為に生きる愛憎渦巻く人間模様を描く。

坂口安吾の書いたエッセイに空襲を"美しいものだと思った"と
述懐する文章があったかと思う。加藤典洋はこの感慨を述べた文章が
「戦後」に書かれたというところが大きなポイントだと「敗戦後論」の
中で述べているがなかなか重要な指摘だと思う。

空襲で焼かれる家や街を見て逃げる庶民や戦場に立つ兵士が見たであろう
一瞬の光景を"美しい"と思う心はごく自然だ。

むしろ空襲や戦場に遭遇した人々十人が十人ともにその状況から
=戦争はいけない
=平和は大事だ
と判を押したように思うという描写は戦争が過去の物になればなるほど
逆プロパガンダ的ですらある。

本作はエロというほどの描写もグロというほどの描写も特に無いが
空襲の中で逃げ回る中で主人公の男は燃え上がる炎と落ちてくる焼夷弾
に照らされた一緒に逃げる意中の女性のその表情を見、男としての思いを
遂げるという描写がありまだ戦争の記憶が鮮明に残っていたであろう
時代の製作(1959年)なので僅か1分程度のシーンだがなかなか迫力が
あってハイライトの一つとなっている。

空襲シーンをこういった描写で使用する映画が作られるようになったこと
自体が戦争が実生活への影響も含めて終わったまたは遠くなったことを
物語っているように思える。

愛人を作るものの元々生真面目で家庭と会社との均衡を保てない
中年サラリーマンの悲哀とその妻や娘達もまた不倫や略奪愛に憧れて
中途半端に実行して中途半端な実人生の破綻と修正を繰り返す。

戦後10数年にして中流以上の階級層のモラルは今と同じかそれ以下
だったのだといことがよく判る作品。

中村伸郎がテレビドラマ「白い巨塔」やその他の映画作品でお馴染みの
地位と学歴をフル活用して富と名声を得ようと着実に動いてく
役柄を演じている。

「たそがれ酒場」で小気味良く酔っ払い役を演じた多々良純が本作では
出世街道とは全く無縁な化学会社の現場研究員役で出演している。

中村伸郎は本作も含めて多くの作品で自己の栄達のために何でも踏み台に
していく冷酷なエリートを演じているがウィキペディアによると
三島由紀夫に心酔し共に文学座を脱退して劇団を結成したり渋谷の
小劇場で11年間欠かさず毎週金曜日に上演を行うなどその役柄から
醸しだす雰囲気とは異なりかなり気合の入った反骨漢だったようだ
(1991年7月に永眠)。

原作は伊藤整。
本作の原作については伊藤整は"映像化は不可能"と述べていたらしいが
その群像劇の立体的な複雑さから述べているのか登場人物達の愛憎の
内面の描写のそれを指しているのかは映画を観た限りでは判らなかった。
群像劇としては多層的ではあるが複雑というほどでもなく
押しなべて登場する人物達の行動は動機まで含めてそれほど深く
踏み込んでいない。

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