« 映画「恐竜・怪鳥の伝説」 | トップページ | 映画「破戒」 »

2009年10月 6日 (火)

映画「盲獣」

2009年に見た映画(八十) 「盲獣」

原題名: 盲獣
監督: 増村保造
撮影: 小林節雄
美術: 間野重雄
出演: 緑魔子,船越英二,千石規子
時間: 84分 (1時間24分)
製作年: 1969年/日本 大映
(渋谷 シネマヴェーラにて鑑賞)

2009年 5月鑑賞
(満足度:☆☆☆+)(5個で満点)

---------------------------------------------------------------

モデルの島アキ(緑魔子)は按摩を雇うがその按摩師は兼ねてから
島アキの肢体を自分の手で確認し造詣のモデルにしたいと狂信的に
付狙っていた盲目の男(船越英二)だった。島アキは男の秘密のアトリエに
監禁されモデルとなることを強要される。男の油断を誘って脱出する
ために快くモデルを引きる演技をして体を委ねるアキだが。。

原作は江戸川乱歩。
若き日の船越英二(といっても当時46才か)がマザコンで狂信的な盲目の
彫刻家を熱演。その迫真的なマザコン演技で相当大胆に肢体を披露して
いる緑魔子が辺にイヤラシクないのは評価されるべきか。

最も興味深いのは小説の世界を正面から見事に映像化していながら
それゆえに文章と映像のそれぞれの時間的・空間的な構成が根本的に
異なることが非常によく判る作品となっている点だと思う。

その狂信性とアキの肢体を芸術家として心から愛している男にやがて
本気で惹かれ同じく狂信的な愛に目覚めていくアキ。

私達は暗闇の中で昼も夜も求め合いやがてより強力な刺激を
互いに欲するようになり体を切り刻み合い始めた。。

この文章では簡単に済む表現が時間が一定の方向に進むことを
常に示さなくてはいけない「映画」で表現することは何と難しいことだろう。

巨大な人体を模した狂気のアトリエを再現した美術と監督の姿勢と
緑魔子の"女優"として晒す美しい肌と船越英二の必死の演技の
総体としてどうにか作品として成立しているだけでも凄いことだ。

男の"狂気"を表現するための巨大な人体のパーツで埋められた
時空も曲がるかと思えるアトリエだが、狂気なんて言う概念も
世界的に枯渇してしまって懐かしい概念になってしまっている
21世紀の今となってはただただ男の天才ぶりに呆れるしかない
というような素晴らしいアトリエにしか見えない。

こんな作品作れる男になら世界中の美女が喜んで監禁でも拉致でも
何でもやらせるだろうよ。

と観ていて何度も思ってしまうのは時代が変わってしまったせい
であって作品の価値は上がりこそすれ損なうこともないだろう。
撮影は小林節雄(コバヤシセツオ)、
美術は間野重雄(カンノシゲオ)
どちらも優れた作品を幾つも残しておられる。

間野重雄は変わりどころでは日本初のSFカラー作品
「宇宙人東京に現る」(1956)の美術を手掛けている。

それにしても「大悪党」(1968)といい本作といい緑魔子の
『女優』としての脱ぎっぷりはどこまでも賞賛に値する。
どちらもメッセージ性の高い作品になっていながら彼女の
肢体はとてもしなやかで美しい。

「大悪党」では佐藤慶演じる悪党に脱がされてベルトで何度も
打たれて人前で犯されて本作では巨大なセットの中で
恐らくは作中同様に何日もたった一人の俳優相手に
時には全裸同然で逃げ回ったり男を誘惑したりその体を
何度も指で触られたり。。。
緑魔子さん、本当にお疲れさまでした。グッジョブです。

早くも伝説のテレビ作品となった「週刊真木よう子」で
真木よう子と緑魔子を共演させることを思いついた人は
よく勉強しているなあ。そういう人が邦画界の全面に
次々と出てくるべきであろう。

マザコン好きかMっ気のある女性にはお勧めの作品であろうか。
緑魔子の裸はとても綺麗だけどスタッフの志とレベルの高さにより
低俗なエロさでは撮られてはいないのでそっち方面を期待する
人にはそれほどお勧めしない。

マザコン好きかMっ気のある女性にはお勧めの作品であろうか。
緑魔子の裸はとても綺麗だけどスタッフの志とレベルの高さにより
低俗なエロさでは撮られてはいないのでそっち方面を期待する
人にはそれほどお勧めしない。

そんなわけで決してつまらくはないのだが
個人的には84分とは思えずもっと長く感じた。
船越英二のマザコンの雰囲気がかなり嵌っていて、それ故に
感情移入が出来なかったことが原因の一つか。
それだけ熱演していると言えるわけだが。

---------------------------------------------------------------
映画感想一覧>>

 
 
 
  

 

|

« 映画「恐竜・怪鳥の伝説」 | トップページ | 映画「破戒」 »

映画」カテゴリの記事

コメント

僕、江戸川乱歩好きなんで
この作品は気になってたんですよ
まぁでも
その程度でしたか・・・
江戸川乱歩は難しいですよね
もとがすごすぎる
深作欣二監督の「黒蜥蜴」も前から気になっていて見たいのですがDVDがまったく出ないですね
三島由紀夫がからんでるからですかね
愚かなことです

投稿: 万物創造房店主 | 2009年10月12日 (月) 17時02分

>もとがすごすぎる
書いた通り「時間と空間」の扱いが
文章と映画では異なることが非常に良く
わかる映画で観て損はないとは思います。
緑魔子さんの肢体はとても綺麗ですし。
 
優秀なスタッフが真正面からぶつかって
いった結果上記の違いがより浮き彫りに
なって後に続く人々には格好の材料を
提供できているのでこの作品の存在価値は
あると思いますよ。
 
江戸川乱歩の作品はほとんど読んだこと
ないのですが時間と空間を最初から意図的に
捻じ曲げて作る確信犯的な要素が必要
かもしれませんね。
どのみち今の邦画界には残念ながらもっと
基本的な要素が欠けまくっていますが。

>三島由紀夫がからんでるからですかね
この人自分の専門以外のジャンルには
結構面白い軌跡を遺されていますよね。
かなり前から個人的に楽しんでいます。
映画サミットの時にでも話ししたいすね。
この人のこと(^^)
そういえば三島由紀夫主演の映画「憂国」
は映画サミットに相応しいかもしれない。

投稿: kuroneko | 2009年10月12日 (月) 22時29分

>江戸川乱歩
僕は小学校のときに少年探偵団シリーズとルパンシリーズとホームズシリーズはむちゃ好きやったんで図書館にある分全部読んじゃいました
内容はほとんど忘れましたけど
で、
高校生のときぐらいに今度は大人向けの方の乱歩を読んであまりのすごさにビックリした記憶がありますね

>映画サミットに相応しいかも
「憂国」もポールシュレイダー監督の「Mishima」もうちにありますよー

投稿: 万物創造房店主 | 2009年10月17日 (土) 18時59分

>少年探偵団シリーズ
あの禍々しい表紙の絵だけで怖がり少年
だった私はもうお腹一杯でした(^^;)
あとタイトルがもうお腹いっぱいでしたね。
どんな恐ろしいことが書いてあるやら。。(ーー;)
 
>ルパンシリーズとホームズシリーズ
何か文学少年・文学少女の専売特許のようで←偏見
碌々読まないで生きてしまったですね私(^^;)
ルパンVSホームズとか
何かそういう番外編だけワクワクして読んだ記憶が。。
 
>あまりのすごさにビックリ
何だか最近急速に再評価の機運が高まってますね。
誕生○周年とかだろうか。
まあ最近の日本人はコンテンツを"自分で作る"ことを
完全に放棄しての騒ぎだから非常に底が浅いですけども。
 
>「憂国」もポールシュレイダー監督の「Mishima」も
観ましょ観ましょ(^0^)/
「憂国」は最近安価で入手できるチャンスがあったのですがスルーしてしまって。
メチャ観たいっす!!
でもこっちもズルズルグチョー系か
上映作品は最終打ち合わせが必要すね(^^;)
「Mishima」もいいなあ。緒方拳追悼上映ってことで。

投稿: kuroeko | 2009年10月18日 (日) 00時30分

>禍々しい表紙の絵
一応、少年向けにまろやかに書いてあるんですけど
明かホームズやルパンとは世界が違いますね
二十面相シリーズとかはまだいいですけど
後の方の巻の殺人モノはけっこう陰鬱で怖かったような記憶が・・・
いつか全巻読み返してみたい気もします
>最近急速に再評価
江戸川乱歩と山田風太郎が僕の好きな作家ツートップです
二人とももっと世界的に評価されていい作家やと思うんですけどね

投稿: 万物創造房店主 | 2009年10月22日 (木) 20時42分

>江戸川乱歩と山田風太郎
なかなか味のあるツートップすね。
山田風太郎は臨終図鑑だけ一時期面白くて
読むふけった時期があります。
どちらも熱烈な支持者と知っているけど
読んだことのないという層が両極端な
感じがするところが似ていますね。
所謂"業界人"に圧倒的に評価されている
感じがするところも似ていますね。
 
どちらも間違いなくこれから"世界的に"
再評価されていくでしょう。
多分日本を除いて。。。
何か日本自体が"日本の空洞化"の感が
著しいですね。
理由もほぼはっきり判りますが。

投稿: kuroneko | 2009年10月22日 (木) 23時41分

この記事へのコメントは終了しました。

« 映画「恐竜・怪鳥の伝説」 | トップページ | 映画「破戒」 »