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2009年8月21日 (金)

映画「東洋宮武が覗いた時代」

2009年に見た映画(七十四) 「東洋宮武が覗いた時代」

原題名: 東洋宮武が覗いた時代
監督: すずきじゅんいち
音楽: 喜多郎
出演: アーキミヤタケ,ダニエルイノウエ,ジョージタケイ,渡辺昇一
時間: 98分 (1時間38分)
製作年: 2008年/日本・アメリカ
(恵比寿 東京都写真美術館ホール にて鑑賞)

2009年 5月鑑賞
(満足度:☆☆☆+)(5個で満点)

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太平洋戦争の勃発によりアメリカに住む日系人達はその多くが収容所に
入れられた。その一つであるマンザナ(マンザナール)収容所には一人の
著名な日本人カメラマンが家族と共に収容されていた。彼の名は宮武東洋。
彼はカメラの部品を密かに持ち込み手製カメラを組み立てて収容所の人々の
様子を撮影し始めた。命を賭けて。

収容された時点ですでに成人となり家族を持ちその全ての行動と暮らし
全般が制限される中でも何と家族に少しでも心地よく暮らして欲しい
と学校やグランドやプール『外の世界』にある物の多くをを整備し時には
極刑も覚悟で収容所内での日系人の権利拡充を訴えた一世達。

収容所内で多感な時期を過ごし、アメリカで生まれアメリカの市民権を
持ちながら奪われた権利を取り戻すため兵士になることを志願して
戦うことを選択する二世達。実際に日系人で構成された442部隊
(第442連隊戦闘団)は多くの犠牲を出しながらも華々しい戦果を幾つも
上げ歴史にその名を深く刻んだ。

一世・二世の労苦と屈辱を風化させまいとする三世・四世達。

「アメリカ人でありながらも収容所に入れられた」という事実に対しての
それぞれの世代の受け止め方とその後の行動の違いの大きさが
よく判るのが本作の一番の作品的な価値だと思う。

最も筆舌に尽くし難い苦労と屈辱を味わったのは人間としての
精神形成が終了してからある日を境にまるで動物のように扱われた
一世だと思うが、最も常識的に穏健的に粘り強く根気良くその
運命の全てに対処していくのもまた一世であるというところが
人間社会の普遍的な法則を如実に現していて大変興味深い。

戦争に行かせて殺し殺されるために苦労して育てたんじゃないと
兵役に率先して就こうとする二世達を説き伏せようとする一世達に
対して二世の人々は憤激する。

「貴方達のために自分達のために喜んで戦争に行く」と。
「なぜそれに反対するのかまるで理解できない」と。

戦後の社会を生きる四世になるとさらに先鋭化して

「なぜ祖父達が"大人しく"収容という屈辱に甘んじたのか理解
できない。自分なら絶対にそんな屈辱を味合わせる"奴ら"を
許しはしない。絶対に応じない」と。

マンザナ収容所の人々の暮らしの模様はそのほとんどが宮武東洋
とアンセル・アダムズによって撮影されたものと言われている。

四季折々の催し物や水泳・野球・バスケットボールなどの運動に興じる
人々の明るい表情は今の日本人の比ではなく、説明を受けなければ
その多くがほとんど全財産を失って収容所に入れられている人々の
暮らしの写真だとはとても判らないだろう。

ひたすらインフラの整備に努め集団としての人間的な暮らしを家族に
味あわせようと心血を注いだ一世の方々の想像を絶する苦労と
二世・三世達への限りない暖かい思いと自分達の境遇への怒りと
抗議が宮武の撮った写真から返って滲み出ているように思えた。

貴重な写真と豊富なインタビューで構成される本作だが
ドキュメンタリーの映画作品として観ると正直言って少し物足りなかった。
アメリカ全土で11万人以上の日系人が強制的に収容されたという
壮大な"事件"をその舞台の一つであるマンザナ収容所にスポットを
当てて全体が浮かびあがってはいるが、各世代の意識の大きな
ギャップの中にこそ同じ悲劇は再び三度起こるであろうという
不気味な予感を感じさせるものが濃厚にありその埋められない
心の歪こそが今後の最大の問題なのではなかろうか。

しかし1990年代半ば野茂英男が単身海を渡りメジャーリーグの
マウンドに立ち三振の山を築いていく姿を日系一世・二世の人々は
観戦席から眺めただひたすら号泣したというその気持ちは
本作を観て判るような気がした。

全財産を失って収容されてもアメリカの為に奮戦しても彼ら
日系人への偏見と風当たりの強さは公民権運動が高まる60年代
以降までは何ら変わることはなかったという。

この認知度が高いとはいえない一大悲劇をどうしても訴えなくては
ならない本質的な理由をもっと映像作品の個性として掘り下げて
もらいたいところだったがそれは本作の主旨ではなく別の作品として
充分に語れるべきなのだろう。

厳しく観てしまえばこの作品自体に将来新たな誤謬を生む恐れの
芽が内包されている。

宮武東洋を始めとして収容された主に一世の世代の人々
に観ていて実に「凛としたもの」が感じられたのはとても良かった。

マンザナはとても美しいところですよ。
遠くから見ればね。。

東洋宮武


[マンザナール強制収容所]
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マンザナール強制収容所(まんざなーるきょうせいしゅうようじょ、マンザナーとも、
Manzanar concentration camp)は、第二次世界大戦中に日系アメリカ人が
収容された収容所の一つ。正式名称は「Manzanar War Relocation Center
(当時の訳語はマンザナール戦時轉住所)」、現在はマンザナール国定歴史史跡
(Manzanar National Historic Site)。
(略)
日系アメリカ人が収容された10の収容所の中で最もよく知られている。
「マンザナール」とはスペイン語で「リンゴ園」を意味する。
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[第442連隊戦闘団]
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第442連隊戦闘団(だい442れんたいせんとうだん 英:442nd Regimental Combat
Team)は第二次世界大戦中のアメリカ合衆国陸軍において日系アメリカ人のみで
編成された部隊。
(略)
ヨーロッパ戦線に投入され、枢軸国相手に勇戦敢闘した。その激闘ぶりは
のべ死傷率314%(のべ死傷者数9,486人)という数字が雄弁に物語っている。
さらにアメリカ合衆国の歴史上、もっとも多くの勲章を受けた部隊としても有名。
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(ウィキペディアより)


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