映画「精神の声」
「精神の声」
Духовные голоса
Dukhovnye golosa
Spiritual Voices
監督: アレクサンドル・ソクーロフ
時間: 388分 (6時間28分)
製作年: 1995年/ロシア
(満足度:☆☆☆☆☆+)(5個で満点)
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自国とアフガニスタンとの国境の最前線に配備されるロシア兵士達に密着し、
彼らの日常の"姿"と"精神(こころ)の声"を刻銘に且つエモーショナルに捉えた
ドキュメンタリー。
本作は五話構成(episode Ⅰ~Ⅴ)でごく平凡な、この世界のどこにでもいそうな、
国民の義務としての兵役に就く平凡な男達をカメラは文字通り延々と撮り続ける。
episode Ⅰ: 森・眠り
森の季節の移り変わりをワンシーンのみの第一話。
モーツアルトとベートーベンの曲とナレーション。
ある一人の兵士の夢の中を覗いているようで幻想的。
episode Ⅱ: 行軍
兵士達と一緒に行軍する撮影スタッフ。
撮影スタッフと兵士との間には大きな心の壁がまだある。
episode Ⅲ: 前線
最前線の兵士達のリアルな日常
埃と何も無い退屈な風景と兵達の退屈な日常。
放ったらかしの埃塗れの銃を亀が倒して遊ぶ。
兵士達とカメラの距離感は一気に縮まり彼らの素顔と
本音が荒涼とした風景の中で赤裸に描かれる。
episode Ⅳ: 戦闘・負傷
大規模な戦闘。負傷者。文句を垂れながらも任務を
こなして時に互いに励ましあい反目しあう。
撮影スタッフも怯むことなく闘う彼らを撮り続ける。
episode Ⅴ:山岳地帯での警備
極寒の高地での兵士達。カメラを気にすることなく
語り合い食事を摂り貪るように眠る。
そして最前線にも新年がやってくる。
第一話(ep1)はヒーリング系の音楽や映像が好きな人にはお勧めかもしれない。
本当にコレは戦場の物語なのだろうかと観ていて疑った。
第二話(ep2)では撮影がどことなくぎこちなく感じられた。撮影スタッフが兵士達との
信頼関係はまだ築けず"ただ撮っている"という印象も受けた。
これで上映時間5時間はキツイ。次の休憩で帰ろう。と思ったが何となく"予感"を
感じてしばらく観続けた。
第三話(ep3)から兵士達の描写が急速にこなれてきて兵士達もカメラに向けて
豊かな表情を見せるようになる。
『戦場とは"退屈"に耐える場所である』
という世界共通の認識そのままに何が起こるか判らない。しかし、"いつ起こるか"も
判らない最前線で兵士達は悪ふざけをしたり塹壕を掘り返したりしてその日その日を
やり過ごす。時折出会う美しい自然の風景に畏怖を感じたりしながら。
第四話(ep4)では一気に戦場がすぐ間近に迫る。これまでの退屈感が逆に絶大な
効果を挙げて命の危機が迫る臨場感が観る者を圧倒する。静寂が一瞬にして
破られ煙硝に包まれるその景観の瞬時の代わりようはイラクで命を散らしてしまった
日本人ジャーナリスト橋田信介氏(1942-2004)の言った通りであることに驚く。
戦闘が終わったところで戦争そのものが終わるわけでもなく、英雄になれるわけ
でもなく美女の祝福と抱擁が待っているわけでもなく報奨金が出るわけでもなく、
ただ負傷者を数え、救護し、死者がいないことに僅かに安堵して、呆然と夕陽を眺め
任務を続ける。スクリーンの向こう側の出来事であるに過ぎないのが、同じ釜の飯を
食べているかのような一体感を感じ始めた。映し出される兵士達同様に砂埃が
口の中に容赦なく入ってくるように感じられ喉に乾きを覚えた。
観終わってみれば5時間越えの長さを全く感じさせないとんでもないパワーを
持った作品だ。アレクサンドル・ソクーロフ、凄い才能だ。作品の中にしかない
確固たる何かをしっかりと掴んでいる。
今すぐにでももう一度観たくて観たくて仕方がない。
その全編を瞬きせずに凝視ししたい。
「このスープには"心"が通っている。コックに感謝!」
「コックって誰だよ?」
「全員さ」
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コメント
ランボー3でランボーに蹴散らかされた人たちですね・・・
『映画のテーマであるソ連支配の打倒を正当化するものとして、ランボーを案内するアフガン人による「アフガニスタンは、昔、アレクサンダー大王が、次にチンギスハンが征服を試み、さらにイギリスがやって来て今はソ連だ。でもアフガン人は負けない」やソ連部隊の捕虜となったランボーの上官による「愛国心をもったゲリラがいる国は征服できない。我々はそれをベトナムで体験した」 という台詞、ラストのテロップに「この映画をすべてのアフガン戦士たちに捧げる」という文言が出てくる。』
↑wiki「ランボー3」より
投稿: 万物創造房店主 | 2010年11月 1日 (月) 15時31分
>↑wiki「ランボー3」より
なんかよー判らん解説すね(^^;)
何か、結構前からシルベスタースタローン
可哀相なんですけどね。
ロッキー4くらいまでで表舞台から
消えた方が本人のためだったんじゃないでしょうかね。
絵も凄く上手いらしいですよね。
最近、金持ちでも名声を得た人でも
可哀相な人本当に多いですね。
S・キューブリックの「バリー・リンドン」(1975)
かなり好きな作品ですが、確か冒頭で
「金持ちも貧乏人も最後は全員"平等"に
墓の中」という一文が流れるのですが
"真実"だと思いますね。可哀相な人
(winnerのはずなのに生彩無い人)を見る度に
そう思います。
アレクサンドル・ソクーロフと
タルコフスキーには明確に共通するものが
ありますね。ロシアの広大な大地に何か
秘密がありそうで行ってみたい気がしています。
投稿: kuroneko | 2010年11月 2日 (火) 01時38分