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2009年9月 5日 (土)

ある巨匠の言葉と映画「靖国」

 
 

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 監督は日本人だけでなく、アジアの人々、つまり中国人である
監督自身も「戦争後遺症」の患者であるという。近代史に関する
アジア各国の認識のズレを埋めることで、「戦争後遺症」を克服
する手助けをしたいという思いがある。議論が活発化する
きっかけとして、一人でも多くの人に『靖国』を見てほしいという。
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AERA 2009年8月24日号 "「靖国」李監督が1年ぶりに「帰日」
「戦争後遺症」克服したい" より

 

第二次大戦や太平洋戦争に纏わる(ということになっている)
幾つかの決着の着かない問題は「戦争後遺症」ではなくて
「"戦後"病」ではないかという気がする。

李が手掛けた映画「靖国」(2007)には「戦争後遺症」の患者も
出演しているだろうがより多くの「"戦後"病」の患者が"出演"
していると思う。

製作から二年、公開から一年を経た今も当時映画を鑑賞した
一人としてはレビューで書いた通り靖国神社に関して未来に
向けた建設的な解決に向けてこの映画はプラスの役割を果たさない
という印象に特に変わりは無い。

靖国神社にそれなりに独自に思い入れを持って何かしらの
行動を自主的にしてきた人々は"どちらの側だろうと"納得のいかない
であろう粗い出来と主張だし、全く興味もなく存在すら知らなかったという人に
は多くの誤解を生んでしまうだろう。「"戦後"病」の伝染である。

「戦争後遺症」を克服する手助けをしたいという思いと
一人でも多くの人に『靖国』を見てほしいは繋がらないであろう。

[映画の作り自体の歪み]

[靖国というキーワードが長年持つ歪み]

作中では混同され全く整理されていないのと同様に氏の主張は
筋が通っているようで残念ながら通っていない。

自分が『靖国』の監督であればこう言う。

「お陰様で理由はどうあれ思いもかけずに沢山の人々に観て頂き
また様々な意見も伺うことができて嬉しく思っている。製作・公開から
2年近くを経てみると自分でももっとよく出来たのではと思える部分が沢山
見えてきて今は反省点も多い。しかし議論のきっかけになればと
思い作ったことは事実だし尽力してくれたスタッフの為にも『靖国』を
今後も多くの人に観てもらいたことに変わりはないが、、
何よりも望むことは実際に靖国神社に何度でも足を運んで
"本当の姿"を自分の眼で確かめてほしいし多くの文献にも是非当って
立場や国籍に囚われずに自分の力で考えて感じてみて欲しい
と。

氏は大島渚の言葉であるという
「映画を撮ることは犯罪である」
について述べているが

『靖国』というドキュメンタリー作品(と一部の某国会議員)が
作り出した混乱を靖国というキーワードが抱える問題に
無自覚に転嫁しているのと同じ一種の力学的構造で大島渚が
生涯をかけて作り出してきた独自の映画、犯罪 というイメージ
に自身の作品が"映画"であるという暗黙の了解の上に
上手く転嫁しているように思う。

アエラの同記事によれば李は『靖国』の公開拡大に尽力しつつ、
1930年代の上海を舞台に日中ハーフの女スパイを描く新作の
構想を練っているとか。

今後、新作が公開された場合に多いに予想されることは『靖国』
という自身の作品とその周辺で述べた発言と新作のプロットとの
根本的な矛盾によって起こる騒ぎとそれによる結果としての
興行収入への貢献であろうか。

靖国神社については数百円の電車賃を払えば行けるアクセスの便が
よいところに住んでいる者として一人の日本人として自分なりに
今までも色々考えてきたしこれからも考えていくだろうし神社にも
足を運ぶだろう。でも映画『靖国』はまた観たいとは全然思わない。

先日は外国人の友人とたまたま靖国神社の近くを歩いていたので
連れていった(正確には友人が先に興味を示したのだが)。自分の
意見によって靖国神社への偏見を持たれてしまわないように注意しながら
説明をしつつ一緒に歩いた。この友人とは常日頃から映画の話も
歴史認識的な話もよくするのだが李監督の『靖国』は勧める気はない。
この友人も私と同様に映画がかなり好きなのでもし観ればまず
作品としての欠点を指摘するだろう。次にその欠点がもたらしてしまう
誤謬の連鎖を憂うことだろう。

"映画を撮ることは犯罪である"という言葉はきっと正しい。
それが"映画"であればあるほど。

しかしスタンスの中途半端な映像作品を作ることは
恐らく犯罪ではない(犯罪ですらない)が場合によってはより
問題がある。

「靖国」で試みた刀鍛冶のご老人への余りに中途半端な
インタビューを李が当時も今もこれからも全く欠片も悪いと思わないと
すれば映画監督であることは認めよう。

映画とは確信的な事実のすり替えでありそれを完全に正当化すること
でありだからこそ『映画を撮ることは犯罪である』のだから。

 
 

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コメント

僕はやはり遠いので靖国には行ったことないです
お伊勢さんはありますけど
ま、いつかは行ってみたいなとは思ってます
ところで
鳩ポッポが靖国参拝しないのは別にどうでもいいんですけど
新しい宗教色のない追悼施設とか、アホなことを言い出しそうで恐いですね

投稿: 万物創造房店主 | 2009年9月12日 (土) 17時04分

普段はかなり静かですね。
近くまで来て喧騒を離れたい時に
ちょっと寄ったりしますよ。

>宗教色のない追悼施設 
どんなに数の論理で法案や予算を押し
通そうがこれをやるには日本は余りにも
戦後の時間を浪費し過ぎたと思いますね。
宗教とは何ぞや?
追悼とは何ぞや?
公共の理念とは何ぞや?
何にも総括できていやしない。。
 
>アホなことを言い出しそうで
既に数ヶ月前から鳩山さん言ってます(ーー;)

投稿: kuroneko | 2009年9月13日 (日) 01時42分

ま、鳩山さんの頭がよければ「宗教色のない」が不可能なことに近々気付くのではないでしょうか
ま、
韓国と中国のトップに毎年参拝させる約束でもとりつければ作ってもいいかもしれませんけどね
そうでもしないと、また参拝するたびに文句言ってくるに決まってます
靖国だって昔はアジア各国の色々な人が参拝してましたからね
それが今やあんなことに・・・

投稿: 万物創造房店主 | 2009年9月20日 (日) 17時27分

>宗教色のない
個人的には"可能"だと思うのですが
『宗教』について日本は考えることを全体として
深めてこなかったのでやはり不可能ですね。
薄めたり変な成分をドバドバ勝手に入れて
かき混ぜたりは盛大に行ってきて
今も"自由自在"ですねその辺だけは。
 
>毎年参拝させる約束
もし取り付けたらどうせその見返りを
半端無く裏で約束させられてるはずだから
やって欲しくないす(ーー;)
つか見返り"だけ"はすでに延々と払い続けてますね。
これからも払うんだろうな。。

投稿: kuroneko | 2009年9月26日 (土) 12時17分

>個人的には"可能"
追悼ということ事態宗教ですし
特定の宗教でなく総合的で曖昧なモノは可能だと思いますけど

>見返り
追悼施設を作るということで
その見返りをどれだけ中韓からとれるか、をしっかり確約してからやってほしい
つまり
やるんなら外交手段としてきっちりやれ
見返りがねーのならやんな
ということです

投稿: 万物創造房店主 | 2009年10月 4日 (日) 13時35分

>特定の宗教でなく総合的で曖昧なモノは可能だと
「特定の宗教でなく」というところをきちんと考え抜いて
国民の合意を得て国民がその意義を後世に
伝えていけば可能だと思うのですが
何かを議論し尽くして決定したことを守るという
ことの積み重ねを怠ってきましたよね。
日本は。
だから無理すね。
やらない方がいい。
もう余計なことに予算を使っている場合では
ないはずですね。
 
>見返りがねーのならやんな
私としては
「きちんとした見通し・戦略が無ければやんな」
というところですね。
まあ似たようなことですが。

投稿: kuroneko | 2009年10月 4日 (日) 23時21分

>余計なことに予算を使っている場合では
まさにその通りです
そして
JALには決して税金を投入して欲しくないです

投稿: 万物創造房店主 | 2009年10月12日 (月) 16時56分

>JALには決して税金を投入して欲しくないです
まあとにかく税金を投入するにせよい
しないにせよ
『戦略』があれば議論にはなると
思いますね。
昨今の日本の政治の国際的な戦略の無さ
は病的で陰謀すら感じますね。
政治家の皆さんは自己の安泰と引換えに
マジで日本を解体するように誰かさんと
取引しているのではと考えたくなりますね。
民主党も凍結予算の総額ばかり連日
報道されてその使い道は不気味なほど
一切報道されないし。
気味が悪いですね。

投稿: kuroneko  | 2009年10月12日 (月) 22時18分

外務大臣が岡田になったのは痛いですなぁ・・・
あの人は謀略とか駆け引きとか全くできなさそうですもん

投稿: 万物創造房店主 | 2009年10月17日 (土) 18時49分

民主党政権
色々と
痛いですなぁ・・・
前政権の決めたことひっくり返して
金巻き上げて
歴代自民党政権の要求してきた予算を
"遥かに"上回る予算要求って
痛いですなぁ・・・
マジで日が沈むぞオイ。

投稿: kuroneko | 2009年10月18日 (日) 00時18分

>ひっくり返して
ダム中止はいいと思いますよ
八ッ場ダムなんて総工費が落札したときから倍以上に増えて
工期も何回も延ばして
それで許されてる
民間じゃ考えられないっすよ
膨大な金を浪費して、ダムへ行く橋の片車線の橋げたしかできてないし
官僚の出してきた工事を続けた場合とやめた場合の試算もかなり怪しいです
たぶん、さらにダラダラ20~30年かけて作って、総工費も1兆超えたりするんじゃないですかね、アレは

>マジで日が沈むぞ
そういえば「沈まぬ太陽」おもしろそうですね
日本航空は倒産させてほしかったです
会社が危なくても、政府からお金が入ると思って、誰も自分の身を削らない会社は再建なんか無理です

投稿: 万物創造房店主 | 2009年10月22日 (木) 20時32分

>ダム中止はいいと思いますよ
何だかんだで再開しそうですが(ーー;)
私が民主党をほぼ全く信用できないのは
"振り"があまりに多すぎますね。

今回も予算の執行中止も目的を
はっきりさせないから株価は全く迷走しているし
結局95兆円という天文学的な予算を計上して
余りにもバランスが悪い。
 
ダムを一度中止表明したらしっかり根回しすれば
いいだけの話しだし三兆円近く執行停止に
したらやはり自民党時代よりも予算は削減してこそ
民衆は日本が変わるとうことを期待して一生懸命
働こうと思うし株価もしっかり反応すると思います。
 
運営が下手くそというよりも自民党よりも
実は遥かに日本のことも国民のことも
考えていない気がします。
 
一年後に日本は良くなっていると思えないです。
民主党以外の政党はすっかり破壊されて
議会制民主主義が機能しなくなっている
可能性もあると思いますね。
今の動きを見ていると。

自民も民主もその他の政党という政党は
とにかくもう賞味期限が切れたのかもしれませんな。

>そういえば「沈まぬ太陽」おもしろそうですね
同感すね(^-^)
凄~~~~~~い久しぶりに邦画の新作且つ大作で
観に行ってもいいかなと思える作品です。
渡辺謙がいい意味で楽しそうに演じているのも嬉しい。
 
>日本航空は倒産させてほしかったです
う~ん倒産させても存続させても地獄じゃないすかね。
ソフトランディングさせる人材がおらんですね。

投稿: kuroneko | 2009年10月22日 (木) 23時37分

>遥かに日本のことも国民のことも考えていない気がします。
けっこう、前原さんをはじめ若手の人はがんばってるとおもうんですけどね
旧社会党派と連立社民が最低ですね

投稿: 万物創造房店主 | 2009年10月29日 (木) 18時52分

>前原さんをはじめ若手の人は
それは認めますね。
でもそうだからこそ旧態依然の人間たちを
尻眼に国民の支持を上手く利用して
党内の若返りをさっさと進めてほしいです。
今のところ小沢一郎を筆頭にオッサン共の
大勝利ではないでしょうか。自民党も野党も
含めて。結局国をどうこうしようという気概も
具体的な考えもなく権力のバランスシートに
乗っかって面白ろおかしく生きてるとかし
見えないすね。
それにしても政治家だけでなく中高年達の
昨今の自己中ぶりは本当にひどい。
怒るの通りこして完全に病気だと思いますね。
若者達の苦しみは自分たちの怠慢のツケだという
発想も全くないし。若者たちは若者たちで
斬新な発想で物事を最小のリスクとコストで
リニューアルするという気概もこれまた無いし。
老人も中年も青年も頭を使えない人々は皆
全く同じ病人に見える今日この頃です。私は。
怒るのも呆れるのも通りこして最早笑える(^^)

投稿: kuroneko | 2009年10月29日 (木) 20時47分

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