映画「河内山宗俊」
「河内山宗俊」
こうちやま そうしゅん
原作: 山中貞雄
監督: 山中貞雄
脚本: 三村伸太郎
撮影: 町井春美
音楽: 白木義信
出演: 河原崎長十郎,中村翫右衛門,市川扇升,山岸しづ江,市川 莚司,原節子
時間: 81分 (1時間21分)
製作年: 1936年/日本 日活
(満足度:☆☆☆☆+)(5個で満点) ---------------------------------------------------------------
河内山宗俊演じる河原崎長十朗と用心棒役の中村翫右衛門の掛け合いが
やたらと楽しい一編。山中貞夫の遺作(にして傑作)となる翌年の「人情紙風船」
では河原崎長十朗も中村翫右衛門もウェットな役柄を重心の安定した演技で
確実に演じているが本作は二人ともどこか抜けていて調子が良いが憎めない
キャラを快活に演じている。人情紙風船が陰とすれば本作は明らかに陽であり
その鮮やかな対比ぶりとメイン二人の動きの面白さにヒロインを若干16歳の
原節子が演じていたことは個人的な印象としては正直どこかにいってしまった。
後に不朽の名作「七人の侍」(1954)で七人の侍の一人になる男、市川 莚司も
まだ二十代半ばで表情も動きもとってもフレッシュ。
クライマックスで水路での滅茶苦茶な乱闘ぶりの楽しさもまた一体何なのだろう。
カメラはかなり引いて撮っているのだけど、役者も美術の人間も撮影者も
当然観客も参加している全ての人間に遍くそれぞれの視点での快楽が
確実にこのシーンにはある。こんなシーンを現代の世界で撮ったら大変だ。
一瞬で世界に報道されもてはやされて適当な汚いお金を渡されて適当な
駄作を数本撮らされて「あっ」と言う間にお払い箱であろう。
それにしても山中貞夫とは一体何者でろうか。
26歳にして「丹下左膳余話 百萬両の壺」(1935)を撮り、
27歳にして本作「河内山宗俊」(1936)を撮り、
28歳の翌年には永遠の名作「人情紙風船」(1937)を撮り、
その翌年に戦場で病没してしまった。
短すぎる生涯を終えた天才は数多くいるが山中貞夫に限っては
誤解を恐れずに言えば数は少ないが内容的には充分過ぎるほど
詰まったフィルモグラフィーといえる。
もう一つ誤解を恐れずに言えば、坂本龍馬が明治まで生きていたら
という問いかけが恐らくは本質的に無意味であるように山中貞夫が
もし戦後まで生きていればという問いかけもまた無意味であるように
思う。彼等の死が惜しいものであり当の本人達も何事かの無念を思ったのは
当然のことであろうが山中貞夫は充分過ぎるほどの功績を遺して
いってくれたことにただ後世の者達は感謝して作品を咀嚼して
さらに後世の人々に良き作品をきちんと保存してそれに少しでも
匹敵するであろう作品作りに挑まねばならない。また挑んでいる者に
拍手を送らねば。
本作はこれからも劇場観る機会がきっとありそうなので次回はじっくり
落ち着いて一つ一つのシーンを楽しんで観たい。
ちなみに市川莚司とは加東大介の旧芸名である。
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