映画「炎上」
2009年に見た映画(168) 「炎上」
原題名: 炎上
監督: 市川崑
撮影: 宮川一夫
美術: 西岡善信
出演: 市川雷蔵,中村鴈治郎,仲代達矢,北林谷栄,中村玉緒,真珠美千代
時間: 99分 (1時間39分)
製作年: 1958年/日本
2009年 12月鑑賞
(満足度:☆☆☆☆)(5個で満点)
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青年・溝口(市川雷蔵)は住職の息子として生まれたが父の世渡り下手のために
寺は人手に渡ってしまう。父の友人の寺に預けられるがひどいドモリで父
譲りの世渡り下手もあって孤立を深めていく。唯一の心の拠り所は預けられた
寺の一角にある駿閣寺を日々独りで眺め掃除し清めることだった。やがて、
精神的に追い詰められた溝口の行動は常軌を逸していく。。
原作は三島由紀夫の「金閣寺」。
タイトルデザインが言葉の意味そのままになっていて単純だけどカッコいい。
三島由紀夫の小説「金閣寺」は金閣寺に惚れこむあまりにその"完全なる姿"は
自らの内なる心にしかない(よって現実社会のそれは消失させねばならない)という
結論に達した青年の心の軌跡をシームレスに描いた世界的に著名な作品で自分も
昔読んでそのシメントリー的で端正な文章にひどく関心したが、本作で描かれる
主人公の凶行への動機はそれとはだいぶ異なる。これは原作と同じアプローチを
しても勝てないと判断した監督の意向が大きいようだが賢明な判断だったと
言えるかもしれない。
主役の市川雷蔵以外で本作とほとんど同じスタッフ・キャストによって
テーマも根底において似てると言える「鍵」(1959と見比べると大変面白い。
完成度が極めて高く、知名度の高い原作を持つ本作に比べて
市川崑・宮川一夫コンビは「鍵」の方が伸び伸び撮っているように
思われる。
天才の名を欲しいままにする宮川一夫による撮影は「鍵」でも素晴らしい出来映え
だが本作では駿閣寺を捉えたシーンや主人公の父子が岸壁に佇むシーン、
溝口とその悪友を怪演する仲代達矢との何気ない校庭での会話のシーン
等々で存分に創意工夫を凝らしていて細部まで凝視して見るのが楽しくて
仕方が無い。
・原作との違いを単純に比較して楽しむ。
(根本的に異なるので比較そのものは無理だが)
・43才の壮年期の体力・気力に余裕のある"若き"市川崑の演出を楽しむ
・宮川一夫等の「巧(たくみ)」を愉しむ。
・20代後半の若き市川雷蔵の俳優として生きようとする意地を楽しむ。
(市川雷蔵は本作での迫真の演技により演技派としての地歩を固めた)
・名優中村鴈治郎の余裕と貫禄ある演技と市川&雷蔵とのコラボを楽しむ。
・仲代達矢、真珠美千代等の「その後の時代のエース」となる人々の
若い時代の演技を楽しむ。
・製作年代の1950年代後半という戦争が遠いものとなり、同時に60年代に
向けて"爆発"していく直前の日本の姿を見て楽しむ。
楽しみ方が実に多彩なお得な作品であると言える。
また忘れた頃にふと観てみたい。そんな作品。
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