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2011年2月26日 (土)

映画「戦場でワルツを」

2009年に見た映画(167) 「戦場でワルツを」

原題名: WALTZ WITH BASHIR
監督: アリ・フォルマン
美術: ディビッド・ポロンスキー
音楽: マックス・リヒター
アニメーション: ヨニ・グッドマン

時間: 90分 (1時間30分)
製作年: 2008年/イスラエル・ドイツ・フランス・アメリカ

2009年12月鑑賞
(満足度:☆☆☆+)(5個で満点)

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21世紀に入って数年が過ぎたある日、アリは兵役時代を共にした友人と会い、
自分に戦場での記憶が欠落している事に気付く。友人達や医師等を頼りに
して記憶を辿っていくと、やがてアリは19才の時に兵士の一人として大虐殺の
現場にいたことを思い出す。1982年にベイルートの難民キャンプで実際に起きた
サブラ・シャティーラ虐殺事件にイスラエル兵士として携わった本作の監督である
アリ・フォルマンの実体験に基づいた異色のアニメーション作品。

 

スタイリッシュな映像と極めてジャーナリスティックな題材の融合という
ことで大変な評判となり、公開終了間際に観に行ったにも関らず、劇場は
それなりに活況であった。

始まってすぐに嫌な感じを受けた。紙芝居か切り絵のようなギコチない
動きの登場人物達と透明感のある配色。行き着く所まで到達した感の
ある日本のアニメーションやCGを駆使したハリウッド製の3Dアニメとは
一線を画しているようで、残念ながら「一線を画しているようで」しかない
という印象を最後まで払拭できなかった。

アニメーションであることのフィクション性を存分に活用して、物質至上主義
の世界で人殺しを国際社会の仕組みとして肯定している世の人々の
欺瞞を存分に告発して、実際に起きた虐殺についてもひたすらリアリティを
追求しても良いし、超現実的なシュールリアリズム的表現に走っても
良かったが、どちらでもないように感じた。「我々も表現する"ツール"を手に
入れたのだ」という強い"内向き"な高揚感が描いている物語を凌駕して
しまっている。音楽も映像も極めて芸術的に高いがゆえに、実際に起きた
大量殺戮事件を扱っている意味は残念ながら薄まざるを得ない。ただ
そこに残るのは美しい映像と音楽で詰まったアカデミックな「何か」に
自分も触れたのだという優越感に満たされた人々だけではないのだろうか。

90分は自分にとってはとてつもなく長かった。最後の最後で監督がぶちまけ
たい事であろう「その事」がようやくにして見えてくるが、根拠も正当性も
無い無意味な殺人を描いているのだから、さっさとそして延々と観客が
嫌になって劇場を出たくなるほどにほどぶちまけて欲しかった。事態に対して
無関心であることが全ての問題を引き起こしているのだということが、
恐らくは無意識であろうが強烈に"内向きな優越感"とでも呼ぶべき作用を
働かせているこの作品を観ていることこそがそもそも、外の世界に対して
無関心であることなのだと気付いた。それはきっと監督の意図ではないだろう。

監督が主張したかった事とこの作品から人々が受ける放射線のような
パワーとは乖離が大きく観ていて時間がとても長く感じたのはこの乖離は
決定的で到底埋まりそうもないと感じたからで実際に"自分にとっては"埋まらな
かった。実写で撮るべき内容の作品ではなかっただろうか。それか、アプローチの
方法を根底から全く別の違う次元で行うべきはなかっただろうか。
どうも、そう思う。

 
 

[サブラ・シャティーラ虐殺事件]
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ベイルートの西に位置するサブラ難民キャンプ、シャティーラ難民キャンプで
1982年9月16日頃から三日間に渡って民兵組織「ファランヘ党」によって
パレスチナ住民に対して行われた虐殺事件。1000人以上が犠牲になったとされる。
その多くが女性や老人、子供だったとも。両難民キャンプは地中海に突き出た
半島状の地形に位置し、当時ベイルートに侵攻していたイスラエル軍によって
両キャンプは厳重に包囲され住民が閉じ込められた状態で事件は起こった。
イスラエル軍はこの虐殺を黙認したとされ内外から非難を浴びた。
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