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2010年6月 9日 (水)

映画「ある党員の履歴書」

「ある党員の履歴書」
Zyciorys


監督: クシシュトフ・キェシロフスキ
撮影: ヤツェク・ペトリツキ,T・ルシィネク
 
時間: 47分 [モノクロ]
製作年: 1975年/ポーランド
 
(満足度:☆☆☆☆+)(5個で満点)
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党を除名されようとしている男の組織への抗議と果てしない議論の応酬を
捉えたドキュメンタリー。
  
  
 ドキュメンタリーでありながら組織に異を唱え抗議する男はまるで監督である
キェシロフスキが自分の映画の為に創造した架空のキャラクターを完璧に演じる
一流の役者のようにキェシロフスキのワールドを体現していることに驚愕。
  
 オペレーティングシステム(OS)の全ての駆動メカニズムを『人間』という
不確定極まりないファクターで"精密に"動かしてみせようとする社会主義
という名のOSの限界をある一室の会議の中というワンシチュエーションで
余すことなく描いている

   
 男の"異議申し立て"は男以外の人間達が同意しない限りにおいて微塵も
存在しないのであり、また存在してはいけない。よって男の言うことはどんな
事実でも虚構としてデリートされていく。逆に一欠けらの事実も証拠もなくても
複数の人間により認められて権限のある人間が同意すれば、それは永遠に
事実となり正義ともなってしまう。
  
 何時間会議をしようとも事実は少しも明らかにされないことは自明であるが
"それ以外"のOS(=社会システム)を知らない(または知らないふりをする)
人間達にとってはそれが世界であり全てであり結論を導き出さなくては
ならない。

   
 定義を人間に求めてしまう限り事実には決して近づくことはない。男は
余りにもキェシロフスキ作品的に「不完全な閉ざされた世界」の中をひたすら
彷徨い戸惑い続ける。微かな希望と深い谷底のような絶望を抱きながら。
   
 
  
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『ある党員の履歴書について』に描かれている統制委員会に関する話は、
すべて本当のことである。本物の統制委員会だからだ。この人がうってつけ
だといってとくに選んだ人は一人もいない。いろいろある党の委員会に出かけて
いって、ワルシャワで、もっとも開かれた、もっともリベラルで、もっとも用心深い
統制委員会を紹介してくれるように頼んだだけだ。そしたら、最良だということで
紹介してくれたのが映画に登場する委員会だった。ひどい委員会だ。しかし、
実はわざと最良のものを紹介するように頼んだのだ。最悪の委員会がどれほど
ひどいかわかっていたからだ。最良の委員会でさえ、こんなふうに党員の生活に
口を差しはさみ、党員が何をするのか許されていて、何をするのが許されていない
かを決め、朝食の卵は何分ゆでなければならないか決めるということを示したかっ
たからにほかならない。党員は卵を三分間、ゆでる権利を持っているのだろうか?
 
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(「キェシロフスキの世界」クシシュトフ・キェシロフスキ著 河出書房新社より)
 
 

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