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2011年12月 3日 (土)

映画「海の沈黙」

「海の沈黙」
Le Silence de la mer
The Silence of the Sea

原作: ヴェルコール
監督: ジャン=ピエール・メルヴィル
脚本: ジャン=ピエール・メルヴィル
撮影: アンリ・ドカ (アンリ・ドカエ)
音楽: エドガー・ビショフ
編集: ジャン=ピエール・メルヴィル,アンリ・ドカ
出演: ハワード・ヴェルノン,ニコル・ステファーヌ,ジャン=マリ・ロバン

時間: 86分 (1時間26分)
製作年: 1947年/フランス

(満足度:☆☆☆☆☆)(5個で満点)
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 ナチス・ドイツの占領下におかれたフランスのとある地方都市。
老人と姪の二人にとって、ただ唯一残された『抵抗』は、日を境に
一方的に下宿人となったナチス将校の男を毎日ひたすら"無視"し、
自分達以外誰もいないように振舞うことだった。そんな二人に
対して、徹底的に無視されていることをまるで意に介さない風を
装い、朝晩の挨拶をし、二人に向かって話し続ける男であったが、、

 

 前半はパーフェクトの出来。将校の男のどこまでも"礼儀正しい
厚かましさ"に次第に自分達の人間としての善なる心を巧に、狡猾に
突き動かされ、心を開かざるを得ない二人の葛藤にひたすら胸が
詰まる展開が続く。まるでお互いにノックアウトを狙わなずに心理戦で
静かにラウンドを重ねていくボクシングの試合を観ているかのよう。

 後半は、このド厚かましいとも思える将校が実は、
『本当にフランス文化を愛している』
ことを自覚し、自らのナチスの将校という立場の存在意義の無意味さ
と罪深さを知ることになるのだが、はっきりいって"ウブ"というもの
であろうと思ってしまった自分の方が"悪"なのであろうか。

 作品の時代背景の当時、消去法的に良かれと思いつつ占領を受け
入れながら、ナチが力を入れたであろう人間の行動様式を充分に研究
した上での「精神面への執拗な暴力」に徹底的に欺かれ、財産も命も
奪われた人々は相当数いたのだろうが、逆に本作に描かれているような
ドイツ将校のような男はただの一人でもいたのかと訝しくなってしまう。

 所謂、「ナチ物」の一作品とすれば、本作は他を大きく引き離して
暫定一位の作品ではある。どんな人間にも少なからず入っているはずの
稀少なSomethingを描こうとしている。その大事なSomethingに気付かずに
観たような気もして、もう一度観返したい。出来れば劇場で。

 「残酷な命令に従わない兵士は美しい」

パラドックス性を秘めた言葉だ。
我々の認知し関与するほとんど何もかもが我々が自らの手で犯している
事であり、その何と愚かしくて素晴らしいことか。

 ごく近い将来の、あるいは現在の日本を描写している作品でもある。
気がつきましょう。手遅れにならないうちに。手遅れになったとしても。
「強姦」はどんなに弁解しようが、「強姦」に過ぎないということを。

人間は残酷で、不寛容で、意地汚くて、人生は過酷だ。
映画は残酷で、稀に美しくて、我々の世界を映す鏡だ。

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