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2011年7月 3日 (日)

映画「THIS IS ENGLAND」

「THIS IS ENGLAND」
This Is England


監督: シェーン・メドウズ
脚本: シェーン・メドウズ
撮影: ダニー・コーエン
編集: クリス・ワイアット
音楽: ルドヴィコ・エイナウデイ
プロダクションデザイン: マーク・リーズ
衣装デザイン: ジョー・トンプソン
出演: トーマス・ターグス,ジョー・ギルガン,スティーブン・グラハム,アンドリュー・シム,ヴィッキー・マクルア

時間: 102分 (1時間42分)
製作年: 2006年/イギリス
 
(満足度:☆☆☆☆☆)(5個で満点)
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フォークランド紛争が混迷の度を増していた1983年。
時代遅れのベルボトムを履いている父親のいない背の低い少年ショーン
(トーマス・ターグス)はいつも苛められていた。ある日、いつものように苛められて
学校帰りをトボトボと歩いていると仲間と楽しそうにつるむ青年ウディ(ジョー・ギルガン)
と知り合い仲間に入れてもらう。それは少年ショーンにとって人生の最初で最大の
転機となる運命の出会いだった。ウディとその仲間達との付き合いの中で精神的に
急速に成長していくショーンだったが刑務所から出所してきたばかりのウディの
悪友コンボと出会うことでショーンの運命はあらぬ方向へ向かう。。

 

前半のテンポの良さは抜群に素晴らしく"映画的"であり後半は物語としてとても
痛い展開であるが、後半の目を覆いたくなるような"心の痛い"展開の方こそ監督が
言いたいころであり見せたいことなのだろう。それこそ"THIS IS ENGLAND"だと。
しかし、この映画は世界中のどこにでもある"世界そのもの"(平和を叫び、
ナショナリズムを叫び、人種差別を否定しつつ、常にその逆に向きかねない思考の
日常)を描いていて登場人物達は"若者の全て"と言ってもいい。そのキャラの
立ちっぷりは半端ない。

ジョー・ギルガン演じるショーンの「精神的な父親役」を買って出るウディのキャラクター
造形が素晴らしく自分はショーンのような人間が大好きだ。ガキ大将であるが、常に
「皆」が楽しんでいるかどうか気にかけている。そして何よりも自分がリラックスして
愉しむのが大好きな男。そんなウディの周りにはいつも欠点だらけだが皆と一緒に
いることを何より大切にする普通の少年少女達がつるんでいる。

ウディはショーンの抱える孤独をほぼ完全に理解し、同じ目線に立ち、同じ馬鹿な
ことをして自分と同じ服をショーンに着せてやる。それはショーンの年頃では場合に
よっては自分の命よりも大切な一生に何度も出会えない『サムシング』であろう。

その『サムシング』を完璧に描き切る前半ですでに本作は伝説の作品となる。
そして、世界中のどんな宝石よりも光を強烈に放つ、短くて未熟な『青春時代』という
時は、コンボという外界を生き抜いた代償として、心が修復できない亀裂に
蝕まれている哀しい男によって、少年少女達は
逃げるのか
従うのか
迎合するのか
立ち向かうのか
の選択を迫られる。
つまり、それは、打算のみで生きる大人になるという儀式でもあった。

ショーンはなぜ暴君コンボに着いていったのか、父親をフォークランド紛争で
亡くしたからという表面的な理由付けは簡単だが、本当の動機はショーンにも
きっとよく判らないだろう。ショーン以外の、ショーンより年上の少年少女の動機は
簡単だ。その場その場でコンボに合わせたり非難したりそしらぬ顔をしたりする。

主人公ショーンを除く者達には「ウディに付くのかコンボに付くのか、自分か
それ以外」しか選択肢は無く、ショーンだけがウディでもコンボでもない"その先"を
最初は無自覚に、後半は深く自覚して生きていくようになる。

ショーンという少年は謎で魅力的でトーマス・ターグスは奇跡的なまでに
適確に演じているが現実にはなかなかいないキャラクターでもあると思う。
他の登場人物は何かしら「近くにこんな人いるわー」と共感を持たせられる
キャラ設定に恐らくは意図的にしていると思う。ショーンの次に"いそうでいない"
キャラとしてはウディであるが、自分はウディのような青年にもコンボのような
危険な男にも自分は出会ったことがある。どちらともつるむことは良くも悪くも
出来なかったが。

イギリスの国はある意味日本よりも病んでいるのだろう。しかし、
本作「THIS IS ENGLAND」や「トレイン・スポッティング」(1996)が生まれてくる国なんだ。

日本はもしかしたらそれほど病んでいない代償として、面白い青春映画も
活きのいい役者もなかなか出てこないのかもしれない。しかし骨身に染み
こんでいた総中流意識・画一化といったものも震災と、その後に
延々と続く大人災が過去の物として押し流し、皮肉にも"それ"を変えること
になるのかもしれない。

音楽最高。サントラあれば絶対買おう。(といいつつ例によってまだ買っていない)
ゼロ年代の優れた作品の一つであることは間違いないだろう。
10代のうちに観ておくとよく"キク"だろう。きっと。映画館で観れたことに感謝。

 

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