映画「丹下左膳余話 百萬両の壺」
2009年に見た映画(九十二) 「丹下左膳余話 百萬両の壺」
原題名: 丹下左膳余話 百萬両の壺
監督: 山中貞雄
出演: 大河内傳次郎,宗春太郎,沢村国太郎,花井蘭子
時間: 92分 (1時間32分)
製作年: 1935年/日本 日活
( にて鑑賞)
2009年 5月鑑賞
(満足度:☆☆☆☆+)(5個で満点)
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腕は立つが普段は何の役にも立たない居候の"昼行灯"丹下左膳(大河内傳次郎)
と親を失った少年との心の交流を縦軸にして少年が大事に抱え持つ壷が
やがて巻き起こす騒動を横軸に織り成す好編。
28才にして出征先で病没した伝説の映画監督山中貞雄の26才の時の作品。
片腕隻眼の丹下左膳を演じる大河内傳次郎の表情と体の動きの躍動感が
とても観ていて楽しい作品。他の役者と監督の扱い自体が別格というのもあるが
"輝き"の違いが観ていて歴然としているように思える。
ひょんなことから預かる羽目になった少年を何となく疎ましく思う大家の女と
丹下左膳と少年が次第に打解けていく中盤までの展開と壷が壷を呼ぶように
一気に壷だらけと化していく後半のシュールな展開のバランスも絶妙で
山中貞雄の才能と実力の確かさと「映画を撮る」ことの楽しさも伝わってくる。
「丹下左膳余話 百萬両の壺」(1935年) 山中貞雄 26才
「河内山宗俊」(1936年) 山中貞雄 27才
「人情紙風船」(1937年) 山中貞雄 28才
いずれも20代の"若者"が撮ったとはとても信じられない傑作であり、
その「視点」の精神的な成熟さに驚かされる。
宮崎駿はかつて(「カリオストロの城」の製作前後の頃)"ルパン三世"の
キャラクターについて、ルパンは設定上は「20代半ばから後半の若者」としているが
スタッフのベテランから若手まで誰に聞いても全員が
「ルパンは年上だと思う」と答えるのが不思議だと述べている。
また「自分もやはりルパンは年上だと思う」と答えている。
山中貞雄と現存している遺されている作品にもこの点と相通じるものが
あるように思う。映画に携わる者もそうでない者も、実力の確かな者も
そうでない者もきっと上記の一連の作品を観れば、
「年上の人間が作った作品だと思う」と答え作品から想像される監督の
山中貞雄を年上だと感じるのではなかろうか。
私は恥ずかしくも既に山中貞雄の逝去した年齢よりも上となってしまったが、
上記三作品には「(自分よりも)大人の視点」が濃厚に漂っている気配を
今もって強烈に感じる。豊かな人間性と情緒性と他者や社会への温かみを。
遺作となった「人情紙風船」においては老齢に達した人間がようやく持ちうる
であろう経験則としての人間の持つ限界を。
山中貞雄の生涯の足跡と遺した作品のレベルの高さと面白さは
「才能と作品」という関係性において世の凡人達がのたまって憚らない
幾つもの破廉恥で醜悪極まりない"嘘"を軽々と突き破っている。
山中貞雄と彼の遺した作品は永久に評価されるべきで
もし忘れ去られるとしたら、その時本当に邦画というものは滅びてしまったのだろう。
長くも無いが短くもない人の一生を生きるのであれば
機会があれば山中貞雄を観るべし。
機会がな無ければ作るべし。
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