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2009年10月16日 (金)

映画「破戒」

2009年に見た映画(八十一) 「破戒」

原題名: 破戒
監督: 木下恵介
脚本: 久板栄二郎
撮影: 楠田浩之
出演: 池部良,桂木洋子,宇野重吉,滝沢修,村瀬幸子
時間: 99分 (1時間39分)
製作年: 1948年/日本 松竹京都
(神保町シアター にて鑑賞)

2009年 5月鑑賞
(満足度:☆☆☆☆+)(5個で満点)

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出身を隠し小学校の教諭を勤める若者(池部良)と執拗に
暴こうとする周囲との摩擦と子供達の模範となるべき教師
である自身が隠し事を持っていることの主人公の葛藤を美しく
牧歌的な風景の中で名匠木下恵介が描く。

池部良若い。
公開当時で30才とは思えないイケメンぶり。
主人公がイケメンでありながら作品の全体的な質とメッセージ性の高さとが
しっかりと保たれているかなり稀有な作品だ。

聖職に就きながら出身を偽る(隠す)ことで自身の良心との
葛藤にひたすら苦しむ主人公をひたむきに演じる池部良が
とても好感が持てる。

主人公の適当に上手く立ち回って生きていけない誠実な不器用さが
邦画界の良心ともいうべき木下恵介監督によって描かれることにより
くだらないツッコミの余地のない透明感ある作品となっている。

主人公が単なる設定としてではなく一個の人間として教師として
隠し事をすることそのものの後ろめたさに苦しみ続ける姿に
迫真性があることから全てのシーンに説得力が増していく。

中盤、
同じ出身者で集まったシーンで一人の年長者が皆に告げる。

「彼の人生の成功の為に、これからは彼と街で出会っても
話しかけることは止めよう。皆知らん顔して通り過ぎるんだ。彼の為に」

池部演じる男は下を向いて歯を食い縛る。
皆もまたうな垂れるしかない。
何と肺腑を抉るシーンと詞だろう。

嘘を付いている。
隠し事をしてる。

ただその一点のみを突いて一人の人間を追い詰めていく
集団心理のおぞましさと確信的に己の保身のためにそのパワーを
最大限利用して増長していく卑劣漢に主人公は狩られ遂に
逃げ場を完全に失う。

クライマックスで主人公が生徒達を集めて滔々と語るシーンは
涙を禁じえない。

木下恵介の映画を通して伝えたい気持ちが『本物』だからこそ
作られる素晴らしい緊張感と感動。
だからメッセージの中身が社会性の高いものであっても
優れたエンターティメントとしても成立している。

脚本の久板栄二郎は
本作と同じく良心の存在の脆さを描いた
黒澤明監督作品「悪い奴ほどよく眠る」(1960)の脚本製作にも参加している。

日本という国があらゆる意味で変質して消えてなくなりそうな今日
木下恵介の諸作品は全ての世代で盛大に観なおされてよいと思うし
観なおされなくてはいけないと思う。

本作製作時で木下恵介は若干36才。
本作は全体的に優れた作品だが監督の年齢を考えればその評価は
さらに上げなくてはならないだろう。

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しかし、差別的言辞を弄する者も、それを憤る者も、いずれももとをただせば
封建時代からうけつがれた資本主義階級体制維持の被支配者なのである。
部落民に差別を設ける者がどれだけ社会的な地位を認められているというのか、
どれだけ豊かな生活をしているというのか。いずれも被搾取階級なのである。
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(松本清張著 昭和史発掘2 「北原二等兵の直訴」より)

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