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2009年6月10日 (水)

映画「鰯雲」

2009年に見た映画(六十) 「鰯雲」

原題名: 鰯雲
監督: 成瀬巳喜男
撮影: 玉井正夫
出演: 淡島千景,木村功,中村鴈治郎(二代目),小林桂樹 ,新珠三千代,水野久美,司葉子
時間: 130分 (2時間10分)
製作年: 1958年/日本 (東宝)
(池袋 新文芸座にて鑑賞)

2009年 4月鑑賞
(満足度:☆☆☆☆)(5個で満点)

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戦争未亡人となり姑と暮らす八重(淡島千景)と本家をひたすら
農業で生計を立て守る兄の和助(中村鴈治郎)とその息子達。
旧来の考え通りにどこまでも家の繁栄を第一に息子達の将来と
嫁の面倒を工面しようと奔走する和助を他所に息子達は時に協力し
合い時に八重の協力も得て自分達の人生を拓いていく。八重もまた
古い価値感に縛られず自立した女として生きることを目指す。。

成瀬巳喜男による戦後の農村を舞台にした爽やかなトレンディドラマ。
戦争未亡人となって姑の呪縛に縛られて生きる淡島千景演じる八重を
はじめ屈託なく束縛から次々と脱していくの逞しい様が楽しい。

なぜトレンディドラマかといえば、後半まで古い社会の象徴として
息子達の前に立ちふさがる中村鴈治郎演じる和助までも含めて
本作に登場する人々は皆"合理的な"思考を持ちえているがゆえに
「本当の敵」は実はいないように上手に作ってあるからだ。

さっさと地元の銀行員となって若さを謳歌する次男。家の仕事を
きちんと継ぎつつも宗家としての意地と形式を重んじる父を
相手にせず巧みに両思いの相手(司葉子)と所帯を持とうと
慎重に時を稼ぐ長男。兄達に援助を受けながら自動車工を目指す三男。
自分を差し置いて勝手に生計を立てて次々に家を出て行く
息子達に怒りながらも無意味な反対はせず最後は折れる父。

ただ息子だからといってそれだけで闇雲に父に反抗したり
父もまた頑固一徹には違いないがいつまでも道理無く息子達を
束縛し続けることもない。

後半、息子達のように正面から反抗できずに親に従うままに
家業を継ぎ、嫁を貰い、親に従うままに役に立たないからと
離縁させられた哀しい和助の若かりし頃が明らかになる。

どうしようも無い頑固・頑迷な親父として息子達の前に
立ちふさがるが本心では息子達を思い、昔別れさせられた元妻
の前では別人のようになってしまう中村鴈治郎の起伏の大きな
演技が素晴らしい。

一時の安息を得た妻子ある新聞記者(木村功)との関係を
終わらせ八重もまた自立のために田畑を耕していく。
その収穫の糧の実の一粒一粒が明日の自立へと繋がっている。

成瀬巳喜男の苦味を巧に抑えて撮られた人生応援歌。

成瀬がもし今という時代を観たらどんなドラマを撮っただろうか
と思わずにはいられない。

才能の前には"時代の束縛"なんてものは何もないんだ。

一流ハイテク企業を舞台にしょうが華麗な衣装を着せようが
ダサいものは結局ダサく、田んぼで泥に塗れようがモンペを
履こうが合理性を重んじて最適化を常に試みようとする者は
輝いていて新しい。

撮影は玉井正夫。
武蔵野夫人(1951年)
山の音(1954年)
ゴジラ(1954年)
などの映像としての評価も抜群な傑作映画で撮影を手掛けている。
本作でも農村・街の風景をとても印象深く撮っている。

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