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2009年7月18日 (土)

映画「酒と女と槍」

「酒と女と槍」

監督: 内田吐夢
脚色: 井手雅人
撮影: 鷲尾元也
音楽: 小杉太一郎
美術: 鈴木孝俊
編集: 宮本信太郎
出演: 大友柳太朗,淡島千景,花園ひろみ,片岡千恵蔵

時間: 99分 (1時間39分)
製作年: 1960年/日本 東映
(満足度:☆☆☆☆+)(5個で満点)
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切腹をすることになりどうせなら賑やかに大勢に見送られながら見事腹を斬って
果てようと自ら時と場所を宣伝する豪胆な武士富田蔵人(大友柳太朗)。しかし腹に
刃を突きたてようとしたその瞬間に達しにより切腹は強制的に中止にさせられる。
富田は武士の世界に嫌気がさし隠遁して女(花園ひろみ)と静かに暮らすが、
やがて天下分け目の関ヶ原合戦が迫り時局は日々切迫していった。一騎当千の
富田を周囲が放っておくわけはなかった。。

 オープニングとクライマックスのダイナミズムに満ちた迫力の画を味わうだけでも
観る価値が充分にある作品。

 特にクライマックスの大友柳太朗演じる富田蔵人の馬上の雄姿の超ド迫力は
僅か1分にも満たないシーンながら
「全てのCG映画よこの画に迫れるものなら迫ってみせろ」
とでも絶叫したい爽快感と素晴らしいスピード感がある。

 丘を豪快に駆け下り槍を存分に振り回すその雄姿の演技と撮影技術の高さと
両者の融合の見事さは他の追随を許さず恐らく世界的中の映画の中でも馬上の
戦士のシーンとしては確実にトップクラスの出来だと思う。

 プロの技としかいいようがない本物のシーンは数十秒であろうとも脳に鮮やかに
刻印され脳波は満足信号を発信する。

 「北斗の拳」「花の慶治」の作画担当として名高い原哲夫の無数の戦闘シーンの
大胆すぎるパースや人物の巨人化はデフォルメではなくて本作のクライマックス
シーンをお手本にしてのことでは
なかろかと真剣に思った。

 主人公の富田が自分の本性を偽って隠棲するも次第に武士(もののふ)の血が抑え
られなくなりやがて"覚醒"し愛する女性も捨てて戦場に赴く様は、同じように抑制が
すっかり効かなくなり悲劇的最後を迎える主人公を同じく大友柳太朗が演じている
「仇討崇禅寺馬場」(1957)を思い起こして観るとなかなか楽しい。

 物語の展開としては両作品ともに大友柳太朗が演じる男は「不可抗力の運命に
よって人生が暗転していく男」なんだけど大友柳太朗の演技はどちらかというと
「もう一人の裏の自分(人格)が表を侵食していく」というジキルとハイド的な精神の
スイッチのON/OFFが効かなくなる危機をより濃厚に表現しているようで興味深い。

 この物語は主人公を中村錦之助が演ったり、片岡千恵蔵が演ったり、長谷川一夫
が演ったり。。とすると同じストーリーで同じように女を置いて戦場に返り咲くにしても
動機から女との別れのシーンやらそのセリフの雰囲気やらがまるですっかり変わるのは
明らかで想像するのもまたいとおかし。

 いかに大金をかけてリメイクしようともCGを駆使しようともクライマックスの短いけれど
素晴らしい戦場シーンがなぜ現在の映画界では作れないのか真剣に考える価値は
あるのではないだろうか。先達の映画人(活動屋)から学ぶべきは大衆(観客)を驚かせ、
楽しませようとする、そのために"画"を工夫を凝らして撮ろうとする『情熱』ではない
だろうか。

 人物造詣の甘さは、職人監督「内田吐夢」による現場スタッフのセンスと技に身を
委ね、各セクションにそれなりの裁量権を与えているからなのか否か。

 本作はカラー作品であるが「仇討崇禅寺馬場」はたった3年前の作品だがモノクロ
なので随分昔の作品に感じる。公式的な邦画初のカラー長編作品は「カルメン故郷に帰る」(1951)だが50年代はまだまだモノクロが全盛の時代だった。

 50年代末期から60年代に入るとカラー作品が増えて次第に主流となる。
「雁の寺」(1962)では一部にカラー映像がとても効果的且つ斬新な手法で使われて
いる。逆に言えば、60年代前半ではまだまだカラーフィルムは高価な素材だったのかも
しれない。

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