映画「チチカット・フォーリーズ」
2010年に見た映画(五) 「チチカット・フォーリーズ」
原題名: Titicut Follies
監督: フレデリック・ワイズマン
時間: 84分 (1時間24分)
製作年: 1967年/アメリカ
2010年 1月鑑賞
(満足度:☆☆☆☆)(5個で満点)
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アメリカのマサチューセッッツ州にある精神異常者のための州立刑務所の
矯正院の日常を追ったドキュメンタリー。合衆国裁判所により、一般上映が
唯一禁止された作品。長年の裁判を経て91年に上映が許可された。
一日中全裸でスキップを踏む男(映像で陰部のボカシ無し)、陰謀論を
唱える男、どう見ても異常が無い普通の男(!)など収監されている様々な
人間が登場する。カメラに向かって収監されていることに激しい異議を
唱える若い男が哀れではあるが思わず苦笑。「システムによる犠牲者」
というやつで多分、何かしらの犯罪を犯してしまったかもしれないが本当に
何も異常が無いのだろう。言っている事にも筋が通っており、異議の
申し立ても「精神異常で収監されている」という点においてときちんと
自分でフォーカスできていた。この男は興奮気味だから薬を投与して
落ち着かせようというような一見真っ当な判断が下されどこかに連れて
いかれてしまうが、『理由が無いのに収監されている』のだから興奮して
当たり前だろう。
一般生活に支障が来たす人間を収容しているのだから、変な人間達が
出てくるのは当たり前であるが、大変興味深かったのはその変な人間達を
デリカシーも専門知識も皆無で対応する管理側の人間の無神経さだ。
プライベートな質問に対して拒否する社会的な教養を持たない人間に
ずけずけと聞かなくてもよい質問をして何とも思わない。動物同然に
"檻"の中に閉じ込めておいても「コイツはどうせ頭がおかしいから」と
何一つ自分達のしていることに疑問を思わない。上映後に映画評論家の
佐藤忠男の短いトークショーがあり「大変ショッキング」と評していたが
自分には特にショッキングだとは思わなかった。時代はまだ呑気な60年代で
精神異常とはそもそも何なのか?異常ではないとはどういった状態を指すか?
どの段階の状態の人間にどのような知識と技術を持った人間を配置すべきか?
そういったデータベースや対応そのものがまだまだ整っていなかった
時代のフレデリック・ワイズマンという「未整備の状態である現状」だと
いう位置を理解している良識ある人間によって残された貴重な記録であると思う。
公開されなかった理由は内容からし明らかに
「堀の中の人間は外の人間と大差が無く、管理されている人間より寧ろ
している人間達の粗暴さに大きな問題がある」
という点ではなかろうか。いつの時代でも往々にして真実や事実は
ほとんどの人間には厄介で、意外で、理解し難く、関りたくない"何か"
であろう。2010年の今も60年代からの数限り無い厄介事を人類は経験して
きたが全体としてはほとんど何も身動きとれない事に変わりなく、状況は
逆に悪化しているとすら言えるのは我々日本人はここ数ヶ月で身を持って
体験し、今も体験中でお試し中で、大キャンペーン中であり、世界の"眼"は
同情から失笑・失望に変わり、あともう少しで非難・軽蔑に変わっていって
しまうことだろう。
相手が欠陥を持っている人間だから(という思い込み)
=>自分とはまるで違うから
=>泣こうが喚こうが自分には関係ない、自分は関与しない、自分が
原因ではない
という尤もらしいが激しく間違っているシステムが
ベトナム戦争にそのまま適用され、"管理する側"の人間達は
ベトナム人を"管理してあげよう"と勇んで出かけて行く。。
『異常』とは?
管理する側とされる側の双方の権利は?責任は?
その全ての法的な根拠は?
科学的な根拠は?
本作は中学生以下ではまだ何事かを判断するのは難しいと思うが、
高校生・大学生くらいで観て考えるには大変優れた教材ではないだろうか。
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コメント
日本では家族の要望があればいくらでも収監できてしまうようで
過去には財産相続にからむ兄弟排除のために精神病院に強制的に収監させたことが明るみになったことがあるようです
こういう監獄も必要悪であるとは思うのですが、どこからどこまでを閉じ込めるのかは難しいですね
人権意識が高過ぎるために、人殺しを平気で行う異常者も隔離できない現状もどうかと思いますし
投稿: 万物創造房店主 | 2011年6月23日 (木) 17時41分
太宰治も
精神病で"入院させられた"事が
後々までショックで自殺の遠因にも
なっていますね。
師として尊敬してやまない井伏鱒二にも
精神を疑われてしまったことが相当に
堪えたらしいです。
>人権意識が高過ぎるために
私は国内における
「人権」
「平和」
という言葉は完全に地に堕ちた
と思っています。この二つの言葉を
再現なく使って揺り籠から墓場まで
暴利を貪る人間がどれほどいることか。
どれほど日本の名誉を汚し、
国政を損ない、経済活動を停滞させ、
国防すら危機に陥れていることか、、
天皇の伺い知れないところで天皇の名の
下に内外の民に暴虐の限りを尽くした
無知無能の輩と上記の言葉を悪戯に
弄んで権力を貪る輩は同一だと思います。
両者の根っこはごく特定の勢力に行き当たる
ようにも思いますね。
投稿: kuroneko | 2011年6月24日 (金) 00時13分