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2009年8月30日 (日)

映画「アライブ -生還者-」

2009年に見た映画(七十八) 「アライブ -生還者-」

原題名: STRANDED- I'VE COME FROM A PLANE THAT
           CRASHED ON THE MOUNTAINS
監督: ゴンサロ・アリホン
出演: ロベルト・カネッサ,ダニエル・フェルナンデス,ボビー・フランソワ
時間: 113分 (1時間53分)
製作年: 2007年/フランス
(渋谷 ヒューマントラスト 渋谷シネマ にて鑑賞)

2009年 5月鑑賞
(満足度:☆☆☆☆)(5個で満点)

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1972年10月ウルグアイのモンテビデオから飛び立った45人の男女を乗せた
飛行機がアンデス山脈通過中に墜落。国境を接するチリ・アルゼンチン・
ウルグアイ共同の捜索はやがて打ち切られた。墜落から生き残っていた
乗客達は食糧の欠乏からやがて『禁断の食材』に手を出した。。実際に
遭難した人々が当時の状況について詳細に語ったドキュメンタリー。

 

絶海の孤島よりも過酷な極寒の"世界の屋根"で普段着のまま遭難して
しまい、生き残った者達の中で選ばれた者数名が72日後に自力で
山脈を越え救助を求めたことで将に奇跡的に収束したこの事件は
とかく『神々の食糧』に手を出したことばかりがひたすらクローズアップされ
続けてきたが『それ』しかない状況であればどんな時代のどんな人種でも
絶対に『それ』を食しただろうと私はごく普通に思う。
食わなきゃ死ぬ。だから食う。言ってしまえば仕方の無いことだ。

本作はそちらについてもかなり具体的に生存者達によって言及されて
いる。「彼らは最初は抵抗こそしたがそのうち食すことを愉しんだ」なんて
平気で書かれている文献もみかけたことがあるけど実際は罪の意識に
苛まれながら極めて厳粛な空気の中で彼らは『それ』に手を出したのだ。
つまり彼らはごく普通のそれなりに良識を持った一般人に過ぎなかった。

根幹のテーマに据えられているのはカニバリズムの方ではなくて

「法の秩序から余りにも突然に余りにも遥か遠く離れて余りにも
過酷な状況に置かれてしまった集団の秩序維持の困難性」

であって赤の他人同士が食糧も防寒着も全く無い中で恋人や
夫の死体に囲まれたこれ以下は無い絶望的な中で共同生活を強いられる
とどうなるかということだ。

法が機能しない中での集団というのは恐怖でしかない。
ということがインタビューと当時の遭難中に撮られた写真と再現シーンが
無理なく織り交ぜられていてとても正確に表現されている。

最も理性と忍耐が要求されるのは最も基本的な欲求である食の分配
についてであるが遭難してすぐに(ほんの数日後から)生きるのに
最低限度のカロリー分に全員への分配が抑えられているその
秩序の機能ぶりには観ていて驚かされた。

日本人同士では残念ながらこうはいかないだろうな。
まず食糧を一箇所に嘘偽りなく申告して"全員用"として集約させて
分配ルールを作るだけでも相当の日数とそれなりの争いを
要するだろう。

生存者達もそれなりに諍いは勿論起しているのだけれど
「無理も無い」レベルの諍いであって事故後にも犠牲者を出しながらも
多くが救出された最も大きな理由は生き残ったメンバーのほとんどが
幸いにして最低限度の常識と理性を持ち合わせていたからだ。

救助を求める選抜隊のメンバーを話し合いで決め優先して
カロリーを多く摂らせ睡眠も充分に取らせて残りのメンバーは
選抜隊が使用する防寒具などを作る作業に従事する。

無法の地獄を現出させまいと全員が何度も何度も揉めながらも
結束していく。それが美しいからでなはく無法を許したら
"全員が"死亡するという意識が共有されているから結束する
しかない。

監督を筆頭に製作陣はこの事件から何を切り取ろうとしているのか
観ていて非常に明確なのが心地よい。

事件の真相にきちんと迫りながらも社会の中にある普遍的で
極めて重要なのに危うい暗黙ルールで成り立っているファクターを
炙り出している正統派ドキュメンタリー。

イーサン・ホーク主演の佳作「生きてこそ」(1993)はこの事件を基に
したハリウッド映画作品だが「神々の食糧」に手を出すシーンは
一見かなり控えめに描写されてているとも思われるのだが実際の事件を
相当綿密にリサーチして忠実に再現したものだったということが
本作を観てよくわかった。救助を求め何度か挫折するあたりの
絶望を超えた"ヤケクソ感"も非常によく再現されてイーサン・ホーク等に
よって丁寧に演じられているのが判る。

ドキュメンタリーもドラマ版の方も両方お勧め。
「生きてこそ」を先に観た方が現実の凄さとドラマ化の"核"の部分の
再現性の高さが楽しめてよいかと思う。

これから先無法・無秩序の横行がより先鋭化するであろう島国で
生きる住民としては本作から学ぶことはなかなか多いように思う。

原題も本作の場合は虚飾がないのが逆にいいね。

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