映画「トウキョウソナタ」と映画の見方
オヤ、久しぶりに拙ブログを取り上げてくれている
記事があるじゃあないか。ああ嬉しい。
と思えば、その内容は黒沢清監督作品「トウキョウソナタ」(2008)の
後半の某シークエンスについてであった。
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どこが面白いというのか、ためしに「トウキョウソナタ 批評」で
ググって見たら(12/5現在)、上位6位までに三つのブログに
以下の文章があった。
(略)
たしかに、この役所広司の強盗には違和感を持つ人が多いだろう、
1位と4位のブロガーがこのシークエンスを批判している。
*佐々木の家に忍び込んだ泥棒(役所広司)と佐々木の妻
(小泉今日子)のストーリーはなんで急にこんな唐突な話をいれる
んだろうという不信感が噴き出す。この取って付けたようなエピソードは
なんなのだ?(Lacroix 1位)
*役所広司演じる強盗が出てきた瞬間からこの映画は完璧に
ぶっ壊れてしまう。全く修復不可能なほど。ストーリーも完全にストップ。
(東京漂流日記2.0 4位)
かくのごとくGoogle検索の上位で意見が割れているけれど、
「映画美学」からみれば、あきらかに、あとの二人の批判は的外れである。
もともと黒沢清監督はそういうふうに作っているのだ。
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[ART TOUCH 絵画と映画と小説と]より
[http://petapetahirahira.blog50.fc2.com/blog-entry-652.html]
「あとの二人」が1位の方と私4位のことどすヽ(^。^)ノ
先に断っておくが
上記ブログを管理されおられる安積桂氏の論に大きな異議を
唱えるつもりは全く無い。何が言いたいかと申しますれば、、
まず、世に数多(あまた)ある映画批評及び感想のブログの中で
「4位のブロガー」って書かれたことが滅多に陽の当らない
人生を送り続けてきて現在に至る自分には妙に嬉しかった
だけだったりする。
1位や2位や3位ではなく"4位"ってのが自分らしくいいっす。
表彰台に立てないんだよなあ4位じゃさ(≧∇≦)
ためしに「トウキョウソナタ 批評」でググって見たら(12/21現在)
東京漂流日記2.0 第3位 ( ̄ー+ ̄)
前略、お袋様。
会社はマジで倒産の二文字が日々現実味を帯びて来ておりますが、
息子は幼少期の昔と変わらず人生の本筋ではない所に日々の
精力のほとんどを注ぎ込んで大都会で逞しく生きておりまする。
いや、映画に関する検索で上位にいくのはぶっちゃけこれまでも
何度もあるのですが(その割りに訪問された方のほとんどは
禄にお読みにならずにスルーされていると正直に書いておこう)、
4位のブロガーっていう明確な定義付けが何だか心地良いわけです。
さて、与太はここまでにして。
前述した通り、ご指摘に反論する気はなく充分に正論であると
思いつつ自分の意見についての補足を少し書いておく。
「トウキョウソナタ」において小泉今日子演じる主人公の母親が自宅に
侵入した役所広司が演じる強盗に拉致されるシークエンスが私と1位の
ブロガーの方はそのシークエンス自体の必要性が理解できず且つ不要で
あろうと判断したとご指摘頂き、不要論は誤りであり黒沢清は明確な
意図を持ってこのシークエンスを入れたのであると上ブログの方は
書いていらっしゃるわけである。
正確には私は強盗のシークエンスそのものが問題または不要だと思った
のではなく役所広司が演じた強盗そのものが大失敗でせっかくいい
感じで切迫感が出ていた物語の流れを完全に止めてしまったと言いた
かったわけだ。そして、この強盗のキャラクター作りとシーンの失敗は
黒沢清の映画作りの姿勢そのものとも確実に関係があるのだと思う。
拉致シークエンスそのものだけを独立させてみれば、多くの方が賞賛されて
いるように映像としては優れて美しく多分に幻想的でもあり役所が演じる
キャラもすっとぼけていてユニークであるという言い方も出来る。
黒沢清が最初に頭の中で作りあげたプロットにある程度までは忠実に
出来ているのだと思うが出来上がった作品の本筋の勢いが黒沢の
構想よりも先を走って行く出来ではなかったかと思う。だから構想通り
出来上がった拉致シークエンスはかなり浮いてしまったのではなかろうかと。
さらに個人的意見としては浮いてしまった原因の一つには役所広司の
芝居そのものにもあると踏んでいる。
現場のスタッフの手腕と主要キャストの頑張りにより思いの他良い映画が
出来上がりつつあったのではなかろうか。不協和音は見事に奏でられたが
しかし描写により確かな手腕が要求されたであろう"家族の再生"はなんとなく
上手い具合に空かされて映画は終わってしまった。
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『トウキョウソナタ』の評価はともかく、黒沢清が北野武とは比較にならない
ほどの才能の持ち主であることはわかった。これも上記の三人のブロガー
のおかげである。
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同上 [ART TOUCH 絵画と映画と小説と] より
三人さんは2位と5位と6位ですね。
感想文で書いた通り黒沢清は批評家としては一流で監督をやる場合は
短編・中編作品にターゲットをきちんと絞れば相当に優れた作品は
作れるだろうが長編はどうだろうかというのが今のところの自分の
見解なので全くもって問題なし。
監督の構想として最初から明確にあったシークエンスであっても
結果的に全体の流れからみて上手くいってなければ、それは
失敗であり不要なものである。というのが私の考えであるが
映画はあくまで監督のものであり、あくまでも各シークエンスの意図を
読み取らねばならない(読み取るべき)というのもまた映画の見方で
あることも事実であり、有益な映画の楽しみ方の一つである。
観客はどちらか、またはさらなる見方を好きに選んだらよろし。
映画の感想や批評をWEBで捜された人が私の記事や上記ブログの
記事に辿り着いて何かしらの判断の材料にして少しでも映画を楽しんで
頂ければ幸いである。
とか何とか言って今回の記事を書いた最も根本的な動機は、
検索で上位にいる内に書いておかねば(゚д゚;)
という所にあることは言うまでもない。
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コメント
役所広司はミスキャストですね。話の展開自体は、実は上手いのに、キャストのせいで、脱線っぽく見えてしまう。
投稿: 冷泉 | 2011年10月 5日 (水) 22時37分
冷泉さん、いらっしゃいませ。
そうですね。痛恨のミスキャストですね。
しかし、この挿話自体も置き場所も
おっっしゃるように悪くないのに、
前後との繋がりによる電圧のようなものが
意図通りに出力されていないですね。
細かいミスが放置されて全体が停滞
してしまっていると。
投稿: kuroneko | 2011年10月 6日 (木) 02時18分
キョンキョンと香川がバッタリ出くわして、香川が「違う!違うんだ~!」と言って逃げ出すところは爆笑してしまったし、その後の「三時間前」っていう字幕は、タランティーノの「ジャッキーブラウン」の真似っぽいけど、ワクワクしました。「三時間前に何があったの?」と期待してたら、強盗が覆面を脱いで、それが役所広司かよ~!?ってことで、ガッカリ。オーバーアクトだし。
孤独な主婦が閉塞感を突破するために「私をさらって逃げて~」みたいな話なのに、その同伴者が、「出すぎ」の感がある役所広司じゃ、非日常的な存在であるべきこの強盗自体が閉塞感の象徴みたいで、ノレないんですよね。邦画界の状況を知らない人なら気にならないのかもしれないけどね。
投稿: 冷泉 | 2011年10月 8日 (土) 14時10分
>香川が「違う!違うんだ~!」と言って逃げ出すところ
ここは予告編で使われていて「面白そうだ」と思って
観に行ったのですが、劇中ではこれも思ったよりは
上手くは使われていなかったですね。演出が夫が
逃げるほど妻が不審には思っていないような感じ
で画面が盛り上がっていない印象でした。
>役所広司かよ~!?
ガッカリした人は相当数に上ったことでしょう。(^^;)
自分が観た時もガッカリ感が一瞬館内を覆った
ような気がしました。
>孤独な主婦が閉塞感を突破するために
これも"弱い"印象が否めなかったですね。
記事に書いた通り香川演じる親父が家庭内で
KYになっているだけでキョンキョン演じる奥様
は充分及第点の良き妻だし息子達もとても
いい子で香川演じる父親だけがダメ。
だからキョンキョンは"孤独な主婦"じゃないん
ですよね。そこで余計に役所の強盗のダメさ加減
が加速されてしまいましたね。
記事に書いた通りですが、強盗がちゃんと
キョンキョンを犯して且つ孤独なキョンキョン演じる
妻がこの強盗に惚れてしまって密会する
ようになると物語のハードルは上がって
良かったように思います。でもそれだと脚本が
全然変わってしまう。だから、強盗は最初から
"いい人"になるしかないと結論は決まって
いる。。やはり脚本に無理があったという
べきですね。合いの悪いパーツを強引に
嵌めてしまったというところですね。
どんなキャスティングならこの"変な強盗"を
演じられるかというとなかなか難しいように
思います。阿部サダヲとかかなあ(笑)。
でも、シュチュエーション上イケ面じゃないと
いけないからな。やはり、脚本に責任が
集約される気がしますね。役所は好きじゃないし
はっきり言って下手な役者だと思うけど
本作においては少しは同情の余地はある
かもしれませんね。
投稿: kuroneko | 2011年10月 9日 (日) 00時55分
トウキョウソナタ
BSでやったときにいちおう録ってあるんですけど
まだ見てないんですよ
早めに見たくなってきたなー
ちなみに蛇足ですが
タランティーノの「ジャッキーブラウン」もすでにオマージュです
時間が急に行ったり戻ったりするのはラス・メイヤーあたりが最初なんですかねー
他にいます?
投稿: 万物創造房店主 | 2011年10月10日 (月) 18時38分
>早めに見たくなってきたなー
全体として可も無く不可も無く
というところの作品なのでまあ
いつでもいいかと。。
この強盗のシークエンスはその意図
に対しての効果について未だに
議論が活発にされている迷シーン?
のようですので、"参戦"されたい
のであれば早期にご覧になっては
どうかと。(^^;)
この作品を評価する人の気持ちも
決して判らなくはないです。
駄作ではないとは言えますね。
投稿: kuroneko | 2011年10月10日 (月) 19時59分
>ラス・メイヤーあたりが最初
違う気が、、(^^;)
映画史のかなり初期にやられている
ことは間違いないのではないかと
思いますね。同時多発的に思いつき
そうな感じです。
ラス・メイヤー
なかなか素敵な経歴ですね。
巨乳とソフト・エロに拘ったってところが
結構良心をちゃんと持ったいい人っぽい
感じも。
「女豹ビクセン」(1968)
辺りはスゲー見てみたいですね。
機会があればサミットで是非!
(^o^)/
投稿: kuroneko | 2011年10月10日 (月) 20時03分
>"参戦"されたいのであれば
そーゆーのはどうでもいいんですけど
まぁ黒沢清はけっこう好きなんですよ
上手い下手は別にして
個性がありますよね
>映画史のかなり初期にやられている
「では時間軸を戻してみましょう」
程度のものはあると思うんですけど
唐突に見てるものを混乱に陥れるような掟破りシャッフルは他に今のところ見つけられてませんねぇー
何か見つけたら教えてください
>スゲー見てみたいですね
もー全作品DVDで持ってますから(しかし、まだ一部しか見ていない)
いつでもできますよ
投稿: 万物創造房店主 | 2011年10月11日 (火) 16時55分
>個性がありますよね
そうですね。
せいぜい90分くらいの作品
にすればかなり面白いもの
撮れると思うのですが、結構業界内でも
期待している人多そうなので
イザ撮るとなるとそこそこ大きくなっちゃう
のでしょうね。今は猫も杓子の
「世界何カ国で公開!」とか体裁にすぐに
走っちゃうから、作品がダメになってしまう。。
いい加減そこに気付いて欲しいですね(ーー;)
>唐突に見てるものを混乱に
陥れるような掟破りシャッフル
なるほど。それは無いかもしれません。
見つけたらすぐにご一報します。
>もー全作品DVDで持ってますから
(しかし、まだ一部しか見ていない)
おーそれは凄い!!(≧∇≦)
まだ未見の物がおありなら調度いいすねー
エヴァ・オーリン
ラス・メイヤー
特集で
ソフト・エロス祭り
で一回分決まりですね。
( ̄∀ ̄)
ヘソクリも結構いい感じで貯まってきました。
もうちょいです。。
投稿: kuroneko | 2011年10月12日 (水) 00時44分