映画「アナタハン島の眞相はこれだ!!」
2009年に見た映画(六十七) 「アナタハン島の眞相はこれだ!!」
原題名: アナタハン島の眞相はこれだ!!
監督: 吉田とし子
出演: 比嘉和子,高野眞
時間: 53分
製作年: 1953年/日本 新大都映画
(東京国立近代美術館フィルムセンター にて鑑賞)
2009年 4月鑑賞
(満足度:☆☆☆)(5個で満点)
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昭和20年から同24年にかけてマリアナ諸島の島の一つ
アナタハン島で実際に起こった事件(アナタハン島事件)を
題材にして事件に直接関与し且つ事件の中心人物であった
比嘉和子その人を主役に迎えた異色作品。
この作品は書くのをスルーしようと思っていたのだけれど何と本作は
邦画における女性監督作品第一号作品ということで内容自体から
すれば膨大な諸作品の中に埋没して泡沫のごとく消えてしまうであろう
レベルの作品であると思うがその幸運な立ち位置と数奇な成立過程
によってほぼ確実に今後も消去を免れ且つ邦画の歴史に名を刻み
続け調査され続けていくであろう一編ということで書き記しておこうと思う。
日本における記録映画としての監督としては1936年(昭和11年)に
「初姿」を監督した坂根田鶴子が女性監督第一号らしい。
長編劇映画としては女優の田中絹代による初監督作品「恋文」が
1953年(昭和28年)12月に公開されている。
本作「アナタハン島の~」は同1953年の4月に公開されているために
劇映画としては女性初監督作品となる。
本作を監督した吉田とし子についてはよくわかっていない点が多く
また本作の監督が盛野二郎とされている場合があるが実際のフィルム
には盛野二郎という名は無い。
以上は東京国立近代美術館編集によるNFCニューズレター第84号
の記述に寄った。
とりあえず作品としては特にいい出来ではない。元々女優であった
わけでもない(多分)被害女性本人が主演して自身を演じてしまって
いる時点で「良い・悪い」という評価を超越してしまっている。
上述のNFC84号には以下のようにあるが、、
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『アナタハン島の眞相はこれだ!』は、当時の『キネマ旬報』の批評
(第63号)によって「戦後公開された日本映画中、最も非映画的な一遍」
と酷評されているが、(以下略)
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妥当な批評かと思う。
妥当だと思う根拠としては田中絹代の初監督作品「恋文」が先に公開
されていれば本作の今日までの扱いは全く異なっているものであったろうと
思える。さらに吉田とし子という女性が監督したのではなく男性が監督
したものであればさらに扱いは変わって2009年というこのタイミングで
自分が観る機会は無かった可能性が高いと思う。
事件そのものについては検索すると幾つものサイトがヒットするかと
思うので省略するが約30人の男性の中で一人の女性が残されその
状況下における男性達の争奪戦とそれが直接・間接の原因による
幾つかの不可解な死(殺人)は一種の密室劇として映画的な題材になり得る。
しかし本作は展開に特に工夫もなく思慮の浅い男達が一人しかいない
女を奪い合って相争う姿がそのまま描かれていく。特定のキャラの
人物像や心理描写が深まっていくということも特にない。
ぶっちゃけ
「そんなに獲り合うほどの女性でしょうか」
と観ていて思ってしまったけども渦中の女性を演じているのが
なにしろ御本人なのでそういった批判は作品の企画自体が封じ手
としてしまっている。
かと言って
「こんなに男共がいて女性が一人しかいなくて閉鎖された空間で
しかも戦時中(ある時期まで彼らは戦争終結を知らなかった)であれば
自分も他者を殺してでも争奪戦に参加するかもなー」という異常な状況下での
異常な集団心理が描けているかといえばお世辞にも描けていない。
よって「最も非映画的な一遍」という評は個人的には合点がいく。
そいうわけで上映時間53分というのは体感としては信じられない。
たっぷり1時間以上あったように感じた。
さらにオープニングで高級車で乗りつけて監督の吉田とし子と
握手してにこやかに談笑する比嘉和子には正直言ってなかなかの
抵抗感を感じる点を否めない。その抵抗感はオープニングシーンの
比嘉和子の演技の外での貫禄ありすぎる女優振りと
エンディングでの「事件に関った人々へのご冥福を祈ります」という
紋きり型のテロップによって抵抗感は違和感へと昇華する。
このオープニングのシーンはなぜ挿入されたのか。。
本企画によって比嘉和子という事件の被害女性が女優として
報われたことを作品の中に明示しなくてはいけなかったからだろうか。
これからも幾つかの側面から部分的に解剖が続けられる
であろう作品。
「人間」も「映画」も歴史という壮大且つ最高最大の悲喜劇の前では
時としてそのものが持つ質や力量とは関係なく脚光を浴びたり
重要なポジションを保持し続ける場合がある。
むしろ時としてはでなく往々にしてそんなものかもしれない。
「人間」も「映画」も。
作品自体は☆二個だが上述の通り批判を超越する作品なので
その奇妙な存在過程に敬意を表して+☆1個。
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コメント
>比嘉和子という事件の被害女性
「女王蜂」「アナタハンの毒婦」と呼ばれ
映画はB級猟奇映画にジャンル分けされるぐらいなので
「比嘉和子さんが男を操って都合の悪い男をどんどん抹殺していた」という内容じゃないのですか?
しかし、
この映画
ジョゼフ・フォン・スタンバーグが同年に日本人俳優を使って『アナタハン(原題:The Saga Of Anatahan)』というリメイクを作ってるらしいからすごいっすよね・・・
まぁでも、一生過ごすかもしれない閉鎖空間で女ひとりだと
どんな女だとしても価値はかなりあがるんじゃないですかね
美女は3日で飽きるとも言いますし
この手の人の方が逆に飽きないのかも
ところで
事件の概要をみてみますと
殺人も必ずしも奪い合いで起こってる感じじゃないですよね
好き嫌いでも起こってるし
奪い合いというよりは和子さんを助けるためだったり、和子さんの依頼によるものだったりする感じ
単純な奪い合いというよりは法律や社会というものの拘束がなくなったときに、残った道徳心だけで人間は社会生活を営めなかったみたいな雰囲気で
なんか映画「蝿の王」を思い出しますね
投稿: 万物創造房店主 | 2009年7月21日 (火) 18時51分
>都合の悪い男をどんどん抹殺していた
本作の企画の成立意図自体が
女性=被害者
という縛りがありますからあくまでも比嘉和子さんは
男共に翻弄される受身の人間として描かれていますね。
>リメイクを作ってるらしいからすごいっすよね・・・
こっちも比嘉和子さん本人が主演していたらもっと
凄かったでしょうね(^^;)本作とは人が違ったように
「都合の悪い男をどんどん抹殺していた」女性という設定で。
まあ素人さんには無理でしょうけどね。
本作の比嘉和子さんのお芝居も超微妙ですし。
>この手の人の方が逆に飽きないのかも
彼女の優しさ(母性)は画面から少し感じられましたね。
そこは唯一良かったかな。
>和子さんを助けるためだったり、
>和子さんの依頼によるものだったりする感じ
まあ一種の密室ですから理由は何とでもなるすねー
確かに「お前をアイツが狙っているから殺してやった」的な
シーンはありますよ。ただ本作はその後すぐに
その男が次の狼になってしまうだけで深みに欠けます。
監督が女性であることも無関係ではない気がしますね。
>人間は社会生活を営めなかったみたいな雰囲気
これを描くのに完璧なシュチュエーションなんですよね。
この事件て。でも人間の心の暗部を描くなんて高等なテーマ
に挑むには本人を出演なんてさせても到底難しいですね。
概要だけだと無茶苦茶シンプルで料理し甲斐が
あって私もこの記事を書くために少し検索してみて
この事件を題材にして監督したくなりましたもん。
アガサ・クリスティーの
「そして誰もいなくなった」みたいな感じにも
出来ますよね。
男共は全員死んでいて女性だけが発見される
女性は恐怖で喋れなくなっている。
しかし、実は後で一人だけ男が生きて発見され
あまりにも意外な事実を喋りだす(当然核心に
触れるまさにその刹那その男は不自然死を遂げ
同時に女は逃走)。。みたいな。うーんありがち
過ぎる展開だ(^^;)
まあ本作についてはそれほど必見!という作品でもないと
個人的には思います。
無法の閉鎖空間におかれた群集劇て永遠の
良質なテーマですよね。演出は簡単に出来ても
結果的に良い作品にするにはかなりの才能と技術が
必要ですね。
日本の若手映画製作者よ!挑め!!
投稿: kuroneko | 2009年7月22日 (水) 00時09分
まぁ女性監督・本人出演だと「女性(本人)=被害者」とならざるをえないですよね
>男共は全員死んでいて女性だけが発見される
んー
なんかでありましたねー
思い出せませんけど
子供だけ生き残ってて実はそいつが全部殺してたニヤリなんてのもあったような
投稿: 万物創造房店主 | 2009年7月30日 (木) 20時13分
>実はそいつが全部殺してたニヤリ
底の浅い興行成績のみから逆算した
嫌らしい"意外性"ばかりのクソ映画
の氾濫にはもう本当にウンザリですね。
マジで金貯めてオモチロイ映画
自分で作って可哀想な観客にも
見せて大儲けしてさらに面白い
作品作って世に問うて。。
やりたいすね( ̄ー+ ̄)
投稿: kuroneko | 2009年7月31日 (金) 01時05分