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2009年6月 7日 (日)

映画「土と兵隊」

2009年に見た映画(五十八) 「土と兵隊」

原題名: 土と兵隊
監督: 田坂具隆
出演: 荒木重夫,山本礼三郎,東勇路,井染四郎,小杉勇
時間: 144分 (2時間24分) [モノクロ]
製作年: 1939年/日本 (日活)
(東京 東京国立近代美術館フィルムセンターにて鑑賞)

2009年 4月鑑賞
(満足度:☆☆☆☆+)(5個で満点)

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日中戦争を題材に中国の戦場をひたすら行軍していく兵達を
ドキュメンタリーと見紛うほどのリアリズムで描く。

上映が始まる前に後ろの席に座っていた初老の紳士が
隣りの人に喋っているのが聞こえた。
「こりゃ珍品ですよ」
「当時の軍がなぜ検閲でこの作品を通したのか謎ですな」
「軍の中にも心ある者がいたのかもしれませんな」

冒頭、兵を指揮する男が大陸に向かう船の中で綴る手紙から
この和製「プライベート・ライアン」ともいうべき物語は始まる。

ほんの少し前まで
魚屋の倅だったり
農家の息子だったり
した者達が
何の縁もゆかりもない
自分の命令に従い
死んでいくかもしれない。

広大な大地を歩兵達は
走る
走る
ひたすら走る
20~30kg以上あろうかという装備を背負って
ぬかるんだ地面を蹴って
銃声の聞こえる中を
走る
走る
伏せる
雨が降ろうと仲間が斃れようと
走る
走る
また
走る
走る

自分だったら例え映画に出演できても
ギャラを充分に貰っても
足場の悪い荒野をひたすら重装備で走るこのシーンに
出るのは全く御免だ。
実戦だったら尚更御免だ。
死ぬ。弾に当らなくてもこの行軍を続ければ死ぬ。
いや死にたくなる。

戦争とはギャグ漫画同然かそれ以上にやたらと涙を流して
好きな人と抱き合うものでもなく
大国を利するだけの反戦を唱えるのではなく

意味も判らずに命令のままにクソ重い装備を背負って
休憩も与えられずに銃声の中を走り
雨の中で眠り、我慢できなくなって生水を飲んで
病気で独り死んでいくものなんだ。
置いてかれて実際の生死も明らかでないまま
周囲の人間の証言から状況的に「戦死」とされて
遺族に告げられるだけ。

後ろの席の方が「珍品だ」と言ったのは
人間社会の事象のある断片を『物語』として完全に再構築
して映画という心地の良い「商品」に形作って最もテーマに
沿った(=儲かりそうな)スタッフや出演者を選んでといった
かけ離れた工程と製作者の意思が全面に押し出されているから
ということなのだろう。

さっぱり見えない敵と時折聞こえる銃声。
無限に続くかと思える行軍。食事。僅かな睡眠。行軍。。
じょじょに衰弱していく兵士達。

銃後のシーンも主人公的な人間達の葛藤が描かれるわけでも
なくひたすら淡々と描かれる戦場シーン。

中盤からしだいに銃声が大きくなり犠牲が出始め
自軍の攻撃の規模も確実に大きくなりそして
『敵』が見え始めていく。敵といってもこちらに攻撃をしてくる
から敵だというだけであって何が何だか判りはしない。
ただひたすら味方の為にヘマをしないようにするだけだ。
戦争だから。
ヘマをしたら自分も仲間も死ぬ。
ヘマをしそうな奴は置いていく。
戦争だから。そして

「戦争とは死にたいほど退屈なものだ」
という国際的な常識が嫌というほど描写されていく。

本作が検閲を通ったのは『嘘』が無いからではないだろうか。

本作がたった1000円でコンビニや本屋で簡単に手に入るのは
とてもいいことだと思う。

何となく気になってこのDVDを手に取り自分のお小遣いで
買っている少年少女達が少なからず日本のあちこちにいると
思いたいところだ。

大人の無知な観念や嘘に覆われたたわ言を相手にする必要はない。

少年少女達、本作を観て何でもいいので考えるべし。
おじさんが買ってあげてもいいよ。
おじさんの持っているDVDを無期限で貸してあげてもいいよ。
観るべし。

「プライベート・ライアン」(1998)より全然お勧め。

本作の出演者のうちの二人が後に実際に戦死しているとのこと。

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