映画「切られ与三郎」
2009年に見た映画(170) 「切られ与三郎」
原題名: 切られ与三郎
監督・脚本: 伊藤大輔
撮影: 宮川一夫
美術: 西岡善信
出演: 市川雷蔵,淡路恵子,冨士眞奈美,中村玉緒
時間: 95分 (1時間35分)
製作年: 1960年/日本
2009年12月鑑賞
(満足度:☆☆☆☆☆)(5個で満点)
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「時代劇の父」と呼ばれる名匠伊藤大輔と一流のスタッフによる
"美しすぎる"時代劇。
恐らくは「御用提灯」が世界一美しく描かれた映画。
御用提灯という和の世界のマテリアルについて"世界一"というのもおかしい
かもしれないが、忠臣蔵がガイジン主演でハリウッドで製作されてしまう時代と
なった今では不自然でもない気もする。
"見せる"ことによって内に秘める何かを表現するということこそが映画であるが
見せることそのもの、ワンカット、ワンカットがそのまま表現自体であるという
作品もまた存在しているのでり本作は後者に属する。市川雷蔵が演じる与三郎と
共に薄幸な人生を辿る女性達、小気味良い殺陣、細部まで見逃せない美術、
陣頭指揮を執る監督の伊藤大輔の下、宮川一夫、西岡善信という邦画の至宝達、
俳優達、関る人間の全てがフィルムに焼き付けられた映像そのものの為にのみ
存在している奇蹟にただひたすらに酔う。
撮影の宮川一夫は近年は再評価に次ぐ再評価で都下では毎年のようにどこかで
特集上映がされるほどに知名度も上がっているようで我が事のように嬉しい。
美術監督の西岡善信とも組んだ仕事も多くいずれも見ないと人生の損と言える
秀作揃いだ。
「炎上」(1958 監督:市川崑)
「刺青」(1966 監督:増村保造)
西岡善信については観た作品の中では
「雁の寺」(1962 監督:川島雄三)
が個人的には印象深い。
その長大なフィルモグラフィーは「映画人」の名に相応しい。
最近の作品では
「たそがれ清兵衛」(2002 監督:山田洋二)
「隠し剣 鬼の爪」(2004 監督:山田洋二)
など。
本作を監督している伊藤大輔の作品では
「下郎の首」(1955)が非情に徹した結末と実験的精神にも溢れる
大傑作で大好きであるが、映画としての器的な完成度では本作が
"完璧"といってもいいと思う。「幕末」(1970)は氏の遺作であるが
豪華絢爛で実力も豊かな出演陣やスタッフの頑張りにも関らず
"時代の地盤沈下"に抗する哀しさが映画そのものの出来とは別の
次元で感じられる。
本作もまた出会えたことに、製作に関った全ての人々に
ただただ感謝するのみ。本作のような完成度の極めて高い
「総合芸術作品」が定期的に劇場で公開されて誰でも気軽に
観れる世界はきっとより良い世界に違いないと信じる。
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