映画「鬼の棲む館」
2009年に見た映画(八十八) 「鬼の棲む館」
原題名: 鬼の棲む館
監督: 三隅研次
脚本: 新藤兼人
撮影: 宮川一夫
出演: 勝新太郎,高峰秀子,新珠三千代,佐藤慶
時間: 76分 (1時間16分)
製作年: 1969年/日本 大映京都
(神保町シアター にて鑑賞)
2009年 5月鑑賞
(満足度:☆☆☆☆)(5個で満点)
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廃寺に棲む傍若無人な男(勝新太郎)と男の愛人(新珠三千代)。男の妻
(高峰秀子)は何とか夫の心を取り戻そうと廃寺にやってきて勝手に住み始める。
男は妻と縁を切ろうと目の前で愛人と色欲に溺れる。そこへある日一人の
僧(佐藤慶)が廃寺にやって来る。僧は男の愛人とかつては恋仲だった。。
原作は谷崎潤一郎「無明と愛染」。
エネルギッシュな勝新太郎の豪快な殺陣と演技、佐藤慶の細部まで気を
抜かない丁寧な演技、実力ある女優二人の肩の抜け具合、天才宮川一夫の
撮影と実力ある面々が揃って各々の仕事をきっちりこなしている実に楽しい
お得な一編。画面のどこまでもプロの手で作られた作品は本当にくつろいで
観ていられてそれだけで満足感がとても高い。
本作の前後でチャンバラシーンのある映画を幾つも観ていて全部、殺陣
のシーンはほぼ無音でテレビの時代劇で当たり前に使われるいわゆる
「人を斬る音」が本作では使われていて新鮮な感じがした。改めてしみじみ
味わってみるとこの斬る時の音というのは何となく"あざとさ"が感じられて
無音の方がいいような気がする。
新珠三千代がとても美しくて脱ぎっぷりも良く肌もバスとも綺麗だ。かつては
恋仲だった佐藤慶演じる僧の必死の抵抗を破り色欲地獄に突き落とした新珠
三千代演じる女が全裸で勝利の雄叫びを上げるシーンは中盤のクライマックス
であるが新珠三千代のスタイルの良さとその惜しみ無い肌の露出も相まって
「悪」が勝ち誇る様が爽快感全快で描かれている。
佐藤慶は自分の役柄としての"過去"を演技の中にきっちり封じ込めて
ただ美しい女の裸の前に煩悩だけで屈していくだけでなく、かつての女を
心から慕い恋するがゆえに僧の身から転がり堕ちて行く様を全身で
演じていて素晴らしい。新珠三千代と佐藤慶が演じ"戦う"間は勝新も
高峰秀子も入ってくる余地は全くない。
上映時間は1時間強と短いので後半の展開はあっさりとしている。奇跡を
"起こり得るもの"として肯定的に描いているのも興味深い。
高峰秀子は男の愛情を受けられなくなった妻や愛人を演じさせると本当
に上手くて、、リアルでうざったい(笑)。
物語構成はシンプルで場面展開も廃寺とその周囲だけだが
最初から最後まできちんと弛むことなく見せる。映画の勉強に調度いい
作品かもしれない。実力ある人々が作るとは尺が短くてもやっぱり上手い。
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コメント
>「人を斬る音」
僕は断然、音がある方が好きですね
さらに
ちゃんと切れて血が異常なくらい出たり
手や首が飛んだり
刀と刀がぶつかったときに火花がバチバチ出たり
そういう過剰な演出が大好きです
ガンアクションにしてもそうですね
銃も本物はしょぼーい音しかしないんですよね
でも映画ではほとんど過剰な「ズキューン」って音使ってるし
本来は金属に弾が当たってもほとんど出ないはずの火花をバチバチ出してるし
銃じゃ壊れないものまで発破でボンボン壊してます
リアルさっていうものはなくなっちゃうんですけど
でもやっぱりその方が面白いし
快感度も高いですね
カンフーものにしても
当たったときの「ドシュ!」って音や
防御で手と手が当たったときの「パン!パン!」
拳を繰り出すときの「ビュッ」って音
ないと寂しいですもん
投稿: 万物創造房店主 | 2009年11月19日 (木) 17時35分
>「人を斬る音」
このところ撮影から演技から音楽まで
最高峰の職人達が作り上げた作品ばかり観ていて
この作品も内容は書いた通り相当レベルが高く且つ
安定感も抜群ですが"斬る音"だけ
所謂ありがちな音("シュッ"って音ね)
だったので逆にビックリしたんですよ(^^)
正直、聞き慣れ過ぎているせいか
凡庸感が出てしまって残念でした。
>手や首が飛んだり
>刀と刀がぶつかったときに火花がバチバチ出たり
>そういう過剰な演出が大好きです
これは私も好きですけど
これからの作品はリアリティに徹底的に拘って
欲しいですね。雰囲気でやってしまうと
単なるパロディに過ぎなくなってしまい
眠たくなってしまいますね。
「本当の斬り合いってどうだったのだろう?」
と山田洋次がアクションから刀の音から
ゼロからリセットして検証して作り上げたのが
平成の傑作時代劇
「たそがれ清兵衛」(2002年)
「隠し剣 鬼の爪」(2004年)
だったのですよね。
両方とも山田洋次監督の"追究する姿勢"を
高く評価したいです。個人的には
「隠し剣 鬼の爪」の方が好きですね。
>リアルさっていうものはなくなっちゃうんですけど
>でもやっぱりその方が面白いし
>快感度も高いですね
そうですね。
物理学的な実際の現象を追うやり方と
「こういう音かもしんない」と人間が想像できる
リアリティも滅茶苦茶大事だし私も大好きです。
「少林寺三十六房」(1978)とか一連のカンフー映画の
腕を振る時に"ドゥ"と風が吹くような空気が唸るような
音は"想像のリアリティ"を大事にした優れた表現ですよね。
今思い出してもワクワクしますな(^^)
「少林寺~」は初めて見た時、あまりに感動して真冬の
夜中なのに兄貴と外へ飛び出して夢中でカンフーごっこ
やったの鮮明に覚えてます。主題歌?も「プロジェクトA」
なみの傑作ですよね。と、書いている間にすげー観たくなってきた。
こういう作品は映画館よりもむしろ家で炬燵でヌクヌク
しながら背を丸めて観るのが正しい鑑賞方法のような
気がする(^^)
「少林寺三十六房」お店に置いてありますか?
できればDVDで。ビデオでもいいですが(^-^)
投稿: kuroneko | 2009年11月21日 (土) 20時13分
>「たそがれ清兵衛」「隠し剣 鬼の爪」
僕もこのシリーズはこれはこれでよかったと思いますよ
ドラマ部分や小汚さのリアル度はけっこう高いなぁと思いました
ただ、殺陣としてはどうなんだろうという部分はありますね
一応、落ちぶれても剣の達人なわけですし
あの程度でいいのか・・・という
なんか美がないんですよね
リーリンチェなんかを見るとわかるんですけど、達人の動きってやっぱり美しいはずなんですよね
殺陣まで小汚いのをやってリアルと言われても、それは違うのでは・・・と思ってしまうのです
>"ドゥ"
これは重要ですね
しかも意外にリアルじゃない方がよかったり・・・
現行の「片腕ドラゴン」のDVDには中国語・日本語・英語の三つの音声が入ってるんですが、面白いことにそれぞれ音楽や効果音が違うんですよ
聞き比べて見ると
5.1chになってる中国語音声は上から音がかぶせてあるみたいで、やたらリアルな音になってて立体感もあるんですが、それよりは英語音声の昔風で演出過剰な音の方がよかったですね
ガンダム劇場版にしてもそうですね
最初のDVD化の際は音が再録されて、歩く音からビーム音から何から何までリアル指向になってるんですが、すごい違和感ありました
ファンにもことごとく不評で、まぁバンダイはそれを逆手にとって、もう一度ガンダム劇場版BOXをオリジナル音声で再販して、もう一山儲けるんですけど
>「少林寺三十六房」
僕はスペシャル・コレクターズ・エディション(サントラ付)のDVDに買い換えたので
もともと持ってたやつを店に売りに出したんですけど、もう売れちゃいました
このスペシャルc.e.、日本語吹替収録(主題歌「少林ファイター」はこれでしか聴けません)、サントラ(当然日本盤です)・映画ポスター・パンフ・チラシの縮小版もついていますし超オススメです、Amazonを見たところ、まだ廃盤になってないようなので、今のうちに買うのをオススメします
投稿: 万物創造房店主 | 2009年11月22日 (日) 16時11分
>「たそがれ清兵衛」「隠し剣 鬼の爪」
>あの程度でいいのか・・・という
>なんか美がないんですよね
そうかもしれないですね。
リアル志向に走り過ぎてエグイ面はあるかもしれません。
次の世代が超えていけばいいと思うすね。
>リーリンチェなんかを見るとわかるんですけど、
>達人の動きってやっぱり美しいはずなんですよね
>殺陣まで小汚いのをやってリアルと言われても、
>それは違うのでは・・・と思ってしまうのです
まあ乗りでやってしまうよりはいいと思います。
試行錯誤が大事すね。
"SAMURAI!"みたいな乗りよりはよほどいいかと。
>歩く音からビーム音から何から何まで
>リアル指向になってるんですが、すごい違和感ありました
ガンダムとかのリアルの方向性は完全に誤っていますよね。
「2001年宇宙の旅」」のような
科学の発展の延長状を厳密に真剣に推測し空想し遊ぶ
のではなく本物の音(リアル世界の音)を忠実に持ってきて
再現すればいいという安易で思考停止の感が見え見えすね。
>ファンにもことごとく不評で、まぁバンダイはそれを逆手にとって、
>もう一度ガンダム劇場版BOXをオリジナル音声で再販して、もう一山儲けるんですけど
その結果ジャパニメーションは沈滞を極めているのですから
ザマないすね。自業自得。
日本人て本当っっっっっっっっっっっっっっっっっっ
っっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ
に自滅&自業自得が好きだよなー(ーー;)
>「少林寺三十六房」スペシャルc.e
注文しました!
今年のマイ・クリスマス・プレゼントに決定っす(^0^)
見るの何年ぶりだろうか、、すげー楽しみ(^-^)
情報ありがとうございます!
投稿: kuroneko | 2009年11月24日 (火) 22時26分
>面白いことにそれぞれ音楽や効果音が違うんですよ
多分、民族によって効果音に対する指向性や感動の度合は
かなり違うのではないかと思います。
日本の漫画の擬音も外国人は受け止め方が日本人とは
違うようですし。
でも優れた映画は、やはり一つのマスターで
楽しみたいものですね。一つの同じ仕様の作品について
見解の相違を言い合って楽しむのがいいのではないかと。
上映される国によって効果音から音楽から物語そのもの
まで変えてしまうのは儲け至上主義でよくないですね。
ハリウッド映画は「お金が全て」だからそれでいいのかも
しれませんが。
投稿: kuroneko | 2009年11月25日 (水) 12時29分
>効果音から音楽から物語そのものまで変えてしまうのは
僕はあんまりこれ思いませんねー
いいときもあるし
悪いときもあるって感じです
やり方次第ですね
ガンダムもオリジナル音声を入れつつ「遊びでこんなんも作ってみました」なら誰も文句言わず面白がれたかもしれませんし
それに
ジャッキーの頃の香港映画ってほとんど日本編集・日本音楽で主題歌も勝手に作っちゃってる
でも逆によくなってますよね
少林寺三十六房の主題歌だって日本で勝手につけたやつだけど、アレ外せないです
しかも
日本版の方がたいがい長くて面白いシーンが増えてたりもするんで、それもありがたい
あの頃の香港映画は全般的に日本版の方が好きです
でも
昨今、昔の映画をDVDで5.1ch化して出すとき、爆発音とかドアの音とか明らかに後入れの音だけ5.1chになって浮いちゃってるのはどうにかしてほしいですね
モノラルのヤツはモノラルでいいのに
「ターミネーター」なんかもジェームズキャメロン監督のこだわりで初期のDVDにはモノラル音声が入っていたんですが、いつの間にかなくなりましたね
モノラルにはモノラルの良さがあるのでハイビットでモノラル音声しか入れないDVDがあってもいいのにと思います
投稿: 万物創造房店主 | 2009年11月26日 (木) 19時43分
「こだわり」の質がおかしくなっていますよね。
作り手が暴走して面白がったり
観客のことを思ってのことではなくて
思い上がったマーティングリサーチの結果から
中間に入っている業者がクリエイター気取りで
無茶苦茶にしてしまっている感じがありますね。
ツールは人類史上最高に反映しているのに
人類史上最強につまらない時代なのかも
しれません。
"個人的"に何とかしようと今もがいていて
何とかなりそうなのでまあ知ったことでは
ないですが"情けない"の一言ですね。
投稿: kuroneko | 2009年11月28日 (土) 14時10分