映画「デカローグ 9,10」
「デカローグ 9,10」
原題名: Dekalog
監督: クシシュトフ・キェシロフスキ
出演:
デカローグ 9: エヴァ・ブウァシュチェク、ピョートル・マハリツァ、ヤン・ヤンコフスキ、アルトゥル・バルチシ
デカローグ 10: ズビグニエウ・ザマホフスキ、イェジー・スツール、ヘンリク・ビスタ
時間:
デカローグ 9: 58分
デカローグ 10: 57分
製作年: 1988年/ポーランド
(満足度:☆☆☆☆+)(5個で満点)
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「デカローグ」はモーゼ(モーセ)の十戒をモティーフとして作られた全十話の
テレビ用映画。デカ(deka)は語源はギリシャ語に由来して意味は"十"のこと。
文字通り"十の物語"。十戒については一話,二話の感想の項をご参照のこと。
第九話「ある孤独に関する物語」
(満足度:☆☆☆☆)
9. 隣人の妻を欲してはならない。
・性的に不能となった夫と妻の葛藤を描く
こちらも第二話と同様に幸いにして(?)自分にとって"今のところ"は
余り身近ではないテーマだったせいか、きちんと観ていなかった。
妻にとって、性的欲求を満たせなくなった夫は最早、実質的に男では
なく、まして女でもない生き物なぞ何の存在意義があろうと夫の方が
一方的にどんどん考えてしまう恐ろしいまでの絶望は非常によく描けて
いたように思う。きちんと観てまた感想を書きたい。
第十話「ある希望に関する物語」
(満足度:☆☆☆☆☆)
10. 隣人の財産を欲してはならない。
・亡くなった父が遺した切手に莫大な価値があることを知った兄弟の必死で
珍奇な行動をユーモラスに描く。
他のどの話も基本的に深いペーソスと絶望をピースの破片としてしまいこんで
いるのに対して人類という種への"希望"が物語りの底をしっかり支えていて
最初から最後ませやたらと楽しく感じる逸品。「トリコロール 白の愛」(1993)で
心優しく二面性もある夫役を演じたズビグニエウ・ザマホフスキがこちらでは
売れないロッカーで兄を慕う茶目っ気のある弟役を好演。ザマホフスキの体格と
醸しだすオーラはロッカーとは明らかに異質のものだけど"演技"としてきちんと
出来ているのは流石だ。彼が実力と人気を兼ね揃えた役者であることも納得。
中盤以降の財産を守るための番犬を飼う以降の展開では劇場では何度も
笑いが起こった。余程の傑作と思わない限りはもう一度観たいとは基本的には
思わない性分だが、この10話はもう一度何も考えずに観たい。キェシロフスキの
懐の広さ、引き出しの多さを思い知る一編と言えるかもしれない。
希望という名の世界のどこかにあるのか、ないのかも判らない希薄且つ稀少な
成分を"主成分"としたフィクションももっとキェシロフスキに作って欲しかったと
思うのは自分だけではあるまい。
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『デカローグ』の全てに登場する男がいる。誰なのかよく知らない。通りすがりの
男だ。男は私たちと私たちの生活をみつめる。私たちに満足した素振りは見せ
ない。やって来て、みつめて、立ち去る。男は第七話『ある告白に関する物語』
には登場しない。きちんと撮影しなかったので、カットしてしまったからだ。それに
第十話『ある希望に関する物語』にも姿を見せない。肝臓の売買についての話が
でてくるので、このような男を登場させるにおよばないと考えたからだろう。しかし、
たぶん私が間違っていたのだ。ここにも、この男を登場させたほうがよかったのだ。
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(「キェシロフスキの世界」クシシュトフ・キェシロフスキ著 河出書房新社より)
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