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2010年6月13日 (日)

映画「デカローグ 7,8」

2009年に見た映画(122) 「デカローグ 7,8」

原題名: Dekalog
監督: クシシュトフ・キェシロフスキ
出演:
デカローグ 7: アンナ・ポロヌ,マヤ・バレウコフスカ,ヴァディスワフ・コヴァルスキ
デカローグ 8: マリア・コシャルスカ,テレサ・マシェスカ
時間:
デカローグ 7:  55分
デカローグ 8:  55分
製作年: 1988年/ポーランド
 
2009年 7月鑑賞
(満足度:☆☆☆☆☆)(5個で満点)

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「デカローグ」はモーゼ(モーセ)の十戒をモティーフとして作られた全十話の
テレビ用映画。デカ(deka)は語源はギリシャ語に由来して意味は"十"のこと。
文字通り"十の物語"。十戒については一話,二話の感想の項をご参照のこと。

第七話「ある告白に関する物語」

(満足度:☆☆☆☆☆)

7. 盗んではならない。

・16才で子供を産んだマイカはまだ生活力が無いゆえに母に従い自分の娘
 アンカを母の手に委ねるしか術はなかった。大人になったアンカは娘を
 我が手に戻そうとするが。。

デカローグの各話、そして映画の諸作品に共通するキェシロフスキ一流の
"登場人物投げっ放し"振りは本作のクライマックスにおいて極北を成すのでは
なかろうかと思う。観終わってしばし、呆然、唖然。老獪で人生の機微を
知り尽くして巨大でぶ厚い壁の如く立ちはだかる母に猛然と抗議し泣き叫び
奔走するマイカはまるで名も無く人知れず斬られて路傍で息絶えた幕末の
志士のようだ。

「アンカは自分の娘である」という紛れも無い事実だが、唯一それだけしか
抗議する武器を持たないマイカに母は、経済力、マイカのパニックに陥り
易い精神的弱さ、あらゆる点を指摘し「マイカにアンカを育てること」が
無理であることを悟らせるようとする。命が尽きるものは尽き、弱い者は
強い者に負ける。"ただそれだけの事"を描くことがなぜこれほど残酷な
ドラマとなるのだろう。

諸事に負けまくってきた前半生を送ってきた私としてはマイカに強烈に
シンパシーを感じ、軽くトラウマ。テーマと中身も完全に融合している。

 
 

第八話「ある過去に関する物語」

(満足度:☆☆☆☆☆)

8. 隣人に関して偽証してはならない。

・ワルシャワ大学で教鞭を揮う初老のゾフィアを、彼女の著書を翻訳した
というアメリカの倫理学者エリザベタが訪ねてくる。エリザベタはユダヤ人
でありナチス支配下の時代を少女としてワルシャワで過ごしゾフィアとの
間にもある重い過去を共有していた。。

本作が背負うテーマの深刻度としての重さはデカローグの中でも最上位
ではなかろうかと思う。自分の命が危険に晒され家族の命も危険に晒され
自分が属する組織の存亡に関る選択に日々否応なしに"優先順位"を
明確につけて実行しなくてはならなかった時代を生き、その時代が遠い
過去となった世界において、命の危険度に大きな差があったことを
ある者は知らなかったと言い、ある者は仕方なかったのだ時代がいけなかった
のだと弁解し、ある者は自分の行動を正当化し、ある者はただひたすら沈黙する。

誰もが納得する「解」があるはずもない現実世界を都合よく図画工作
よろしく切り張りするのがエンターティメントであるならば、その現実世界
そのままのピースを大胆に数個に切り分けただけで皿の上に盛ってみせる
本作を含めたキェシロフスキの幾つかの作品はエンターティメントであるよりも
ある種の実験レポートの様相を多分に持つ。ここでも第一話と同じように
穴だらけの世界を怯えきって生き怯えていることを他者に悟られまいと
虚厳を張る人間達をキェシロフスキはただひたすら『凝視』する。

本作で映画またはテレビドラマとして描こうとしているテーマは質量として
重たすぎて体積もまた大きすぎ、挑もうとすること自体がとんど無謀とすら
言える。キェシロフスキは理論物理学者そのままにフィルム上に自分の
確信した何かを実証させようとして後年のどこかで諦めを感じてしまったのだろうか。

ここで描こうとしている事と、その姿勢そのものが自分の中で今後も他の
作品とは離れた特異な位置を占有していくだろう。

黒澤清の言葉を借りるならば『映画は恐ろしい』。そして本作は、なぜ
恐ろしいのかを垣間見ることが出来る。ゆえに恐ろしい。 
劇場映画にするのに充分過ぎるテーマを抱えておりたったの55分であることが
全く信じられない。
   
  
  
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コメント

>黒澤清の『映画は恐ろしい』
そういえば
そういう本出してましたね
いつかは読んでみようかなと思っております

ちなみにDVDの方
「映画はおそろしい ホラー映画ベスト・オブ・ベスト DVD-BOX」
「映画はおそろしい <アントニオ・マルゲリーティ篇> DVD-BOX 」は買って店に並べてあります

投稿: 万物創造房店主 | 2010年6月15日 (火) 17時38分

あっと
名前が入ってませんでした
自動入力されなかった
ジャバスクリプト切ってるからかな?

投稿: 万物創造房店主 | 2010年6月15日 (火) 17時39分

>いつかは読んでみようかなと
 
私も後、200本くらい映画を観たら黒沢清の
映画批評関連の著書はちょびっと読んでみようかと
思っちょります(^-^)
 
>DVDの方
 
お店で何を買うか今から楽しみです。
会社はどうやら今年はもちそうなんで
9月下旬頃におじゃまできると思います(^0^)/
 
名前は修正しておきました。

投稿: kuroneko | 2010年6月16日 (水) 00時52分

>9月下旬頃におじゃまできると思います(^0^)/
まぁ期待せずに待ってます(^。^)
「MISHIMA」まだ見ずに置いてありますから
 
>名前は修正しておきました。
ありがとうございます

投稿: 万物創造房店主 | 2010年6月21日 (月) 15時14分

って、あ、また忘れた・・・(^_^;)

投稿: 万物創造房店主 | 2010年6月21日 (月) 15時15分

>まぁ期待せずに
今年は"固い"です!(^o^;)/

>「MISHIMA」
すげ楽しみにしています!!
 
>また忘れた
オケーっす( ̄ー+ ̄)

投稿: kuroneko | 2010年6月22日 (火) 00時25分

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