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2009年8月 3日 (月)

映画「にっぽん泥棒物語」

「にっぽん泥棒物語」

原題名: 日本泥棒物語
監督: 山本薩夫
脚本: 高岩肇,武田敦
音楽: 池野成
撮影: 仲沢半次郎
編集: 長沢嘉樹
出演: 三國連太郎,佐久間良子,伊藤雄之助,千葉真一,緑摩子
時間: 117分 (1時間57分)
製作年: 1965年/日本 東映 [モノクロ]

(満足度:☆☆☆☆☆)(5個で満点)
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泥棒を生業として母と妹を養う義助(三國連太郎)は思想犯達の手による
大規模な列車脱線事故を目撃する。やがて泥棒家業からは足を洗い
ニセ歯科技工士として平和な家庭を築いた義助だったが列車脱線事故
の犯人として左翼系の組織の人間が逮捕され有罪が確定すれば極刑の
判決になることを知る。無罪の決め手となる有力な証言を出来る唯一の
人間は義助だったが証言台に立つことはやっと築いた平穏な家庭を
捨てることを意味した。。

 「真空地帯」(1952)、「太陽のない街」(1954)など日本の近代史の暗部を
ベースにした作品を多く手掛ける名匠山本薩夫による堂々の娯楽大作。

 敗戦後の混乱の中で組織的な泥棒を職業として生きる人間達のリアルで
ユーモア溢れる描写やオープニングでの彼らの"仕事"のスピード感溢れる
展開の描写の素晴らしさ、松川事件を下敷きにした列車脱線事故の事故後の
シーンの大規模な撮影や前半生を隠して真っ当な市井の人間として静かに
生きようとした三國連太郎演じる義助の個人の幸せを取るのか縁のない
仲間でもない人間の無実を証明するために自己の幸せを捨てるのか二者
択一を自らに迫る後半の展開の感情の振幅の大きさ、芸達者な脇役達との
かけあいの楽しさ、高度経済成長が始まる前の失われた日本の風景の
美しさと見所満載の作品。

 これまで観た三國連太郎主演作品の中では個人的には最高傑作。

 根本的には良心は確実に持っているけど"生きるために"利己的に生きる
ことを全く躊躇しない(場合によっては悪事もする)役柄を演じさせると本当に
上手い。下手に正義を振りかざさす人間をむしろ本能的に嫌悪する義助の
ようなある意味普通の男を三國連太郎という名優が演じることによって、
後半の法廷シーンでの義助の心の迷いや家族の葛藤、義助が真実を話す
ことを期待する嫌疑をかけられた者達と己の幸せを取ることを持ちかけて
虚偽を迫る検察側と登場人物達の心情が鮮やかに色分けされセットも
役者も演出も全てが活きる素晴らしい緊迫感が生まれる。

 事件そのものには無実とは言え体制批判をする人間達の側に限りない
理解をよせつつも主要な登場人物には徹頭徹尾ノンポリだが同情心や
巨悪を許さないという人間としての大切な心は人一倍持ち合わせている
義助のそうな人間を置くという山本薩夫のぶれることのない視点も興味深い。
同じく大作といっていい「太陽のない街」を合わせて考えるとこの人は個人
としての思想的な熱さは誰よりも持っているけどその前にプロの映画人
「活動屋」であるのだと作品から強く感じる。

 クライマックスの義助の法廷での証言シーンのそれまでじっくり積み上げて
きた物語としての厚さが成せる可笑しさと三國連太郎がプロの演技として
発する人としての温かさが素晴らしく心の底から素直に笑い少し泣けた。

 とぼけた刑事を絶妙に演じる伊藤雄之助もまた助演男優賞もので
三國との掛け合いは面白すぎ。

とぼけた刑事を絶妙に演じる伊藤雄之助もまた助演男優賞もので
三國との掛け合いは面白すぎ。

 日本を本当に泥棒したのは誰だ

という山本薩夫の激しい怒りと問いかけが娯楽作品の中にきちんと
溶け込んで観終わった後に静かに心に残り続ける。
東映が作った偉大なる大作であり傑作。

もう一回できれば劇場で観たい。

[松川事件]
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松川事件(まつかわじけん)とは、1949年(昭和24年)に福島県の国鉄
東北本線松川駅 - 金谷川駅間で起きた鉄道のレール外しによる
意図的な列車往来妨害事件。
下山事件、三鷹事件と並び、第二次世界大戦後の国鉄三大ミステリー
事件の1つといわれている。
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(ウィキペディアより)

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コメント

>妻は軽蔑の眼差しで見ていたが、裁判が進むに連れて、
刑事が夫よりも悪いやつだと知ることになり、
  
どの集団にも「悪い奴」というのは一定量いる。
また、法を侵した/侵さないの基準で人間の本質としての
善悪は計れず、寧ろ、「不都合な真実」に辿りつくことを
世の大人達(我々)は知っていますね。
それを"汚れていく"とも言えるし、"処世術を学ぶ"とも
言えます。

また、「悪」を声高に叫ぶ人間達もまたいかに当てにならず
寧ろ、いい加減、寧ろ、もっとマズイ状況にあるということも
我々は3.11以降、嫌というほどに思い知りました。

投稿: kuroneko | 2015年4月12日 (日) 22時16分

rumichan様
コメントありがとうございますm(_ _)m


>なぜ恥ずかしくないかと言えば、
子供は父親を信じていたからである.
 
その通りですね。
 
 
>1.2.は置いておいて、3.の場合、決してこの映画は、
その子たちを卑屈にしたり、傷つけたりはしないと思います.
 
卓見かもしれません。きっとその通りですね。
次回、是非、その視点から観ます。
 
 
>皆が真実を語る勇気を持てば、
信頼しあう社会が生まれ、犯罪を防ぐことが出来る.
 
その通りです。
 
 
>それは、不審に満ちた人々の心の現れであると思うのですが、
どうなのでしょう?.
 
現実的な効果として「見られている」
という抑止力は働いているようですね。
"監視カメラの無い社会"が理想なのでしょうが。
 
 
>蛸部屋
>すっからかんになるまでお金を使わせて、逃げられなくする
 
勉強になります。
現代でも残念ながら巧妙に進化して跋扈している考え方ですね。
会社内においても(ーー;)
 

>溝口健二の『山椒大夫』
人間を支配する権力が存在するので、不平等が生まれる.
そんな権力は、存在してはならないのだ.
 
自分は"法"による統治が無い世界として観ました。
こちらも法が整備されたはずの現代に充分通じる普遍性をもった
作品とメッセージがありますね。権力というよりも、人間に判断を
委ねる絶望性を感じました。
 
  
>橋毛徹
 
私は、この人は最初の最初の最初から
『政治の本質と力学』がまるで判っていない人
と認定していたので想定通りの行動です。
ほとんど何も評価できないどころかあってはならない
前例ばかり積み上げてますね。
山○太郎と一緒です。
 
 
>子供の言葉によって、大人に真実を語る勇気を与える、
映画を描きました. 

>あの男の子が一番の名演技と言うか、一番重要な演技だったのです.
 
よく理解できました。
ありがとうございます。
次回観るのがとても楽しみになりました(^-^)

投稿: kuroneko | 2015年4月13日 (月) 21時27分

クロネコさん並のすごい長文ですねー(^_^;)
 
映画本編は見てないんでよくわからないことばかりですが
唯一カジノの話にだけコメしときます
 
正直、カジノはすでにあります
普通に町中のいたるところに
 
パチンコ屋見てください
スロットあるでしょう
あれどう見てもカジノの一環じゃないですか
 
あんなもの放置しといてカジノ反対とかよく言うなぁーと思いますね
 
アレを減らすためにもカジノはいいと思いますね
 
そして
日本のカジノにはパチンコも置いたらいいですね
丁半博打とか
花札とかもアリ
日本独自性を出さないと海外客は来ないよ
 
僕は前から京都の祇園に競馬のWINSがあるのが気に入らないので
あそこをぶっ潰して
賭場にするといいですね
 
また
現在、カジノに行きたい人はベガスとかマカオとか韓国とか海外旅行して行くわけです
そうすると国内の金が逃げて行くんですよね
その防止のためにも有効ですね
 
ついでに外貨も稼げる可能性も
 
それから
ギャンブル系は全て公営にして
国民IDカードとセットできちんと金のないヤツにはやらせない管理が必要ですね
 
実際、知り合いの知り合いに
生活保護の金が入ったらその日に競馬ですって
残りの日数は入院して生活するという人がいました
 
それを個人の自由とかで見逃してる世もどうかしてると思います
 
そもそも競馬、競輪、競艇、宝くじ、ロト、サッカーくじ
すでに日本は世界有数のギャンブル大国
そんな中でなんでカジノだけだめなのでしょう?
 
大きく見ればカジノはたいした論点じゃないでしょう
僕はカジノ反対の人が何を考えて反対なのかさっぱりわからないです

投稿: 万物創造房店主 | 2015年4月16日 (木) 21時55分

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