映画「大阪の宿」
「大阪の宿」
原作: 水上滝太郎
監督: 五所平之助
脚色: 八住利雄,五所平之助
音楽: 芥川也寸志 (団伊玖磨?)
撮影: 小原譲治
美術: 松山崇
録音: 道源勇二
照明: 矢口勇
出演: 佐野周二,乙羽信子,細川俊男,左幸子,安西響子
時間: 122分 (2時間2分)
製作年: 1954年/日本 (新東宝) [モノクロ]
(満足度:☆☆☆☆☆)(5個で満点)
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かつて父が勤めていた会社と同じ会社で働く中年独身男三田。
何かと父と比較されたり、根が実直で正義感も旺盛なところから
煙たがられ東京から大阪に転勤を命ぜられる。大阪ではとある宿に
滞在することになるが三田がその宿で見たのは女中達を含めた
女達が強かに「生きる姿」だった。
五所平之助が傑作「煙突の見える場所」の一年後に手掛けた作品。
音楽が「煙突の~」同様に芥川也寸志で本作のそれも小気味良い。
撮影は二・二六事件を忠実に再現した「叛乱」(1954)で骨太な
映像を作り出した小原譲治。美術は黒澤明の「七人の侍」(1954)や
伊藤大輔の傑作映画「下郎の首」(1955)を手掛けた松山崇。
全くもって凄いメンバーだ。何気に戦後映画史に残る最強メンバー
が組んだ作品の一つではなかろか。
実際、作品の端々までスタッフの層の厚さがにじみ出ている。
宿屋のセットの自然さや日常風景の構成の確かさ、音楽、
カメラワーク、そして登場人物達の描写の澱みなさ。
邦画界にとっての1954年という年のモノゴッツさは
成瀬巳喜男監督作「山の音」で書いた通り(こちらも傑作)。
「煙突の見える場所」では戦争の傷跡が登場人物達の行動の背景に
まだ色濃く残っていたがこちらはやや薄まった感じがある。
しかし、どちらも敗戦の混乱によって人生の強制リセットを
余儀なくされた人間達の生き様を描いており本作と「煙突の~」は
姉妹編のような関係にあるといっていいように思う(当然物語上は関係なし)。
生真面目な男である主人公の三田が大阪滞在中に見たものとは
僅かな金のために子供の為とはいえ滞在客の金を盗んだり
男に体を委ねる若い女性の姿だった。
仕事や生活にコネのある人間達はその特権を疑いなく享受して
弱者を顧みることもなく自己のことしか考えていない。
戦争で縁者が死んでしまった者達、特に女子供達は『金』を
求めて男や権力者に縋って生きていくしかない。
三田に悪気は無いにせよ贋の布地を売った美しい少女(安西響子)
は三田が宿泊する宿を訪ねそのまま長期滞在している別室の
心無い男にあっさりと金で体を許す。
後日、三田が少女の家を訪ね体を売ったことを窘めても少女は
何ら動じない。無表情の少女の視線の先にはピクリとも動かない
座ったままの死体があった。その日の朝亡くなった少女の
父親だった。身寄りも無く金も無い少女にはその死体すらも
どうしようもない。。
少女を弄んだ別室の男は若い女中のお米(左幸子)とも同棲同然の
ふしだらな関係を続けていた。しかしお米もまた金の為と割り切り、
関係を持っていることを隠そうともしない。宿の女将はやがて
連れ込み宿(ラブホテル)に改造するといって滞在中の三田の承諾も
得ずに改築を開始する。
三田はそんな女達と彼女等を堕落させる戦後社会に憤慨し叫ぶ。
「人間は、人間は一体どこへ行ってしまったんだ」
三田が東京へ戻ることが決まり、彼を慕う人々がささやかな
送別会を開く。損得勘定だけで動かされる人間達の行動を延々と
描写してきたことで純粋に三田の人間性を慕って集まった女中達や
同僚(細川俊男)との別れの会は対比を成して爽やかで心打たれる。
地味といえば地味な内容の映画だけど優れた技術と才能、そして
豊かな社会的常識と見識を持つ人々によって作りこまれているので
終始飽きることもなく、ずっとこの物語と人々を観ていたいと思った。
情の通わない男と寝ることを表面上は何とも思わないアプレな若い女中を
左幸子が茶目っ気たっぷりに快活に演じていて惚れた。
表情が豊かで目が大きくて可愛いこの人。
もう一人のアプレではないけどあっさり体を売る少女を演じる
安西響子は今の時代でも充分通じるもの凄い美少女振りでビックリ。
ちなみに主演の佐野周二は古くは「クイズ100人に聞きました」や
「わくわく動物ランド」、現在(2009年時点)では「サンデーモーニング」等の
司会を勤める"あの人"の父親だったりする。そういや似てるわ。
アノネ オッサン、
ワテ ホンマニ ヨイワンワ。
オッサン、
オッサン、
オッサン、
オッサン!
ワテ ホンマニ ヨイワンワ。
映画としての完成度、高し。
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