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2009年8月20日 (木)

映画「阿部一族」

「阿部一族」

原作: 森鴎外
監督(演出): 熊谷久虎
脚色: 熊谷久虎,安達伸男
撮影: 鈴木博
編集: 今泉善珠
音楽: 深井史郎
演奏: P.C.L.管弦楽団
録音: 安恵重遠
出演: 河原崎長十朗,中村翫右衛門,山岸しず江,加藤大介

時間: 106分 (1時間46分)
製作年: 1938年/日本 東宝東京 前進座

(満足度:☆☆☆☆☆)(5個で満点)
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寛永19年(1642年)、家長の些細な失態による切腹から始まった阿部一族の
没落への道。次第に外交的なチャンネルを失い武家社会からの孤立を深め遂に
討伐命令が下り滅亡に向かう阿部一族と討伐側との"戦争"を描く時代劇超大作。

『戦争』に至るプロセスを戦後の幼稚で底の浅い無知でネガティブなイメージでは
なく、かつては名門の誉れも高かった阿部家の外交政策の行き詰まりと一族を
取り巻く周囲との微妙な空気の冷え込みによりやがては大規模な戦闘になってまでを
追っていく着実な描写が心地よい。

屋敷の周囲を完全に取り囲まれながらも当然のことながら武士(もののふ)
として知力と胆力を駆使して一族は奮戦し一方的かと思われた戦闘はいつしか
混沌を極めていく。その敵も味方もなく死体だけが増えていくカオスは後年の
黒澤明による大作「乱」(1985)の戦闘シーンを彷彿とさせる。

また武士に憧れるが度胸はまるで無く阿部家に仕えていた男(加藤大介)が
晴れて帯刀が許された途端に本当に命を賭けなくてはならない"戦"が始まって
しまうのが可笑しくも男の滑稽なうろたえぶりが阿部家の人々の武士としての
覚悟を持って生きてきた人間との対比が鮮やかでただの武家社会礼賛の
作品にはなってなく作品に厚みを与えている。

腹を切ることになった阿部家の長は息子達に別れの夜酒を順番に注ぎながら
兄弟力を合わせるようにと告げ酔って舞を踊りそのまま今生の別れとなる。
そして時局は移り阿部家の滅亡が確定的となると今度は後を継いだ長男が
父の時と何から何まで同じように兄弟達に言葉をかけながら酒を注ぎそして舞う。

一個人の行動や考えではいかんともし難い状況が状況を呼んでやがて決定的な
局面を迎えていく中で描かれていく人々の運命。

こうした"大きな系"で描かれる映画がすっかり作られなくなってしまった気がする。
それは何も資金的な問題ではなくて人間社会を外から見る(見ようとする)スキルが
失われてしまったからだと思う。


また是非スクリーンで観たい"箱"がとてもしっかりしている傑作。
1930年代の国内外の映画もまだまだ観まくりたい。

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