映画「殺陣師段平」
2010年に見た映画(十) 「殺陣師段平」
原題名: 殺陣師段平
監督: 瑞穂春海
脚色: 黒澤明
撮影: 今井ひろし
美術: 加藤茂
出演: 市川雷蔵,中村鴈治郎,田中絹代,高田美和
時間: 86分 (1時間26分)
製作年: 1962年/日本 大映
2010年 2月鑑賞
(満足度:☆☆☆☆☆)(5個で満点)
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生涯を舞台の"殺陣"に費やした男、市川段平(中村鴈治郎)と
観客の求めるニーズと自らの定め求める「芸術」の方向性との
間で葛藤する男、沢田(市川雷蔵)。段平は時代の変化に追いつけず、
沢田からも見放されるが自分の信じる世界を決して捨てようとしない。
興行的な成功を収め名声を得つつも沢田は次第に段平の事を
思うようになる。。
市川雷蔵31歳、 中村鴈治郎60歳の時の作品。この二人は共演が妙に
多いのだが、市川崑の秀作「炎上」(1958)では、中村鴈治郎にいいように
あしらわれ続ける"ドモリ"の学生を雷蔵は大熱演している。それから
4年の歳月が流れて迎えた本作であるが、その歳月は10年もあったろうか
確かな結実振りを二人は見せていて、役柄も有り余る若さと才能を武器に
成り上がろうとする沢田と、年齢からの衰えと時代の変化という二重の波に
翻弄される憐れな初老の"殺陣師"段平という「炎上」の時とは立場の逆転
とでもいうべき関係なのだが、物語上の立場の変化に対して、世代の大きく
異なる二人の演技合戦をただひたすら楽しんだ。表面上からは、共演の
多い二人がどのような心持ちで本作に臨んだのかは判らないのだが、
何となくではあるが、中村鴈治郎は段平同様にまだまだ後進に道を
譲るわけにはいかんという気迫の下に演じ、かたや俊英の沢田を演じた
市川雷蔵からは沢田という役柄上の男のキャラクターとは異なり
先輩俳優への敬意を感じ取ったのだがどうだろうか。
最終的には二人共時代の彼方に放逐されるであろう沢田と段平。
沢田は心のどこかで自分の才能の限界に気付いていたであろうが
"新しい時代を生きてるという"という根拠の無い奢りが湧き起こり
続けており、段平は時代やニーズなど一切関係なく己の殺陣に
誇りを持っていき続ける。黒澤明が脚色した明確な二人の人生哲学
と距離感が市川雷蔵と中村鴈治郎という幾百の俳優達からすれば
大きなアドバンテージを持って生まれ、出演作と製作スタッフにも
恵まれたはずの彼等が共に源流は歌舞伎界にあり生まれ出た
境遇と時代という運命から映画の世界に流れてきたという履歴を
強く意識していたことは間違いなく、その演技の一つか二つ下に
ある無意識の行動様式がこの作品の登場人物達のキャラクターに
厚みを与えているような気がして勝手に大いに楽しんだ。
病床においてなお己の殺陣に夢中になって木刀を振る段平と
その心意気の大切さを悟らされたであろう沢田。涙を誘うクライマックス
においてなお段平と沢田の二人と中村鴈治郎と市川雷蔵の二人の
二重性の色彩としての鮮やかさは絵描きを志した黒澤明の脚色と
結びつけるのは都合良過ぎか。
人生は勘違いの連続で成り立っていて双方が同意した上での、
それが例え師弟の関係であったとしても、同じ人間としてどちらが
どちらから本当に学んだのかは、当事者達にも後世の人間にも
判らない。何もかもが判らない。しかし、表面上からは伺いしれない
当事者達にしか判らない明文化しようもない合意事項や相互理解
の感情のようなものは消えてしまうが不変のものかもしれない。
市川雷蔵と中村鴈治郎という二人の人生の交差が本作を格段に
面白いものにしている。個人的には中村鴈治郎が出演している
作品の中では本作は他を引き離して好きである。笑えて、少し泣けて、
集団作業としての映画としての出来映えも大変良い。
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コメント
先日の映画サミット「片腕ナイト」で
「片腕必殺剣」のジミーウォン演じる剣士が香港時より座頭市に出ているときの方が殺陣が数倍かっこよくて
日本の殺陣師・斬られ役のすばらしさを再確認したのですが
どうやら「水戸黄門」が今期で打ち切りらしく
レギュラーな番組としての時代劇はもうなくなってしまうようです
今後、時代劇を作り上げられる優秀なスタッフがきちんと残っていく(育っていく)のかどうかが気になります
投稿: 万物創造房店主 | 2011年7月16日 (土) 18時57分
>「水戸黄門」が今期で打ち切り
たま~にチラ見していましたが、
正直言って"痛い番組"という感じは
否めませんでした。残念ではありますが
終わるべき番組だと思います。
テレビはよほどの幸運に恵まれないと
実績のある、または将来性のあるスタッフを
抱えての番組制作はもう無理だと思います。
殺陣に関しても演出家・監督・美術や
現場に関しても、やはりお金(=権力)と
センスの"両方"を兼ね揃えた人間が
出現するか、その人間を見出す人が
やはり出現する以外に改善の余地は
無いと思います。
ただひたすらに映画を観て、その面白さ・
素晴らしさを少しでも伝えて、もしも
自分がサクセスしたら、世の才能ある人々
に投資したいと思います。もしも、、
滅茶苦茶にサクセス出来たら自分も、
その中の一員と成りたいものですね
( ̄ー+ ̄)
きちんと才能ある奴に金と時間をあげようぜ!!
みんな!きっと面白い物を作って我々を
楽しませてくれるはず(^0^)/
投稿: kuroneko | 2011年7月17日 (日) 00時14分
>正直言って"痛い番組"
まぁキャストの決め方すら、コネだけっぽくて痛かったですからねー
スタッフ・キャストの滞留腐敗状態ですね
コネでそれなりに有名なわりに安いギャラで出てもらえたのかもしれませんけど
金ないならないで新人使えよ!
脚本も変な風に新しくしちゃって、よけいつまらなくなって
特に、助さん・角さん・由美かおるの後がアレな時点でトドメでしたね
そういや
NHKの「ごう」もやはりクズですな
こっちは金かけてるだけに、もっと痛い
受信料返せ!
秀吉が子供が死んで気が狂ったから朝鮮出兵したとか
ありえねー
小学生レベルの歴史解釈
時代考証どうなってんだよー
今は江戸時代までは鼻塚と呼ばれていたはずの耳塚が、耳塚として出てこないか期待しております
今はNHK琉球王朝ドラマ「テンペスト」にちょっと期待してるんですけど
第一回見逃しまして再放送待ちです
投稿: 万物創造房店主 | 2011年7月18日 (月) 18時03分
>スタッフ・キャストの滞留腐敗状態ですね
今の日本はテレビも映画もアニメも
政治も経済も教育の世界も何もかもが
コネと規定路線で縛られているか、その逆の
若造か独裁者の勝手気ままの独断専行の
どちらかに覆われていることが最大唯一の
問題ですね。
『なでしこジャパンの優勝』がその腐った
スキームを破棄させてくれるきっかけになって
欲しいものです。
>金ないならないで新人使えよ!
金無いから知り合いのベテラン頼んで
新人発掘費用も、若手の教育費用も、
全カットって。。(ーー;)
そういうモロモロを「日本」として捉えちゃって
「そんな日本は終わればいい」って
今の与党とか支持とかしちゃったりなんかしてー
その時の気分で何となく仕分けとかしてみたりしてー
っっっ情けねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!(゚д゚)
>NHKの「ごう」
「江」じゃなくて郷ひろみとか出ちゃって
主演にしちゃったりして
「郷」にしても誰も何も違和感も持たず、
抗議も出ないんじゃないすかねー(^^;)
私の予想通り脚本家がダメダメでしたね。
現場や役者が可哀相です。
宮澤りえちゃんはエロくていいすねー
何だか知らないけどエロイ。
↑酔っ払いオヤジ
私は来年の大河「平清盛」に今から
一点張りです( ̄ー+ ̄)
「新選組!」(2004)かそれ以上に
楽しめるはず!
キャスト凄すぎっす。
期待◎!!
さーて年内位には地デジ化するかなー
それまでの受信料止めろや!!
(゚д゚メ)
投稿: kuroneko | 2011年7月18日 (月) 21時34分