« 映画「人間の條件」(五)(六) | トップページ | 映画「網走番外地」 »

2009年11月 5日 (木)

映画「網走番外地 望郷編」

2009年に見た映画(八十六) 「網走番外地 望郷編」

原題名: 網走番外地 望郷編
監督: 石井輝男
撮影: 稲田喜一
美術: 藤田博
出演: 高倉健,杉浦直樹,嵐寛寿朗,田中邦衛,安部徹
時間: 88分 (1時間28分)
製作年: 1965年/日本 東映
(池袋 新文芸座にて鑑賞)

2009年 5月鑑賞
(満足度::☆☆☆☆)(5個で満点)

---------------------------------------------------------------

九州長崎を舞台にしたシリーズ第三作。旭組の組長に恩のある
橘真一(高倉健)は旭組に加担し安井組との抗争に巻き込まれていく。

初めて観る"網走番外地"シリーズ。
仁義なき戦いシリーズ(こちらの初期シリーズの監督は深作欣二)と
勝手にごちゃ混ぜにイメージしてさぞかし銃撃シーンの連続と全編に
血の雨がグロテスクに降り注ぐのだろうと勝手に想像していたが、
物語そのものはヤクザの抗争を描いているので単純なものの
天才石井輝男により実にしっかりと「人間」は描けている佳作。

ストーリーに直接は関係しないものの混血の少女エミリーが
登場する主人公を含めた"はみ出し者"達の悲劇性のイコンとして
とても効果的に描かれている。

望んで産まれてきたわけでないのに母に疎まれ、碌でもない環境に
投げ出されながらも明るく逞しく生きるエミリーを橘真一演じる健さん
は当然のように放ってはおけない。しかし半端者である自分が何か
出来るわけでもない。

地道に生きる道を踏み外してしまった人々をそのまま"堕ちた人間達"
として「暴力描写を正当化する道具として描いていない」ところに
他の石井作品にも多分に観られる視点の温かさのようなヒューマニズム
を感じる。

エミリーと橘が心を通わせるややロングで公園の二人を捉えた静かな
シーンや後半の大きな山場となる夏祭りでの祭り特有の群集の熱気と
迫力を的確に描いたシーンなど撮影もとてもしっかりしていて楽しい。

そんな見所が多い本作において何といっても特筆すべき点は
クライマックスで橘の前に立ちはだかる殺し屋を演じる杉浦直樹
とんでもないカッコ良さであろう。
長身にバランスの良い長い足と無表情にグラサンをかけたその
見えない眼の奥に秘められた確実な殺意。出演シーンと最後の
健さんとの格闘シーンの余りの短さがかえって印象深さを累乗的に
深めている。

杉浦直樹は個人的にはTVドラマ「繋がれた明日」(2003年)で主人公
を更生させる誠実さ溢れる保護司役がとても印象深く演技も堅実で
素晴らしかった。実力のある役者が悪役をやるとここまで輝くものか。

活劇物の王道を行きながら当然のように健さんも観客が望む健さん
として描かれ登場人物達の描写にメリハリがあって心地いい。

この映画、その"核"において真似をすることは実は相当に難しい。
なぜならそこには確実にの通った人間」が描かれているから。


石井輝男はやはり天才だ。


---------------------------------------------------------------
映画感想一覧>>

 
 
 
  

|

« 映画「人間の條件」(五)(六) | トップページ | 映画「網走番外地」 »

映画」カテゴリの記事

コメント

僕はまだ一作目と二作目しか見てませんけど
どっちもヤクザものとはかけ離れた内容でした
一作目はプリズンブレイクもの
二作目は密輸ダイヤをめぐる犯罪サスペンスもの
って感じです
三作目以降はオーソドックスなヤクザものなんでしょうかね
ヤクザもの全盛の時代やったんで、興行成績がよくなり過ぎると今度は予算がたくさんつくかわりに、ある程度主流に迎合せざるをえないのかもしれませんね

投稿: 万物創造房店主 | 2009年11月 8日 (日) 19時16分

検索してみると
三作目は評価高いようすですね。
全般的に"ヤクザ物"としてまとまっていますが
エミリーのエピソードや細かい芝居の
あちこちに石井イズムはしっかり注入されていて良い作品だと思います。
何しろ杉浦直樹が良かった!(^0^)

投稿: kuroneko | 2009年11月 8日 (日) 21時21分

僕も早く見よう・・・

投稿: 万物創造房店主 | 2009年11月10日 (火) 19時42分

感想楽しみにしてます。
一作目も低予算のせいもあっていか
無駄がなくてスピード感あって
良い作品だと思いますよ。
石井輝男の評価ってこれから急上昇は
あっても下がることはまず無いでしょうね。

投稿: kuroneko | 2009年11月11日 (水) 00時05分

見ましたよー
ほんとストーリーはかなりオーソドックスな任侠モノですね
どちらかというと任侠モノより人間ドラマの方に重心がおいてあり、他の任侠モノとまた違った雰囲気になってますけど
ちなみに次作4は任侠モノとは全く別な感じのトラックロードムービーになってました
5はまだ見てませんけど今度は西部劇みたくなってるみたいですね
網走番外地という設定だけ使って毎回わざとテイストを換えてるんですかね
ところで
杉浦直樹、めちゃかっこいいですね
口笛での登場もゴホゴホ血を吐くのも
主人公とのラストのドス対決は構図からしてめっちゃウエスタンでしびれました
敵組長(阿部徹)がカチコミ時にあっさり殺されちゃって消化不良やったんですけど
あの対決でスッキリですね
ちゅーか
あの対決を際立たせるためのカチコミ省略やとしたら、相当の策士ですね
偶然かわざとか・・・石井輝男深し・・・

投稿: 万物創造房店主 | 2009年11月26日 (木) 20時01分

>偶然かわざとか・・・石井輝男深し・・・
 
石井輝男の諸作品には
偶然かわざとか判然としない
肩の力の抜け具合が素晴らしくプラスに
転じているシーンが本当に沢山ありますよね。
この作品の
杉浦直樹 VS 高倉健
もシーン自体の短さがもの凄く効果的ですよね。

スタッフに丸投げしていると思われる箇所も
多くの作品にみられるけど私は現場の人間達の
能力を活かそうとする確信犯だと思います。
そうでなければ、的確な遊びのシーンが
どの作品にも"必ずある"のが説明できないですね。

石井輝男は天才ですね。

投稿: kuroneko | 2009年11月28日 (土) 14時18分

そういや、この前、またボウケンレッドさんが店に来やはりました
撮影で京都に来たはったみたいです
撮影終わってホテルにいてもヒマなんで・・・ということで
今回は倉田保昭さん関連の映画を見せました(ボウケンジャー映画版で倉田さんと共演されてたんで)
「ドラゴンvs不死身の妖婆」「必殺女拳士」「マスター・オブ・サンダー」あたりを飛ばし飛ばしで見て
(直撃地獄拳も見せるべきだったなぁ・・・)
ラストの締めは現代日本アクションの最高峰ということで「バーサス」をフルで・・・

投稿: 万物創造房店主 | 2009年12月11日 (金) 13時15分

ボウケンレッドさんにお会いして
色々お話伺ってみたいものです(^^)
 
>「バーサス」
監督さん今なにやっているのでしょうね(^^;)

投稿: kuroneko | 2009年12月14日 (月) 23時32分

>「バーサス」監督さん
「あずみ」とか「ガメラ」とか、いまいちな映画ばっかり撮ってましたけど、つい最近、本人曰く「原点に戻って撮った」という「ラブデス」
公式サイト→http://www.lovedeaththemovie.com/
はけっこう面白かったですよ

投稿: 万物創造房店主 | 2009年12月15日 (火) 20時10分

>「あずみ」とか「ガメラ」とか、
「ゴジラ」の方ですね(^-^)
未見ですけど「怪獣がノロマなのは怖くない」
ということで動きの速い怪獣の演出は
良かったけど後はメタクソだったらすいすね。
平成ガメラシリーズは私は好きですよ。
Ⅲ→Ⅱ→Ⅰの順に好きです。
 
まあ周囲など気にせず監督をし続けている
のは偉いすね。
バーサスは制作費30万円でしたっけ?
映画は金よりもやはり情熱が必要ですな(^^)

投稿: kuroneko | 2009年12月15日 (火) 23時36分

>「ゴジラ」の方ですね(^-^)
あーゴジラですね

>怪獣がノロマなのは怖くない
のろまだからこそ巨大に見える部分もありそうだし
このあたり微妙ですね

ま、バルタン星人なんかは忍者だし、もっと速くてもいいと思いますけど

>制作費30万円
これはバーサスの前の短編『DOWN TO HELL』だと思います
バーサスは途中でスポンサーがついたらしいので
もうちょっとお金かかってます、たぶん

投稿: 万物創造房店主 | 2009年12月18日 (金) 19時15分

>のろまだからこそ巨大に見える部分もありそうだし

その昔、「自分が怪獣映画撮るとしたらどう撮るか?」
と真剣に妄想していた時期があってストーリーとか
カメラの構図とかひたすら考えて遊んでいたのですが
一番のネックは怪獣の大きさが50mくらいあって、しかも
動きがノロイと「全然怖くない」というところなんですよね。
相当近くに自分がいても踏みつぶされない限りは
いくらでも逃げようあるし。口から何か吐いて
遠距離の攻撃が出来ないとほとんどの人は
"高見の見物"になってしまいます
よね(^^)

投稿: kuroneko | 2009年12月20日 (日) 12時38分

ノロイと言えども大きさが50mの生き物の一歩は25mぐらいはありますし、足の大きさも10mぐらい、よっぽど遠くにいないと運次第で踏まれそうです・・・
ま、ノロクても演出次第だと思いますよ
エイリアン1のエイリアンやナイトメアシティ以前のゾンビはノロくても怖いですし

投稿: 万物創造房店主 | 2009年12月21日 (月) 17時26分

>ノロクても演出次第だと思いますよ
そうすね。映画は『演出』が肝要ですよね。
決して制作費じゃない。ファンを産み続けて
いる伝説的作品の多くは限られた予算の中で
限界までイマジネーションを広げて
撮っていますよね。

投稿: kuroneko | 2009年12月21日 (月) 23時46分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 映画「人間の條件」(五)(六) | トップページ | 映画「網走番外地」 »