映画「東京裁判」
2009年に見た映画(153) 「東京裁判」
原題名: 東京裁判
監督: 小林正樹
脚本: 小林正樹,小笠原清
時間: 277分 (4時間37分)
製作年: 1983年/日本
2009年 8月鑑賞
(満足度:☆☆☆☆☆)(5個で満点)
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「人間の條件」(1959~1961)六部作、「切腹」(1962)など多くの傑作を
手掛けた名匠小林正樹による渾身のドキュメンタリー作品。「東京裁判」と
呼ばれる極東国際軍事裁判の経過を丁寧に追い、その意味と正当性を
鋭く投げかける。ナレーションは佐藤慶。
当時、懇意にしていた外国人の友人をお誘いして一緒に鑑賞した。
新しい未知の情報の洪水を期待して観に出かけたのだが、内容としては
大体は断片的に知っていた事柄であった。裁判の開始から判決までを
「東京裁判とはいかなるものであったのか」ということを後世にきちんと
"日本人として伝えたい"という気概と使命感に満ちたものを終始激しく感じた。
淡々と展開していく構成に監督の小林正樹をリーダーとした当時の
製作者達の誠実さには観ていて圧倒されるものがあり、その姿勢と
作品を遺してくれたことへの感謝の気持ちが湧いた。
ドキュメンタリーとはいえ脚本というものがきちんとあることからも判る通り
"東京裁判"(極東国際軍事裁判)というのはとても巨大な出来事であり、
本作のような4時間強の超大作といえども当然のことながらその全てを
描くことは不可能である。現存する諸資料と映像から、映画作品として
何に焦点を当て、どのように、何を観る者に訴えかけるかを絞り込む
作業は難航を極めたのではなかろうか。
東京裁判については勝者が敗者を裁き、且つ勝者の犯した罪は裁かれない
ことが問題であるとよく言われていて、自分もその点については異論はないが、
それよりも、いつの時代から見ようとも常識的にみておかしな点が
余りに多い裁判であったということを本作は抑制した怒りとを内に秘めて
訴えている点を大きく評価したい。それは勝者の奢りなぞではなくて、
本来は勝者とは言えない者達が単に勝ち馬に乗った権利を最大限に
利用した傍若無人な凶悪さといったものであり、その捩れた成果の上に
突き進んだ戦後世界の今もって脈々と続いている深刻な問題である。
その捩れを看過して同じく成果のオコボレを頂いてきた我々日本人自身の
身の振りようもまた大いに考えなくてはいけないのは当然である。
本作は1985年に製作された一つのドキュメンタリーということだけの扱いは
我々日本人としてはするべきでなく、中高辺りでの各学年において進級時には
一切の予断を与えずに黙って見せて考えさせるべき作品であり、全国どこでも
いついかなるときでも安価で公開されてしかるべき作品のように思う。
「東京裁判」に戦後社会の日本だけではない国際的な矛盾と欺瞞が
詰まっている。本作はそのことを告発している点において最も評価されてよい
ように思う。過去の出来事について訴えているだけの作品ではなく、この
巨大な出来事から構築される未来の危うさを問うており、その未来が将に
今現在とこれからである。
一緒に鑑賞した友人とはお互いの国家観・歴史観や将来のお互いの国の
関係や有り様について今後も話し合う機会がありそうなので、この長大で且つ
優れたドキュメンタリー作品を観る時間を共有できたことは大変有益なことで
あったと思う。
『東京裁判』(極東国際軍事裁判)については戦後の日本の再出発に
あたっての方向性を決定した超重要事項であるのでそのうち独立した
項目をブログ内で作成して色々と述べていく予定。
全日本人必見の作品。
日本を愛する外国人、日本を知りたい外国人の方々も是非。
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コメント
外国人の友人の鑑賞後の感想はいかがなものだったんでしょう
ちょっと気になります
投稿: 万物創造房店主 | 2010年11月25日 (木) 15時22分
そうですね。
私も凄く楽しみにして、鑑賞後に
聞いてみたのですが、かなり日本が
好きでまた日本史も詳しい方なので
「大体ハ知ッテイマシタ」
という回答でした。
でも書いた通り、ある主張をしている
作品を一緒に観たという事は大事ですね。
とりあえず、この方は日本人の映画館での
マナーの良さに驚嘆していました。
私から言わせると中高年共のマナーの
悪さは最低なのですが。
幾つか古い邦画を一緒に観たのですが
日本をより良く理解する手助けは少しは
出来たと思います。
投稿: kuroneko | 2010年11月27日 (土) 01時58分