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2009年10月25日 (日)

映画「人間の條件」(一)(二)

「人間の條件」 
第一部: 純愛編
第二部: 激怒編

原作: 五味川純平
監督: 小林正樹
脚本: 松山善三,小林正樹   
撮影: 宮島義勇
音楽: 木下忠司
美術: 平高主計
出演: 仲代達矢,新珠三千代,佐田啓二,中村伸郎,宮口精二,淡島千景 ,東野英治郎

時間: 203分 (3時間23分)
製作年: 1959年/日本 松竹

(満足度:☆☆☆☆☆)(5個で満点)
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時は昭和18年。頭脳明晰で正義感を多分に持ち合わせるがそれゆえに融通の
効かない男、梶(仲代達矢)は勤務する鉱山会社から満州に行くことを命じられる。
それは梶の壮絶な運命の幕開けだった。。
原作は五味川純平の同名小説。監督は巨匠小林正樹。
一部・二部では、梶が満州の地で徴兵されるまでの悪戦苦闘する日々を縦横に
交錯する人間関係を大掛かりなロケシーンと共にダイナミックに描く。

 全六部作。9時間に及ぶ巨編。

 見所は全編至るとこりに沢山あるがまずはオープニングの素晴らしいレリーフと
重厚な音楽との調和とそのメッセージ性の高さと荘厳さに圧倒された。女子供、老人、
壮年、青年あらゆる年代階層の人間が連なり一様に不安または恐怖の表情を
浮かべている。人物造詣の記号性の高さと混沌としたイメージはピカソのゲルニカを
彷彿とさせオープニングだけでも充分に観る価値がある素晴らしい出来だ。

 満州の地の非日本的な雄大な風景の中で描かれる鉱山を巡る会社の内部抗争と
重労働を強いられる中国人と経営にしだに侵食し始める軍の台頭といった群集劇が
ロケとセットのシーンが使い分けられて全体の映画としてのスケールの大きさと
技術の確かさがなにより観ていて嬉しい。

 労務管理を任された梶は現場で酷使される現地中国人の感情と彼らの労働条件を
顧みようともしない会社の間でしだいに苦悩を深めさらに軍人達の激しさを増すばかり
の横槍に苦悩は深まり続けるが持ち前の論理的な思考と胆力で乗り切っていく。

 淡島千景や宮口精二を筆頭に戦後の邦画黄金期を支えた実力ある俳優達が中国人
に扮したお芝居が物語の展開とは別にとても楽しい。娼婦を演じる淡島千景は時に
艶っぽくてたどたどしい日本語が可愛らしくてチャイナドレスがとても似合っている。

 宮口精二も見事な中国語で叛乱分子のリーダー各をさすがの澱みの無さで演じる。
彼を知らない人が観たら日本人とはわからないだろう。東野英治郎が中国人の飯屋の
親父としてほんの数シーンだけ出てくるが麺を打ちながらちゃんと中国語を喋るのが
可笑しい。

 梶の妻を演じる新珠三千代の新妻振りも自然でこの仲睦まじい若い夫婦の庶民的な
新婚生活ぶりが満州という大陸の大きさと梶が巻き込まれる諸問題の巨大さとの
鮮やか対比を見せる。

 彼ら夫婦は"国家"や"世界情勢"といった複雑怪奇なシステムの中で翻弄されるしか
ない庶民という「人間」を確実に象徴している。

 中盤のハイライトシーンで使役するために列車によって強制的に運ばれてきた人々が
"積み込まれた"貨車の鍵を梶は軍人に自分に託すように要求する。軍の男は梶の
行動力と気迫を認めて鍵を馬上から投げ捨てる。

 ここでの梶と軍人の二人の"呼吸"はなかなか見ごたえがある。梶は、軍の「人間」の
ように恐怖と暴力によって人々を操ろうとは考えない。あくまでも同じ「人間」として
"道理"を説明し働いてもらおうと考える。軍人の男はそんな梶をどこまでも嘲笑する。
しかし嘲笑するのは傲慢さからくるのだけではなくたった数人で数十人・数百人という
人間を理不尽な環境で働かせようとしたら反抗できない恐怖で縛り上げる以外に
方法はないことをこの男はよく知り抜いているから嘲笑するのだ。

 軍人=悪(かその真逆)という低脳で無知の極みのお決まりのパターン描写しかでき
なくなって実に久しいがこのとくに長くもないシーンでの二人のシーンの台詞の"外"に
あるフィルムに確かに焼き付けられた"空気"は宝石のように輝いている。役者や
撮影スタッフの全ての人々が良くも悪くも戦争を"知っている"から当時の邦画の
レベルからいえば及第点に過ぎないシーンでも今となっては奇跡といっていい見ごたえ
のあるものになっているのだろう。

 そして、梶は鍵を開けるものの飢えと劣悪な環境に長時間置かれて運ばれてきた
人間達を制御できるはずもなく彼らは食料の積まれた荷車に殺到して収集のつかない
大混乱となる。また鉱山で働く中国人達の労働条件と生活環境を宮口精二演じる男と
粘り強く交渉するが何度となく裏切られ脱走を許す。

 梶の奮戦も空しく現地人の統制は利かず脱走が頻繁に起こるようになることに会社も
軍も業を煮やしとうとう見せしめの処刑を行うことで会社という組織で生きる「人間」、
軍という組織で生きる「人間」、祖国を侵されて重労働を強いられている中で生きる
「人間」、「人間」の処刑という状況によってそれぞれがそれぞれの臨界点を越える。

 己の力の無さに打ちのめされる梶。そんな中で梶の下に召集令状が届く。。
梶は、若い二人の夫婦は、国際的な孤立を深めていく日本は、、

 一部・二部を観てしまえば三部・四部を観たくなるのは必定。
  
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人間の條件」(三)(四)(1959)
人間の條件」(五)(六)(1961)
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