映画「秋刀魚の味」
2009年に見た映画(七十七) 「秋刀魚の味」
原題名: 秋刀魚の味
監督: 小津安二郎
撮影: 厚田雄春
出演: 笠智衆,岩下志摩,佐田啓二,岡田茉莉子,加東大介,中村伸郎,岸田今日子
時間: 112分 (1時間52分)
製作年: 1962年/日本 松竹
(池袋 新文芸座にて鑑賞)
2009年 5月鑑賞
(満足度:☆☆☆☆☆)(5個で満点)
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結婚適齢期の娘(岩下志摩)を持つ平山(笠智衆)は娘の幸せを願うものの
その不器用さから思うように物事を進められない。老齢を迎えた男の静かな
内なる葛藤を描いた小津安二郎の遺作。
朴訥な男を演じさせたら天下一品の名優笠智衆主演の最高傑作にして
名匠小津安二郎最後の監督作品。
中村伸郎や杉村春子、東野英治郎、加東大介など邦画黄金期を陰に陽に
力強く支え続けてきた実力派俳優達がガッチリ脇も中も固めて
佐田啓二、岩下志摩など次の時代の邦画界を担っていく若手達に
バトンをしっかりと渡そうとするかのような感もある多くの点で時代の
ターニングポイントに当る作品といえる。小津安二郎の遺作であることも
何やら余りにも象徴的である。
しかし佐田啓二は本作公開から二年後に惜しくも37才の若さで交通事故
により世を去る(息子は言わずと知れた俳優の中井喜一)。
小津という豊かな清流の中でまさに魚のように澱みなく絶妙な肩の力の
抜き加減で演じるオッサン共から滲み出る画面の安定感は何事。。
女人の裸を眺めるが如く終始ニンマリしながら見入ってしまった。
個人的に圧倒的に萌えるシーンは
平山が戦場で部下だった男(加東大介)にせがまれて一緒にバーに行き
軍艦マーチを大音量で流して照れつつもニコニコしながら一緒に敬礼の
ポーズをとる笠智衆と加東大介のバーのマダム演じる岸田今日子の
三人のシーンだ。
部下の男は元上司への変わらぬ篤い信頼と戦後社会への不満をぶちまけ
平山はそんな元部下に仕方なくも温かく付き合い
マダムはおどけてお客と調子を合わせる。
このシーンに数十秒の間、台詞は無く三者三様に敬礼ポーズをとりながら
ただ軍艦マーチが流れ続ける。
加東大介は実際に二度召集されて復員後は一時戦場でかかった
マラリアの再発に苦しんでいる。笠智衆は年齢的な時代とのタイミングも
含めて幸運にも戦場にいかなくて済んでいるようだ(正確なところは不明)。
美しい花嫁姿を最後に見せる岩下志摩は本作公開時21才。名だたる
ベテラン陣に囲まれているにも関らず落ち着いた雰囲気ある演技は
後の大女優への片鱗を確実に見せている。
すっかりネタ切れのハリウッドに丸ごと持っていかれて適当なリメイクに
仕立てられて権利も買い取られてオリジナルすら平然と主張される前に
子供を除くあらゆる世代で何度でも味わっておきたい逸品中の逸品。
これまで観ている笠智衆が主役または主役級の役を演じる作品の
中では本作が暫定一位。恐らく揺らぐことはないだろう。
井上陽水もこの作品がお気に入りとのこと。今日まさにこの感想を
調度書いている時にテレビでリリー・フランキーを相手に楽しそうに
本作について喋っておられた。アルフレッド・ヒッチコックもお好きだとのこと。
傑作は才能ある人から生まれ才能ある人を捉え育んで、その人は
また傑作を放ちそしてまた才能ある人を捉え育み。。
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