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2011年10月15日 (土)

映画「ストーカー」

「ストーカー」
СТАЛКЕР
STALKER

監督: アンドレイ・タルコフスキー
脚本: アルカージー・ストルガツキー、ボリス・ストルガツキー
撮影: アレクサンドル・クニャジンスキー
音楽: エドゥアルド・アルテミエフ
美術: アンドレイ・タルコフスキー
出演: アレクサンドル・カイダノフスキー,アナトリー・ソロニーツィン,ニコライ・グリニコ

時間: 163分 (2時間43分)
製作年: 1979年/ソビエト

(満足度:☆☆☆☆☆)(5個で満点)
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 軍隊が突入し、全滅したと言われる謎のエリア『ゾーン』への案内人
"ストーカー"(アレクサンドル・カイダノフスキー)は作家と老学者をガイドする
ことにした。『ゾーン』では同じ道を戻ることは決して出来ずに進む方向も
自分達の意思で決めることは出来ない。三人は何度も仲違いしながらも
遂に『ゾーン』の中枢に辿り着くが。。
 
  序盤の軍VS『ゾーン』の戦闘シーン?こそ「何だか普通の映画っぽい」
と偉そうに思いながら観ていたものの、中盤からは

"意志を持つ何が確かにそこにいる"

ような恐ろしい雰囲気全開の描写にグイグイと引き込まれ、後半は瞳孔を
開くようにして瞬きもせずに観た。

 タルコフスキーの「惑星ソラリス」(1972)、「ノスタルジア」(1983)、などの
諸作品やヴィターリー・カネフスキーの三部作、古くはジガ・ヴェルトフ
エイゼン・シュタイン、近年ではアレクサンドル・ソクーロフもそうだが、
ロシア映画には尽く人間を窒息死させるほどに覆い尽くす『何か』(ゾーン?)
が常に描かれていて、彼ら偉大なる映画人はその『何か』に翻弄される
人間達をフィルムに焼き付けてきた。

 何百万人を死地に陥れ、今も陥れている人間の脳と人生を狂わせる
凶悪極まりない思想や行動様式もこの『何か』が幼稚で未熟な人間に
吹き込んで弄んでいるだけのようにも感じられる。本作はその『何か』
そのものが"主役"である奇妙な作品だ。聡明で潔いタルコフスキーは
人間と位相が異なる『何か』を捉えようとすること"だけ"を描くという解を
きちんと示している。

 『何か』をきちんと捉えようとしたら最早、人間が作った機械では捉える
ことは出来ない。なぜなら人間が作った機械で補足できる全ての情報は
我々が我々の作ったルールの内側において"認識できた物"という矮小化
しデフォルメ化した記号に過ぎないからだ。タルコフスキーは本作でその
ことを「報告」しているに過ぎない。まるで学術論文のような作品でもある。
『ゾーン』があることを認識し、棲息領域を特定し、人類として出来る限り
接近し、接近することで自分達に起こった不可解極まる現象を冷厳に観察
し、その事象から『ゾーン』の正体を推測しようとするレポートが本作なの
だと思う。

 "他者"への殺戮と略奪と破壊、その殺戮・略奪・破壊により得た物を
自分の縁者に分配することで命を存える。その事以外何一つできない
愚かなる恐らくは遺伝子の突然変異体である人間。その人間が持つ
「後ろめたさ」を凝縮した"信仰"という『何か』。その信仰の一種を描いた
作品でもあるのだろう。見えない者には見えず、見える者には見える。
見えない者には何も存在せず、見える者には敢然と在り続ける。

 人間は人間の理解できた範囲以外何一つ認識できない。見える物
は全て理解できた物でしかない。 How?(どのようにして) は観察と分析に
より説明できるが Why?(なぜ) には決して我々は答えることは出来ない。
Why?説明できるとしたらそれは嘘かHow?の変則的な説明でしかない。

 『在る』(Sein)ということに人間は畏怖し、平伏し、動揺し、混乱し、
認めない者を問答無用に殺戮する以外に手段を持っていない。今も。
残念ながらこれからも。

 台詞の全部が詩のようである。というか詩である。是非シナリオを
入手したい作品。

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